34……一日一回リト以外
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
そうして2人の生活は始まりを告げる.
リトと過ごす内に,村の人とも仲良くなり,彼女の世界は少しずつ広がり始め――
♪
三時間目の終わり、正午のチャイムが鳴るやいなや、教室は歓声に包まれる。けれど慣れたもので、先生が視線を日直に向ければ、日直は喧騒を割るように「きりーつ!」と声を上げる。
家の手伝いがある子は残念な顔で帰宅し、そうでない子は、一度帰ってから集まる約束をするか、持参した昼食をとってそのまま遊ぶかに分かれる。
「ファナちゃんっ」
クラスメイトの女の子、ノエルが藍色の髪を揺らしながら駆け寄ってきた。
竜のしっぽと首を傾げたファナを見て、ノエルはえへへと微笑み、
「一緒にご飯食べよっ」
♪♪
「あっ――リトっ」
教室を出たところで、保護者代わりの少年を見つけて、ファナは声を上げた。
「ご飯の匂いがする!」
傍で立ち止まったリトに、ファナがしっぽをぱたぱたさせた。鼻が利くなぁとリトは内心で笑いながら、手にしていた紙袋の一方を渡す。
「ほら、ファナの分。さっき買ってきたんだ」
学校は八時半に始まり、休憩を挟みつつ、三つの授業が行われる。リトが持っている授業は一時間目と二時間目。空いた三時間目の間に村のパン屋まで往復してきたのだった。
「ありがとリトっ。あ、あのね……ノエルが一緒に食べよって! それでそれで、お昼からクラスのみんなが一緒に遊ぼって――」
歳が近い友達がいっぱいできたことがよほど嬉しかったらしく、ファナはいつにも増して明るく元気だった。ファナがここ――ハテノキ村に墜ちてきてから、村長への挨拶だとか色々な準備があり、今日やっと学校に来ることができた。
ファナが学校に行くことを提案したノエルに感謝だな、とリトは心の内でつぶやく。
「あ、でも、リトのお手伝い……」
「今日はいいぞ。遊びたいんだろ?」
「でも……」
「……。朝起こしてくれただろ? 足りないって思うなら、夜ご飯のお皿洗いだな。だから、今日は遊んできたらいい。それに、友達待たせるのもよくないんじゃないか?」
その言葉にファナが振り返れば、ノエルを初めとした子供たちが手に鞄を持って待っていた。
「えっと……えっと……。――うん!! いってきますっ」
♪♪♪
ファナたちは校庭の隅、緑樹の木蔭に腰を下ろした。青々とした草の上にべちゃりとお尻をつける。みんな村の子だ。だって夏草の上はふかふかで気持ちいいもん、と当たり前に笑う。
そして恒例のおかず交換が始まって。
「……で、でもこれ普通のパンだしっううんおいしいけどっ」
「わ、わたしお弁当だから、お店のパンってあんまり食べなくて。だから釣り合わないとかそんなことぜんぜんなくてっ」
ファナに差し出されるのはノエルのお弁当箱。ふっくらした玉子焼きに視線が止まっている。
「ほんとに、いいの?」
「うんっ」
ノエルは満面の笑みで答え、フォークに載せた玉子焼きを「あーん」と近づける。
「あーん…………ふあぁ、あまくておいひい」
頬をほころばせるファナ。その幸せいっぱいの顔を見て、周囲の子たちも喜びに沸く。
「はいこれっ、お返しなのっ♪ あーん」
「あーん」
お返しのブドウジャム蒸しパンに、ノエルも頬を染める。「おいしいね」の言葉に、ファナはとても嬉しくなった。あのお店のブドウジャム蒸しパンは今やファナの大好物だからだ。
そんな和やかな空気の中、ふとファナは視線を感じた。
周りを見回せば、ノエル以外の女の子たちが、一斉にお昼ご飯を差し出そうとしていた。
♪♪♪♪
「えとっえとっ」
気持ちは嬉しかったけれど、手にしたパンでのお返しに困った。もちろん、みんなのお弁当は食べてみたい。でも、リトが買ってきたパンもとっても大事なのだった。だから、
「あ、あーんは一日一人で一回なのっ、今日はもう、う、売り切れなのぉ」
「リトお兄ちゃんも入れて?」
シエルが訊く。そのいじわる質問に、ファナは目を真ん丸にして困ってしまう。
だって、リトにあーんされると嬉しいし、あーんするともっと嬉しい。何回もしたいから。
「えと、あの、だから――――そのっ、いっ一日一回リト以外なのっ!!」
最後までお読みいただきありがとうございます.
長らくお待たせして申し訳ありませんでした.
最後まで書ききることに変わりはありませんので,
長い目で見守っていただけるとありがたいです.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
学校,お昼のひと時.
みんなファナにメロメロです.
それでは次回,
『35……色鬼、リト色』
ファナその遊び知ってるの!――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




