33……リト先生
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
そうして2人の生活は始まりを告げる.
リトと過ごす内に,村の人とも仲良くなり,彼女の世界は少しずつ広がり始め――
♪
ハテノキ村――ヒトが暮らす山中の村に、竜の少女が降ってきた。子供の姿をした彼女には、竜の羽としっぽがあって。村で暮らすようになってから、彼女が出会ったのは大人ばかりだった。ヒトも竜も関係なく扱う大人たちに、ファナは村の子として迎えられた。
けれど今――彼女は過酷な環境へと放り込まれていた。
♪♪
「うにゃぁぁああああああああ」
村にひとつだけある学校の教室にて。竜の少女ファナの声が上がった。木造校舎(村の集会所も同じ建物にある)の一階、長机が十二個並んだ教室。その左前の窓際の席に座った彼女を、クラスの女の子たちみんなが囲んでいる。女の子たちの年齢は十一歳から十五歳まで。ファナは小柄であるため、その中で一番年下に見える。小ささに加えて、ちょっと癖のある赤髪や竜の羽やしっぽ。珍しいお客さんにおおはしゃぎだった。
「ふぁ、ファナお人形じゃないのっ」
怒ったような目。けれどその姿はやっぱり子供で。ファナはいっそう撫で回されてしまう。
「……なんとなくわかってたけど。――おーい、授業始めるぞ」
教室に、一人の少年が入ってきた。彼はリト。空から降ってきたファナを受け止め、保護者を務めている。歳は十七。この村では、十六歳から大人と認められ、仕事を始めるのが一般的だ。彼の本職はマホウツカイ(ただし見習い)だが、学校の先生と何でも屋をやっている。
これから一時間くらい、先生として話をする時間だ。
しかし、教室は静かにならず、ファナを中心に群がる女の子たちはリトが教室に入ってきたことすら気づいていない様子だった。
「……はぁ。みんな耳塞いどいてくれ」
リトはため息をついて、男の子たちと一部の女の子に言う。子供たちが耳に手を当てて目をぎゅっとつぶったのを確認して、リトは黒板へと向かった。
そして――教室には身の毛がよだつほどの引っ掻き音が響いた。
♪♪♪
リトの授業は、いってしまえば雑談だ。内容はその日によって変わる。
「――そういうわけで、今ではヒトと竜はほとんど関わりを持たずに暮らすようになった」
今日はファナがいるため、ヒトと竜の関係について話すことにした。生徒の喰いつきはいつも通り良好だった。授業は嫌いだけれど、マホウの話は大好きだ。
残った時間を質問に充てると、いつも以上に手が挙がる。
ひとしきり質問に答えたところで、ちょうどいい時間になった。
日直の子の号令で礼をして、リトは教室を出た。次は隣の教室で六歳から十歳までの子供たちに話す時間だ。授業の間には十分の休憩があるが、歳が同じ子供はクラスも一緒だから、教室の中の方が騒がしい。
静かな廊下に出ると、教室の賑やかさ、そして子供たちのパワーがありありと感じられる。
そこへ、
「リトっ」
ファナが教室から飛び出してきた。
「どした?」
「ううん。リトが話してるのかっこよくて、なんだかせんせーっぽかったの!」
目をきらきら、しっぽをぱたぱたさせて言う。
「あとあと、ファナ、ちゃんと生徒っぽくできてた?」
どちらかというと後者を確認したかったらしい。
「ああ、船漕がずに頑張ってたんじゃないか」
「ふね?」
「居眠りするってこと」
「……むぅ、ファナ授業中にいねむりなんてしないもん。……お腹いっぱいじゃなかったら」
確かに昼食後の眠たさには抗いがたい、リトは苦笑して、ファナの頭に手を伸ばした。
「頑張ってたな。今日はまだあるから頑張れよ」
「うん! えへへ、リトにほめられたー」
目を細め、くすぐったい、と笑った。
♪♪♪♪
「あー、ファナちゃんずるい! 先生もずるいー」
突然、教室から声が上った。女の子たちが廊下との窓を全開にして身を乗り出してくる。
「ちっ、違うのっ。これはっそのっ……生徒がんばったってリト……先生が――」
ファナは懸命にそんなことを言うが。
「うーん、先生と生徒っていうか」
「ねえ――――お父さんと娘って感じだよね!」
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
学校についてあれこれ書きつつ.
ファナとリトは学校でも家でも同じのようです.
いつか関係が変わる日も…………来なさそう?
教室の風景,ファナたちのやりとりは今後もっと書いてみたいです.
それでは次回,
『34……一日一回リト以外』
だってリトはリトだから特別なのっ――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




