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どら×どら1……ヒトクイ?

マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。

飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。

そうして2人の生活は始まりを告げ――


……これは、ファナがまだ竜の村にいたときのお話。

      ♪


 ここはとある山深く。周囲を深緑色の険しい山々に囲まれた、周りに比べて頭一つ分高い山の上。その一角に、ひっそりとたたずむ村があった。

 名前はない。

 なぜなら、名前をつけたがる人間がその村の存在を知らないから。そして、住人達も名前を必要としていなかったからだ。

 村の真ん中にある円形の広場に面して、がっしりとした木造の建物があった。天然の木の色の壁に、空色の三角屋根を持つ二階建て。四角い窓が規則正しく並んだそれは、ヒトの街にある学び舎を連想させる。

 その実、この建物は学び舎としての機能を備えていた。一階に教室があり、二階には寝泊りする部屋。学舎と寮を一体にしたものだった。

 その二階の廊下を、一人の少女が走っていた。走ると世話役の上級生に怒られるが、そんなことよりも速く部屋に戻りたかったのだ。

「ねえねえ聞いた? ヒトクイが出るんだって」

 赤い癖っ毛を揺らして、少女が部屋に飛び込んだ。興奮しているためか、深緑色のしっぽがぴんと天を向いている。部屋の中にいた三人の子供の視線が一斉に少女――ファナに飛ぶ。

「ヒトクイ? 最近、夜に外出んなって言われるのはそういうことなのか?」

 口を開いたのは、黒に赤色を混じらせた髪の少年だった。真紅のしっぽで床を打つ。

 残りの二人nも言葉こそださないものの、興味ありげにしっぽを動かした。この部屋にいるのは四人。四人は幼馴染で、十歳ほどの子供に見える。しかし、彼女たちはヒトではない。額に指の爪ほどの長さの角、背中とお尻に羽としっぽがある――竜の子供だった。

「だと思う。お兄ちゃんが言ってたから確実なの」

 ファナが答えると、淡い金色の髪を二股のおさげにした少女――レアが立ち上がった。

「ファナの確実は五十パーセント。どうせ最後まで話聞かないで跳び出してきたんじゃないの」

「う……ほんとだもん。ほんとのほんとだし!」

「お姉ちゃんに誓って?」

「ち、誓う! 明日のおやつ賭けるっ」

 引けなくなったファナが頬を膨らませ、それを見て、かかった、とレアがにやりと笑った。

「なら、今夜確かめに行きましょう」


      ♪♪


 その夜。宿舎を四人は抜け出した。

「別に抜け出すのは気にしなねえけどさ。そのヒトクイに出くわしたらどうすんだ?」

 住まう村の隅、山の木々の影に姿が完全に隠れたところで、幼馴染四人組の中で唯一の男である彼――マグが言葉の緊張感とは裏腹にあくびをかみしめながら訊ねた。

「四人いたらやっつけられない……かなぁ」

 レアが首を傾げる。見た目は子供だが一応は竜だ。熊や野犬程度であれば、四人が協力すれば追い払うこともできるだろうし、もしものときは飛んで逃げればいい。四人があまり深刻にならずに夜の山に繰り出しているのも、そういった理由があってのことだった。

「誰が一番おいしそう? やっぱりレア?」

「まぁ、ファナとルルに比べれば育ってるもの」

「……竜の子もヒトクイに喰われるの?」

 それまでずっと黙っていた少女――ルルが思い出したように口を開いた。長い黒髪を垂らした姿は人形めいており、実際にかなりの無口だ。その分、一言ひとことが重い。

 ルルの冷静なつっこみに、ファナとレアが顔を見合わせる。

「……ほ、ほら一応見た目はヒト――らしいし?」

「……そ、そうね。角と羽としっぽは余計かもしれないけど?」

「へいへい。さっさと行こうぜ。そのヒトクイとやらがどこにいるのかもわからないわけだし、いいところで帰らないとまた怒られるしな」

 と、マグが口を挟んだところまではよかったが。

「じゃあ、マグが先頭なの」「男の子でしょ」「……後ろがいい」

「………………え、まじ?」


      ♪♪♪


 マグを先頭に歩き出した四人。辺りは真っ暗だが、竜だけあってヒトよりも夜目が利く。木々の隙間から漏れてくる月明かりだけで十分な視界が得られた。

「――で、そのヒトクイとやらはいないようだな。帰るか」

 村を抜け出してから、かなりの時間が経ったのを確認して、四人は短いため息をついた。ヒトクイが存在する確率なんてほとんどないとわかっていても、いざ出会えなかったとなるとやはり物足りない。せっかくの冒険だったというのに。しかし、

 ――ざざ

 回れ右をしようとしたところで、すぐ近くの茂みが音を立てた。――ざざ、ざ――とさらに音が大きくなる。風揺れとは違う擦れ音だ。なんとか悲鳴だけはこらえた四人だったが、

(ど、どうすんだよ)

 マグの問いに、レアとファナは答えられなかった。逃げるか、姿だけでも確認するか。迷ううちも、茂みの音は続き、今にも向こうから影が飛び出して――

(……こうすればいい)

(ちょっとル――)

 止める間もなかった。ルルが振りかぶった小石が茂みの中に吸い込まれた。そして、

 ――――ゥグルォォォォ――

 闇夜を切り裂くような咆哮が迸り、同時に大木のような恐ろしい黒い影が、

「「「にゃああああああああああああああ――――」」」

 先ほどはこらえられた悲鳴が、今度こそは漏れ出した。四人は揃って来た道を一目散に駆けていった。行きの数分の一の時間で村に戻り、見つかっても構うもんかと宿舎に飛び込み(幸いか見つからなかった)、各々のベッドで丸くなった。

 翌朝、寝坊した理由を問われても、四人は決して本当のことを言おうとはしなかった。


      ♪♪♪♪


 少し時間は戻り、四人が夜の山から逃げ出した後のこと。

 ヒトクイの化け物は先の場所に留まり――笑いをこらえていた。

「これでしばらくは大人しくしてくれるといいんだがな」

 ヒトクイの少年がふぅと息をつく。手にしていた、枝と紙で作った大きな怪物――ヒトが影絵に使うようなものだ――をゆらゆらと揺らす。

「そうだねえ、ルルは気づいてるっぽかったけど。あの子たちの驚く顔が見れたしいいんじゃないかな」

 答えたのは、傍に立つ少女だった。

 二人とも歳は十代後半くらい、そしてファナたちよりも立派なつのと羽を持っていた。そう、この二人こそが、ファナたち子供の世話役であるお兄ちゃんとお姉ちゃんだった。

「数日前から仕込んだかいがあったってわけだな」

「お疲れさま。さ、帰って寝よ。元気いっぱいの子供たちはあの子たち以外にもたくさんいるんだからね」

 竜の少女は楽しそうに、心からの笑みを浮かべた。

 そんな彼女に対して、

「……どっちが子供なんだか」

「なにか言った?」

 別に、と。少年は幼馴染の彼女に肩をすくめ、影絵の怪獣を揺らしてがおーとつぶやいた。






最後までお読みいただきありがとうございます.

あけましておめでとうございます.


本作は,まったり日常モノです.

気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.


竜の子がわいわいしてる話が書きたくなりました.

ということで,本編(どら×ひび)に挿入された番外編です.

竜攻め竜受け.

本編に並行して気まぐれに挿入していく予定です.


それでは次回,

『31……おっおばけなの!』

おばけはだめなのっ――というお話です.

よろしくお願いします.


今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.

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