22……がるるるっ
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
そうして2人の生活は始まりを告げ――
♪
「リト、今日もがっこ?」
朝食、洗濯と掃除を終えて。一息つこうとリトとファナはリビングのソファに並んで腰を下ろした。ファナがしなやかな深緑色のしっぽをぱたぱたさせながら、リトを見上げた。遊んでと訴える犬そのもので、リトは内心で笑いを零した。
「学校は平日の二日に一回だよ」
「じゃあ、明日と明々後日だね」
学校のない日は、ある日に比べて時間に余裕があるから、家事に力を入れるようにしていた。けれど、その家事も今日はあっという間に終わってしまった。理由は隣にいる少女だ。
「うん?」
「……いや、ファナが手伝ってくれたからすぐに終わったなって思っただけだよ」
「えへへ、ファナ役に立った?」
にこにこと目を細める。ファナが降ってきて三日目。リトが家を提供したことに対するお礼として、今日からたくさんお手伝いをすると宣言した彼女。見た目十歳の子供であるファナに不安を感じていたリトだったが、ここまでの働きぶりは目を見張るものだった。
「ということで、ファナはお留守番な」
「うん! 今日はファナはお留守番――ってなんで!? 役に立ったのに!」
「学校がない日は、別の仕事なんだよ。正直なところ、その仕事にファナを連れていくのはちょっと気が引けるというか」
「別のお仕事って?」
「…………はぁ。マホウツカイの仕事だよ。何でも屋さん」
♪♪
甘い、というのが自他共通したリトに対する評価だ。夏の晴天の下、リトの隣にはファナ。
「午前中はなんのお仕事するの?」
「ああ。凶暴な生き物との三時間に及ぶ戦いをだな」
「そ――そんな怖いのがこの村にっ!?」
ごくり、と。ファナは息を飲んで、リトにくっついてきた。両手でリトの左腕に絡みついてくる。しっぽが心細げに揺れているのを見て、リトは脅しすぎたかと息を吐いた。
「……歩きにくい」
♪♪♪
「ぅ~~わんわんッ!」
午前中のお仕事。足を骨折したおばあちゃんの代わりにわんこを散歩に連れていく。
「お、おっきい犬だね?」
黒い毛並が立派な大型犬。名前はクロロ。愛称はクロ。
おばあちゃんと並んだリトが、太いリードを握っている。ファナは二人と一匹から離れて家の前の茂みのところ。身体を隠しながら様子をうかがっていた。
ちゃんと握っててよ? と視線で合図を送ってから、ファナがゆっくりと近づく。
「か、かまないでね? よーしよー「がうっ」――くあぅっ」
クロのけん制にファナが思いっきり飛び退った。その様子にクロロは余裕の表情を浮かべる。
「あらあら、クロってば。ファナちゃんのこと気に入ったのねぇ」
「うー、うー、がるるっがるるるるるっ」
ファナも負けじと応戦を始めた。動物的本能を刺激されたらしい。なめられたら負けだ。しっぽを立て、翼を広げ、身体を精いっぱい大きく見せる。
「く、くーん」
「……勝った。ふぅ、これでもう「わおんっ」にゃ――ッ!?」
さっき以上に距離を空けたファナ。赤い癖っ毛がいつも以上に跳ねているように見えた。
「完全に遊ばれてるし。……はぁ、大丈夫だよな?」
こういう不安要素があるのを含め、ファナを連れてくるのに抵抗があった。
しかしおばあちゃんは、ほほと笑って、目を細めた。
「だいじょうぶよ。ファナちゃん、あなたにそっくりなんですもの」
クロロはリトを振り返って、わおん、と人懐こい顔で鳴いて見せた。
♪♪♪♪
「リトぉ、クロがぁクロが――」
「ほら、クロ。仲良くしてくれよ」
リトの言葉を解したように、クロはその場にお座りした。大人しくなったクロに、ファナが恐る恐る近づいていく。そして――ぺたりと頭に手を載せた。
「っ――見て見て! リトっ――――――きゃっ、くす、くすぐっひゃいっってばぁ」
手の平をぺろぺろと舐めるクロに、笑顔を溢れさせるファナ。そんな二匹を、リトとおばあちゃんは、笑いを隠すことなく眺めていた。
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
ファナに「わんわん」って言わせたかっただけなんです.
勢いで「にゃー」も入っているのは仕様なんです.
残念ながら荒ぶる竜の子のポーズとか入れる隙はありませんでした.
という感じで,ファナが頑張ってくれるのが『どら×ひび』です.
それでは次回,
『23……マホウツカイのお仕事』
リトのお仕事かっこいいねっ――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.