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15……買いものに行こう

      ♪


 少年と少女が村の商店街を歩いていた。

 土が露出した道の左右に、おもちゃ箱のように規則性なくお店が立ち並んでいる。木柱を壁面に露出させる伝統的な建築様式。白い壁と茶色い柱が織りなす模様と赤い屋根が多い中、別の配色が賑やかなアクセントをつける。少女はさっきからずっと目を輝かせていた。

「……こっちお家じゃないよね?」

 空を飛べない竜の少女ファナが、ふと首を傾げた。視線の先には少年。空から墜落してきたファナを保護したマホウツカイだ。彼――リトは肩をすくめ、

「いいんだよ。寄り道するんだ」

「寄り道? がっこの帰りに寄り道するのはだめだってせんせーは言ってたよ?」

「ここの先生はやさしいからいいの」

「リト、わるいこだね」

「大人しく留守番ができなくて家を飛び出してきたのは誰だったかな?」

 リトの言葉に、ファナは「うっ……」と言葉を詰まらせた。「だって」と、つないだ右手にちょっとだけ力を込める。だってリトのこと待ってられなかったから――とは口にしない。

「それで、どこに遊びに行くの?」

 ファナの問いに、リトは重たい息をついた。

「ああ――恐ろしいマジョの住むお店だ」


      ♪♪


 チリン――可愛らしいドアベルが二人を迎えた。マジョの館に不釣り合いなのはドアベルの音だけでなかった。店内は明るく、ものもきれいに配置されている。

「服屋さん?」

 一間の店内には、様々な向きに棚が並んでいる。この一店で村の服を全て賄っているため、種類も量も豊富に揃っている。それなのに圧迫感がないのは、適度に空間を持たせて配置されているセンスゆえだった。

「問題があるとすれば店長か」

「うん? リト、なにか言った?」

「いや、心の声が漏れただけだ。気にしないでくれ」

「気にしないさ。あたしは心が広いからね」

 リトの背後で声。びくりとリトの肩が跳ね上がった。

「いらっしゃい」

 振り返った先にいるのは二十代前半にも見える若い女性だ。黒い髪を長く伸ばし、メガネの奥のまなざしは鋭い。その瞳をファナに向け、

「キミがリトの家にやっかいになってるという――。ふふ、可愛いじゃないか」

「ひいっ――り、リトっ。食べられるっ!」

 服屋〝トリノハネ〟の店主コトリは、凄みある笑みで二人を迎えた。


      ♪♪♪


「ったく、冗談だよ。リトってばこんな小さい子になに教えてるわけ?」

 マジョことコトリは、凶悪な笑みを引っ込める。すると、多少目つきの怖い普通のお姉さんに変わる。いい人なのに、いたずら好きが珠に傷。村人の意見はそれで一致している。

「大工からリトが監禁してる女の子の服買いに来るって聞いたから待ってたんだが」

「カンキン? ねえリト。カンキンってなに?」

「……仲良しってことだ」

「そっか! じゃあファナ、リトにいっぱいいっぱいカンキンされる!!」

 雲のないお日様の笑みで言われて、リトは「すまん。忘れてくれ」と即座に加えた。

「はは、ほんとに仲良しなんだな。ほら、ファナちゃん。どの服がいい? ちなみにあたしの眼によると、リトはショートパンツ好きだ」

「パンツ? リトはパンツが好きなの?」

「男は誰しも」

「ズボンのことなっ」

 ただファナの服を買うだけだというのに。冗談交じりの悪い笑みを浮かべるコトリからファナを守ることに、リトは学校の授業以上の気力と体力を消耗した。


      ♪♪♪♪


「リト、ありがとう。明日からいっぱい着るからね!」

「ああ、喜んでくれてなによりだ」

「……ねえリト。あの人、優しい人だよ? どうしてマジョさんなの?」

「…………。ま、まあ、見た目、か」

 抜群のセンスで女の子に勧めてくる服全部が似合うせいで、気づくとお財布が寂しいことになっているマホウを使うから。村中の父親が経験済み――とは言えるはずもなかった。






最後までお読みいただきありがとうございます.


本作は,まったり日常モノです.

気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.


ファナの服、リトが決めていいよ!――というお話です.

と予告したはずが,そんな余裕はなかった.

はい.半ズボンな小さい子は可愛いと思います.


それでは次回,

『16……ブドウジャム蒸しパン』

全部ちょうだい!――というお話です.

よろしくお願いします.


今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.

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