16……ブドウジャム蒸しパン
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と声を掛けた。
そうして、2人の生活が始まって――
♪
「どうして? どうしてリトはそんないじわる言うの? かわいそうだよ、ファナはかわいそうだって思うの。ねえリトぉ」
「だめなものはだめだ」
「でも――」
「あのなぁ、ファナ」
リトは膝を曲げてファナと目の高さを合わせた。むぅっとした不機嫌な目を覗き込んで、
「おいしそうだからって、十個もパン買っても食べきれないだろ?」
♪♪
昼食の調達に立ち寄ったパン屋〝コロロ〟にて。
ファナはたくさんのパンを前にして、目を星のようにきらきらさせた。とりわけファナの気を引いたのは菓子パンの類。チョコやクリーム、ジャム、フルーツ。リトからすれば、お腹はいっぱいにならないし口の中が甘くなるしであまりいい印象を持っていないのだが。
「じゃあ半分」
「五個は食べ過ぎじゃないか?」
「ううん。十個の半分、リトが食べるのっ」
即座に却下した。
「二個な」
「むぅ、リトのけちんぼ」
♪♪♪
「決まったか?」
「うん! これ!!」
ファナが指したのは蒸しパンだった。卵色のぷにぷに肌にうっすら焼き目のついた表面。ブドウジャム蒸しパンという名前で、中にブドウジャムが詰まっているものだ。
「これな」
「こっち」
一番手前のパンに手を伸ばしたリトを留める。そして、その左斜め億のパンを指す。
「こ、こっちの方がちょっとおっきい。それにおいしそうだもん」
と小さな声でつけ加えた。リトは、自分も昔はそんなだったなと苦笑しつつパンを掴んだ。
「もう一個は?」
「……う、えっと…………これ」
「チョココロネだな」
「か、――こっち」
シュガートースト。きつね色のこんがり食パン(すごく甘い)だ。
「……二個?」
「あと一個」
「うーん……うーんうーん」
ファナの竜しっぽが左右にふらふらと揺れる。それを見て、リトは無言でコロネを取った。
「ああっ」
「俺の昼ごはん。ちょっとくらいならかじってもいいけどな」
「――ほ、ほんとっ?」
「……ちょっと、だからな?」
小ぶりのヤマブドウを二口で食べた昨夜のファナを思い出して、リトは頼むぞと念を押した。
♪♪♪♪
トレイにパンを四つ載せ、瓶牛乳を二つ持って、レジに向かう。
おかみのコロネさん(小柄なお姉さん。既婚)が「あれ?」と首を傾げた。
「リトくん。今日はメロンパン買わないの?」
「? リト、メロンパンが好きなの?」
「そうよ、いっつもメロンパン買ってるんだから。一時なんて昼おやつ夜食の三つを毎日――」
「今日はいいんです」
リトは目で訴え、会計を手早く済ませてから、ファナの腕を引いてパン屋を後にした。
「ねえリト。リトはメロンパンが好きなの?」
「……。マホウの勉強したら甘いものが欲しくなるんだよ。べつに好きってほどでもないしな。ご飯にもなるし糖分とれるしで小さいときからよく食べてるだけだ」
そう言ったリトを見上げて、ファナはにっこりと満面の笑みを浮かべた。
「リトはメロンパンが大好きなんだね」
同じセリフをついこの間も、そして幼いときにも言われた聞いたことを思い出して、リトはため息と一緒に小さな笑いを漏らした。それから、ファナの手をちゃんと握り直して。
「ほら、帰るぞ。パンは焼き立てが一番おいしいんだ」
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
ファナ「リトは●●●パンが好きなんだねっ」
リト 「ファナは好きなのあるのか?」
ファナ「ファナはリトが好きだよ!」
リト 「俺はパンと同列か」
ファナ「ファナもパン屋さんに並ぶなら、リトの隣がいいなっ」
ファナになら食べられてもいい、みたいな話でした。
それでは次回,
『17……ハテノキ村の空の果て』
1話からひっぱってたハテノキ(果ての樹)が登場――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




