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悪役令嬢は妖刀と生きる  作者: 高塚 ミヤビ
第一章

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第七話

エヴィン先生と印象的な邂逅を果たしたあと、すぐに魔術の授業が始まるかと思い込んでいたが、そうはならなかった。

どうやら、魔術を教えるのにも準備がやはり必要らしく、教えるのは明日からと伝えられた。


しかし、いち早く魔術に触れたかった私は、明日の午後まで素直に待つ気にはなれなかった。

なので、明日の魔術以外の授業を空いてしまった今日の午後に前倒しし、明日の一番の授業から魔術の授業をしてもらえないか、お父様に直談判したのである。

最初、提案を受けたお父様は少し驚いた顔をしたが、私の魔術への熱意を感じ取ってくれたのか、快く了承してくれた。

一方で、その話を聞いた途端、面倒くさそうな顔をしていたエヴィン先生だったが、父に諫められしぶしぶ了承してくれた。


こうして急遽、授業を前倒しにしてもらった私は、やる気を全開に授業や課題に取り組み、明日の魔術の授業に備えて早めの就寝についた。


そして翌朝――。


「それではよろしくお願いします、エヴィン先生」


起床してすぐにメイドのアトラさんに身支度を手伝ってもらい、朝食を済ませると、私は集合場所である屋外のテラス席に向かった。


朝露の残る空気の中で待っていると、後ろから気の抜けた声が聞こえた。

振り向くとそこにいたのは――パンをくわえ、髪は寝癖で跳ね散らかしたままのエヴィン先生だった。

身支度を大急ぎで整えてきたのが一目でわかる。


「朝から元気だなレイラ嬢、俺は眠くて仕方ないぞ」


今にも寝室に眠りに戻ってしまいそうなその態度から、やる気があるようには到底、思えない。

けれど、遅刻もせずに来てくれたのだから……と思い込むことで、私は自分を納得させた。


「私だって、魔術を早く学びたくて仕方がなかったのに昨日はお預けをされてしまったのですから。今日こそ教えてくださいね」


今日こそ魔術の授業をしてもらうぞという意味を込めて満面の笑みで牽制する。

すると、エヴィン先生は肩をすくめ「わかった、わかった」と両手を上げてジェスチャーした。


「それを言われると痛いな、けど昨日も思ったんだがなんで、そんなに魔術を学びたかったんだ」


エヴィン先生の質問は、純粋に私のやる気がどこから来るものなのか知りたかったのだろう。

しかし、その答えを正直に答える訳にはいかなかった。

なぜなら――本当の理由は「処刑される可能性があるから、少しでも生き残る可能性を増やしたいから」とはとても口にはできない。

なので、急いで思考を巡らせ出た苦し紛れの答えを提示する。


「それは、えーと、その、知的好奇心と言いますか……憧れと言いますか」


もちろん、魔術に対して好奇心も憧れもあるので、この回答も本心ではあるので嘘にはならないはずだ。

しかし、エヴィン先生は私のそんな答えをはぐらかすような様子を見て勘違いしたのか、ニヤニヤとした表情をするとその思考内容を語りはじめる。


「なんだ、てっきり俺は王太子の気を引いて気に入れられるために、魔術学校で上位の成績を取りたいんだと思ってたんだが違ったんだな」


エヴィン先生はお父様に課せられている「学園で上位を維持し続ける」と言う内容を王子に気に入られるためだと解釈してしまったようだ。

しかし、エヴィン先生の解釈とは逆に、私は早々に婚約を解消したいので、私がレナードに好感を持っているとは思われたくない。

王妃なんて重責は絶対に負いたくないからだ。


「もちろん、お父様が言われたように、様々な国から魔力が覚醒した者たちが魔術学園には集まってくるので、王太子殿下の婚約者として恥ずかしくない成績を納めたいとは思っていますが、親同士が決めた婚約ですし…」


どうやら、エヴィン先生は私の回答に何か引っかかりを感じているようだった。


「一つ聞きたいんだが、嬢ちゃんと王国の殿下の婚約は政略結婚の一環だったか?」


「違いましたか?」


「いや、俺が昔に聞いた話だとお嬢ちゃんがどうしてもって言うから、ブラックウッドのおっさんが頑張って婚約者にねじ込んだって聞いていたもんだから、てっきり嬢ちゃんが殿下にご執心なのかと思ってたぜ」


……思わず頬が引きつった。

政略結婚だとばかり思っていたが、まさか「レイラ本人の希望」で結ばれた婚約だったとは。

もしそれが事実なら――私から「婚約破棄してほしい」などと願い出るのは絶望的だ。


「殿下と私の事は置いといて、本題に戻りましょう。魔術をうまく使えたら護身としても使えそうじゃないですか」


「なんだお前、誰かに狙われていたりするのか?」


エヴィン先生の目が細められる。

冗談めかした声音だったが、その奥底には真剣さも混じっているように聞こえた。


「そう言う訳ではないのですが、いざという時に助けてくれるのは自分自身じゃないですか、それなら魔術もしっかり学びたいなって」


「お前さん、侯爵家の箱入り娘にしてはたくましすぎやしないか」


少し引いたようにツッコミを入れるエヴィン先生。

確かに、こんな信条を掲げるような貴族令嬢など、滅多にいないのだろう。

しかし、前世での交通事故に巻き込まれた経験からすれば、助けてほしい時に助けてもらえる状況は稀である事は知っているつもりだ。


「まぁたしかに、魔術を使いこなせればそこら辺の奴らなんかには負けはしないだろうな、けど、個人的には魔術の戦闘面だけじゃなくて、別の面にも目を向けほしいけどな」


エヴィン先生は何か思うことがあるのか、どこか遠くを見つめているようだった。

その様子は遠い記憶を思い出すような、そんな表情だった。

それはきっと、彼がこれまでに見てきた何かと関わりがあるのだろうが、言葉の端に滲む影を、今の私には知りようがなかった。

けれど、私が問い返すよりも早く、それを振り払うかのようにエヴィン先生は大げさに肩を回し始めた。


「世間話はこのあたりにして、そろそろ始めるとするか」


そう宣言すると先ほどまでの表情は無くなっていた。


「それじゃあ、まず俺が魔術を教えるにあたって、約束を三つしてもらう」


「約束ですか?」


淡々と告げられた言葉に、私は思わず瞬きをした。

その声音にはいつもの冗談めいた軽さはなく、むしろ一線を引くような真剣さが漂っていた。


「あぁ、一つ目は泣き言を言わない事。子供だろうが何だろうが俺の弟子になった以上、甘やかす気はない。普通より高い水準を求めるし、理不尽だと思う事もあるだろが、俺が教えている間はうじうじして時間を無駄にするな。そういうのは俺がいない一人の時にでもやってろってこったな」


その口調とは裏腹に、言葉は鋭く胸に突き刺さる。

私の覚悟を試すような視線が、真っ直ぐに射抜いてきた。


「二つ目は、魔術を殺戮の道具にするな。もちろん、やむを得ない場合もあるだろうが目に余るようだったら、俺が直接ぶっ殺しに行くからそのつもりでいろな」


エヴィン先生の声色は変わらないのに、背筋に冷たいものが走る。

私は、初めから魔術をそんな風に使うつもりはないが、エヴィン先生と敵対もしたくないので、改めて気を付ける事にする。


「三つ目は俺に賢者の話題を出さない事。理由は単純、俺の機嫌が悪くなるからだ。分かったか?」


「はい」


他の二つの約束に比べて、あまりにも個人的な物で驚いたが頷き了承する。

昨日のお父様とエヴィン先生とのやり取りでも言い合っていたので、エヴィン先生にとって賢者に関しては相当、触れたくないものなのかもしれない。

本当のことを言えば、エヴィン先生は賢者の弟子だったと事について詳しく聞きたいが、本人がこうも嫌がっているので詮索しないことにする。


「よし、それじゃあ早速始めますか。あ、それと敬称をつけて呼ぶのは面倒くさいから、公の場以外で敬称とか無しな」


先生はわざとらしく手を叩き、空気を切り替えた。

最後の一言は、先ほどまでの緊張を和らげるためのものだったのかもしれない。


こうして、先生と三つの約束を交わし魔術の授業が始まるのだった。

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