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箱庭から歪んだ愛を君に。  作者: 泉出流
第3章【そして疑いの花は咲き誇る】
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●◎第6話「忘れたくないのに」

「よほど内側に溜め込んでいたのね。吐き出して、少しは楽になった?」


 エンジュが慈愛に満ちた表情で私の頬を拭ってくれる。

 いつの間にか私は泣いていたらしい。


「ミヤは後悔しているの? 今、ウイに会えなかったことだけじゃなくて……もしかしたら助けられたんじゃないかってことかしら?」

「……うん、昨日のウイは少し変だった。私がもう少し気を付けていてあげたら」


 (ウイは死ななかったかもしれない)


 たらればの話だ。

 今さらどうにかなるわけでもないのは痛いほど分かっている。けれどどうしても考えずにはいられなかった。


「ミヤのせいじゃないわ……って言っても無駄なんでしょうけど、絶対にミヤのせいじゃない。いっそのこと、忘れてしまえたら楽なんでしょうけど……」

「ウイを忘れるなんて出来ない! なんでそんな酷いこと言うの」

「私もその方がいいと思うわ。今は辛いかも知れないけれど、少しでも覚えててあげて。部屋の次は記憶も――消えてしまうから」


(消える? 記憶が?)


 一気に谷底に落とされたような気分だった。


「覚えてることすら許されないってなんなの!? なんで私がウイのこと忘れなきゃならないの!? なんで勝手に記憶を消されなきゃならないの!!」


 私は怒りがふつふつと沸くのを感じていた。

 エンジュに対してじゃない。

 誰に対してか分からない怒りだ。どこにぶつけたらいいのかも分からない。


「仕方ないのよ、私たちはそういう存在なんだから」


(覚えていることすら、誰かに否定されるなんて)


 胸の奥に溜まっていた感情が、一気に爆ぜた。


 忘れたくない。忘れるもんか。

 怒りとも悲しみともつかない何かが、喉の奥からせり上がってくる。


 ウイを忘れるなんて、そんなことがあってたまるか。


「そんなのエンジュの勝手な理屈でしょ! 私は、絶対に忘れないから!」


 気付けば、私はエンジュを突き飛ばして立ち上がっていた。

 エンジュが少し驚いた顔をしていたが、そんな事気にしている余裕なんてなかった。

 頭に血がのぼったまま、勢いに任せて部屋を飛び出す。


 追いかけてくる足音はなかった。

 けれど、誰かの泣き声だけが、ずっと耳の奥に残っていた。

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