+-閑話「双子の会話」
静かな部屋の中、まだ正午にもなっていないというのに、まるで夕闇が迫っているかのように薄暗かった。
外は春のようでもあり、夏のようでもあって、暖かな空気が流れていたはずなのに――この部屋だけは、ひどく冷たく感じられる。シュウはそう思った。
「──メイ」
刺激しないように、シュウは小さく声をかけた。
ベッドの上の毛布の塊が、ほんの一瞬だけビクリと震える。
後ろ手に扉をそっと閉じ、シュウは静かに近づいていく。
「メイ」
もう一度声を掛ける。出来るだけ優しく。
メイから答えは無い。
ベッドに潜り込んだまま、毛布の中で小さく震えていた。きっと肩をすくめ、目をきつく閉じ、声を殺して泣いている。顔を見なくても分かった。
その隣へシュウは何も言わずに腰を下ろし、そっとメイの背中へ手を添える。毛布越しでも、その手が優しくて温かいことはメイにもしっかりと伝わっていた。
「きっと、ミヤじゃないと思うよ」
ぽつりと落とされた言葉に、メイの身体がまた小さく揺れた。
「だって、あんなに仲良くしてたじゃないか。ウイと一緒に笑ってたよ。僕も見てた」
「……そんなの……僕だって、分かってるし……!」
くぐもった声が毛布の中から漏れる。涙声のまま、ぐしゃぐしゃの嗚咽で怒りを吐き出すように叫ぶ。
「でもじゃあ……じゃあ、誰がウイを殺したっていうのさ! 部屋には鍵がかかってたんだよ! ミヤ以外に誰が中に入れるっていうの! アイツしかいないじゃん!!」
被っていた毛布をシュウへと投げ付け、当たり散らす。発する言葉も泣きながらの八つ当たりに近くて、感情が先に立っていた。
けれど、シュウは責めなかった。ただ静かに、そんなメイの頭に手を伸ばし撫でる。
「や、やめろよ……っ! 子ども扱い……するなってば……」
そう言いながらも、メイは振り払おうとしなかった。手はぎゅっと自身の衣服を不安げに握ったままで、ただ涙だけがしつこく零れ続ける。
「……でも僕は、お兄ちゃんだからね」
宥めるような優しいシュウの声に、メイがそっぽを向いて呻くように呟く。
「双子だろ……数分の差しかないのに……」
「それでも、僕はメイのお兄ちゃんだから」
まるで当然のように笑うその顔が、メイには少しだけ癪に障る。でも嫌いじゃない。だから黙って大人しくシュウの行為に身を任せていた。
しばらくそうして、ようやくメイの呼吸が落ち着いてくる。
そして、落ち着いたタイミングを見計らうようにシュウはそっと声をかけた。
「……ねぇ、メイ。本当に、ミヤがやったって思ってるわけじゃないよね」
メイは返事をしなかった。ただ、ぎゅっと唇を噛んだ。
「悲しかっただけだよね。ウイが死んで、どうしたらいいか分からなくなっちゃって……それで」
その言葉に、ようやくメイはしっかりとシュウを見た。目は真っ赤で、鼻もすっかり詰まっていた。軽く睨むがシュウは少しも意に介した様子はない。
「……うるさい」
絞るような声。
それでも、もう叫んだりはしなかった。
子供のように泣いて喚いて、更には図星をつかれてただただ恥ずかしいだけだった。
シュウはメイの髪をもう一度だけ撫でると、小さく笑って言った。
「恥ずかしがっても今更だからね」
「……ムカつく」
メイは唇を噛みながらも、シュウの手を払いのけることはできなかった。
“ムカつく”と呟くその声の奥には、確かに甘える気持ちが滲んでいた。
「落ち着いた?」
「……多少」
素直に感情をあらわに出来るメイの事を可愛いとも、そして少し羨ましいとも思いながらシュウは言葉を続ける。
「そもそも“密室”だから、なんて僕たちには“関係ない“じゃないか」
その言葉には、どこか意味深な響きがあった。
メイはシュウの言葉にしばし思案した後、
「……まぁ確かにね」
そう同意を示したメイの声には、まだ涙の余韻が残っていた。
けれど、先ほどまでのように荒ぶることはなかった。
その沈黙の中で、二人の呼吸がゆっくりと整っていく。
シュウとメイは、ようやくこれからのことを語り始める。
もう共に笑うことのできないウイの死を、確かめるために。
なぜなら、彼らの時間はまだ止まってなどいないから。
悲しみの底で、確かに何かがゆっくりと動き始めていた。




