いよいよ涙、涙の卒業式の始まりです!
いよいよ卒業式が始まった。
すると、抑えていた【みどり】の涙が思い出と共に溢れてくる……。
みんなと体育館に向かっている間に私はふとある事を思い出した。
八木は一体、何が言いたかったのだろう?
美雪が教室に帰って来た時には八木の姿はなかった。
恐らく、大隈達が私をからかっている最中に何処かへ行ったのだろう。
からかわれすぎてすっかり八木の事なんか忘れてしまっていた。
まあ、特に何かされた訳ではないので深く考えない事にしようと思う。
そうやって気を取り直した私は体育館前の通路に美雪達と集まった。
それは、これから体育館では私達の為に卒業式が行われるからだ。
小学校の時に比べ大して練習をしていないので色々と間違いなく出来るのか不安である。
そんな不安な気持ちが、きっと私の顔に出てる。
だって顔が引き攣っている感じがするもの。
そして、それは文もそうみたいだった。
でも、そこは何度も緊張する舞台を踏んだ美雪は違った。
「ねえねえ、みどりちゃん、文ちゃん。見て見て!
義猿の奴ったらバッチリ服を決めてる!
しかも眼鏡までリニューアルしてて、凄くはりきってるみたい!」
はしゃいでいる美雪に言われ私が石川を見ると、
石川は馬子にも衣裳とはいかなかったが、それなりにフォーマルな装いでいた。
恐らく散髪にも行ったのであろう。
髪が整っている気がする。
眼鏡に関してはコメントを差し控えさせてもらおうと思う。
そう思った私がハイカラさんを探したけれどハイカラさんはいなかった。
ハイカラさんとは、黒髪で、日本人形のような顔をした、年齢不詳の女性の幽霊の事である。
ハイカラさんは私の守護霊で石川の眼鏡がリニューアルした理由を一番知っているはずだ。
そんなハイカラさんの顔を見たかったのに今は傍にいない。
さっきまで一緒に教室にいてここまで一緒に来たはずなのにどうして……。
四月からとは言え、いつも一緒にいたのにいないと不安に押しつぶされそうになる。
だからと言って、人では私以外に見えないハイカラさんを誰かに探してもらう訳にもいかない。
だから私は一人でハイカラさんを探していた。
すると、
「みどりちゃん、どうかした? 何か忘れ物でもしたの?」
と、美雪に声を掛けられてしまった。
何とか誤魔化そうと私は思ったけど、そう上手くはいかなかった。
「ううん! 違うよ!
ちょっと人を探してただけ……」
「えっ? 誰を探してたの? お母さん?」
「まあ、そんなトコ……」
「なら大丈夫だよ! 親御さん達はもう体育館に入ってるからさ!
みどりちゃんのお母さんも体育館にいるよ!」
「そ、そうだね……」
とり合えず何とか誤魔化せた私は不安に押しつぶされそうなまま体育館に入る事となった。
ここで一旦、美雪とは少し離れる事となった。
それは出席番号順に並ばなくてはならなかったからだ。
そんな理由があったので私達はそれに従い並び体育館に入る事となった。
その体育館では厳かな音楽が流れ拍手に包まれており、そんな中を私達はゆっくりと歩いて行った。
すると、親御さんの中で一際泣いている人物を見つけてしまった。
それは、私の母だった。
あの泣きっぷりからすると私の姿を見る大分前から泣いていたようだ。
持っているハンカチがグチャグチャに濡れている。
そんな母にしっかりと私を見てほしく、私が母に視線をやり続けていると、
それに気付いた母はさらに号泣してしまった。
そんな母に少々私が困っていると壁際にハイカラさんの姿を見つける事が出来た。
「ハイカラさん、良かった! 心配したじゃない‼」
そして、私が心の中で怒ると、ハイカラさんはほほっと笑った。
そんなハイカラさんを見ると安心したせいか押さえていた涙が一気に溢れてきた。
もう、どうしよう……。
きっと、今の私の顔は母とそっくりだ。
もうからハンカチがグショグショだし……。
そう思ってたら文の目からも大粒の涙が溢れていた。
そんな文の目は、「小松さんがそんなに泣くからだよ」て言ってるように見える。
そう言われるとまた私の目から止まる事を知らない涙がどんどん溢れてきてしまった。
そんな私達を余所に美雪は涼し気な顔をしていた。
けど、これはかなり泣くのを我慢している顔だ。
何かのきっかけで凄い事になりそう。
そういう風に私が美雪を見ていると卒業生全員が体育館に入り音楽と拍手は止んだ。
そして、壇上の隅にいる司会を任されている先生の言葉で卒業式は始まった。
それから壇上の端にある今、何が行われているのかが書かれている大きな紙が一枚、
また一枚とめくられていきそれに合わせ卒業式は進んでいった。
その光景を見る度、色々な思い出が私の周りに集まってくる。
四月の桜の見ごろが終わってしまった桜並木。
久しぶりに会ったのに変わらずにいてくれた親友。
嫌な事もあったけど、それを吹き飛ばす変わった優しさを見せてくれた友達達。
多くの恩師達。
運動会に自然の家キャンプに修学旅行、文化祭等のイベント達。
それから新たな親友。
そして、自分の努力で掴んだ多くの奇跡達。
それらの傍には必ずハイカラさんがいた。
ハイカラさん、本当にありがとう。
どれだけ言っても言い足りないこの言葉。
本当は面と向かって言いたいのにそれは今は出来ない。
だから必ず卒業式が終わったら何度も言うんだ。
そう心に誓って私は卒業式に臨んでいた。
すると、卒業証書を受け取る番となった。
これが一番の難敵なのだ。
列を乱さず校長先生の前まで行き一例してから卒業証書を受け取り、また一例して壇上から下りる。
それを大勢の人の前で行わなくてはいけない。
しかも、練習なしだ。
足がふるえるのは当然だった。
だけど、そんな私を無視して着々と卒業証書の受け取りは終わっていき私達のクラスの番となった。
そして、私の番はすぐ来てしまう。
それが分かっている私は深呼吸をして木田に続いた。
そんな私はまだ木田の背を頼っている。
でも、これは今回で最後だ。
だから許してほしい。
私は木田に謝罪しながら木田の背に続いた。
すると、並んで座っている先生方と目があった。
まずはAクラスの担任の大塚。
先生、大好きな国語の授業をありがとう。
そう心の中で私は言った。
その大塚の隣には花田。
何か目が合ったら凄い笑顔を向けられてしまったけど、一応心の中で礼を言った。
次は石川だった。
けど、一人で号泣しているので放っておこうと思う。
さらにその隣にはDクラス担任の清水。
相変わらず眠たそうな顔はしていたけれど軽く頷いてくれた。
だから私も会釈して心の中で礼を言った。
そして、その隣には阿部がいた。
そんな阿部の目は明らかに潤んでいる。
そんなのを見せられちゃったらまた私の頬を温かいものが伝ってしまった。
けど、私は阿部に笑顔を向けた。
そして、勿論、心の中で何度もありがとうって言った。
そうして本当はそんなに長い時間じゃなかったはずだけど、
色々な思い出をその時間で作れた私は壇上に上がり無事に卒業証書を受け取る事が出来た。
それから元の席に座り、
残りの生徒が卒業証書を受け取るのを周りの人がしているように拍手しながら見守っていた。
そうやって私達は無事に全員が卒業証書を受け取る事が出来た。
それから卒業式はさらに進行し卒業者の代表が答辞を述べる番となったが、
それはまさかの八木だった。
そんな八木は名前を呼ばれると体育館に美しく響くような声で返事をした。
それから真直ぐ卒業式の参加者だけを見つめ答辞を述べた。
その内容も声の抑揚も心にじぃーんと来るものがあり、
そのせいかすすり泣く声も多くなった。
最後まで八木の凄さを見せつけられたけど卒業式はその後終了し、
温かい拍手と音楽に見送られながら私達は体育館を後に舌。
八木は静かに壇上に上がり
私は、小松 みどり。
ねえ、ハイカラさん。
私が卒業証書を受け取る処、ちゃんと見ててくれた?
しっかりと受け取ったよ? えへへ!
にしても、お母さんは泣きすぎなんだから!
私がこんなに泣いちゃったのはお母さんの遺伝のせいだからね?
……石川先生、あんなに泣いちゃって大丈夫かな?
これから最後のホームルームがあるって言うのに……。




