本日は第一志望の高校の合格発表の日だけど……。
本日は【みどり】達の第一志望の高校の合格発表の日である。
だが、【みどり】はベットから下りれそうになかった。
そして、【みどり】はその理由を【ハイカラさん】に伝える。
すると、久しぶりに例の扇子を使った【ハイカラさん】の厳しい指導が入ってしまう……。
「おはよう。ハイカラさん……」
「おはようございます。みどりさん」
私は、小松 みどり。
もうすぐ中学三年生の生活を終える。
今日は二月のとある日。
高校受験の合格発表の日なのだ。
しかも、美雪と同じ第一志望である高校のだ。
今更だけどとても緊張している。
あの高校受験の日の事は、はっきりと覚えていたはずなのに、今は何も覚えていない。
どうしてかな?
覚えていないどころか、失敗した処ばかり思い出されるのは。
だから、今日は行きたくない。
美雪と約束しているけど、高校の合格発表の場所には行けそうになかった。
「みどりさん。どうなされたのですか?
早く準備をしなければ、マーちゃん殿の飼い主殿との約束に遅れますよ?」
「そうなんだけど……」
「みどりさん?」
久しぶりに私の頬を温かいものが伝っていた。
しかも、あまり伝わらないでほしい暖かさのものが。
そう、悲しいという冷たい暖かさ。
今の私には合格者の中に自分の番号がない結果が見えている。
そして、美雪から憐れみの目で見られている結果が。
どうしよう……。
両親に何て言えばいいの?
阿部に何て言えば……。
そして、ハイカラさんに……。
ハイカラさんとは今、私が話している、黒髪で、日本人形のような顔をした、
年齢不詳の女性の幽霊の事である。
ハイカラさんは私が中学三年生になった時から私の守護霊になってくれている。
ハイカラさんがいたから私はここまでがんばってこれた。
不登校で、何も出来なかったけれど変われた。
色んな事に逃げずに挑戦出来るようになった。
親友も、友達も出来た。
そして、心から笑う事が出来るようになった。
全てハイカラさんのおかげである。
だから、私を変えてくれたハイカラさんの期待に答えたかった。
だけど、どうやら期待には応えられないみたいだ。
私は落ちている。
その現実が目の前に来ると、目の前が真っ暗になった。
そして、目の前が真っ暗になっている私の頬を伝わる温かいものは止まる事を知らなかった。
だけど、そんな私にハイカラさんが話し掛けてきた。
「みどりさん、顔を上げてください」
「無理だよ……」
「何故です?」
「だって……。ハイカラさんの期待に応えられなかったから……」
「私の期待?」
「私、絶対に試験に落ちてる……。
私、試験に受かってハイカラさんに喜んでほしかったの……。
なのに、なのに私は……」
私はしゃくりあげる程泣いてしまった。
ハイカラさんに申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまったからだ。
だけど、泣き続ける私にハイカラさんがした事はこうだった。
「へっ⁉ ひえぇーーっ‼
何するのハイカラさん⁉」
ハイカラさんは例の扇子を扇ぎ、私を宙に浮かしたのだ。
「ねえ、ハイカラさんったら! 下してよぉ‼」
ハイカラさんは私が頼んでも私を無視し、下してはくれなかった。
どうやらハイカラさんは怒っているみたいだ。
理由が分からない。
だから、聞いてみた。
「ねえ、ハイカラさん! 何で怒ってるの?」
それでもハイカラさんは何も答えてはくれなかった。
何故ハイカラさんは怒っているの?
私は考えた。
でも、やっぱり分からなかった。
すると、漸くハイカラさんが口を効いてくれた。
「みどりさん……。まだ私が怒っている理由が分かりませんか?」
「分かんない! 私はハイカラさんを怒らせるような事はしてないもん‼」
「しております!」
「何をしたって言うの? 私は悲しいのにどうしてそんな事を言うの?」
「何故悲しいのです?」
「何故って、試験に落ちたからでしょ?
あんなにハイカラさんとがんばってきたのに、それが無駄になったんだよ?
悲しいに決まってるじゃない‼
ハイカラさんに喜んでもらえないじゃない‼」
私はハイカラさんに気持ちをぶつけた。
ハイカラさんならここまで言わなくっても分かってくれてると思ってた。
なのにハイカラさんは私の気持ちを全然分かってくれてなかった。
悔しい気持ちでいっぱいになった私の目から、また大粒の涙が零れた。
すると、私はふわっとベットの上に下ろされた。
でも、気持ちを分かっていなかったのは私の方だった。
「みどりさん……。私も悲しいです。
あなたがそのような事の為に一年間がんばってきたという事に」
「えっ⁉ どうして? 私、ハイカラさんの為に……」
私がまだ言い足りない内にハイカラさんが私の口に扇子を突きつけ何も言わせないようにしてきた。
「みどりさん。まだそのような事を仰るのですか?
誰かの為に一生懸命になる……。それは、とても素晴らしい事です。
ですが、今のあなたのそれは違います。
今のあなたのそれは唯の逃げる行為です
みどりさん、 もう一度考えてみてください。
あなたがいままで努力してきた事を。
それは、何の為だったのかを……」
そう言い終わると、ハイカラさんは扇子を下した。
そして、私は考えた。
今までどうしてがんばってきたのかを。
そう、がんばってきたのは誰かの為じゃない。
私の為だ。
中学三年生の四月最初の 月曜日。
私は、ハイカラさんと出会った。
そして、あの時、何故か怖さの中にハイカラさんを信じたい気持ちが出て来た。
それはきっと、私が変わりたかったからだったんだ。
私はその為に今までがんばってきたんだ。
誰かに喜んでもらう為なんかじゃない。
私は私の為にがんばってきたんだった。
その私の為に、ハイカラさんは力を貸してくれた。
両親も、阿部も、他の先生も力を貸してくれた。
そうだったのに、私は……。
思い直した私は真直ぐハイカラさんを見つめた。
「ハイカラさん、ごめんなさい。
私、間違ってた……」
「みどりさん。分かってもらえれば結構です」
ハイカラさんは私が言い終える前に穏やかな顔でそう言ってくれた。
きっと私の気持ちが分かったのだろう。
ハイカラさんが私の守護霊だからだけでなく、私をずっと見守ってくれてたから。
やっぱりハイカラさんは凄い
そう改めて思うと、私は落ち着く事が出来た。
でも、やっぱり現実を見るのは怖かった。
「ねえ、ハイカラさん……」
「何でしょう、みどりさん」
「合格発表される場所まで一緒に来てね?」
「勿論です。私は、みどりさんの守護霊ですので」
「ふふっ。そうだったね……。でね、もし、もし落ちてても一緒にいてね?」
「私は、みどりさんが受かっていると信じておりますので、その事は約束出来兼ねます」
「ハイカラさんったら!」
どうしてかな?
ハイカラさんにそう言ってもらえると、さっきまでの闇の姿が何処にも見当たらないのは。
ベットから下りて準備が出来るのは。
まだ薄っすらだけ残ってる闇の余韻は怖いけど、私は準備をしてハイカラさんを見て笑った。
すると、ハイカラさんは微笑み返してくれた。
その微笑みは私の足を前に進ませてくれた。
だから私は階段を下りて玄関を出る事が出来た。
そこには鼻を通る風が冷たい冬の朝の景色があった。
でも、太陽の光は不思議と少ない空気の水分に反射してキラキラしていて、私を出迎えてくれた。
そして、そのキラキラの出迎えの中に美雪もいた。
私は、小松 みどり。
ハイカラさん……、ありがとう!
どんな結果になっても、私のがんばりは絶対に消える事はないものね。
だから、私は行くよ、結果を受け止めに!
あっ、でもその前に顔を洗わなきゃ酷い事になってる⁉
……よしっ! 目が腫れちゃってるけど仕方がない!
さあ、行こう!
って、あれ……美雪ちゃん?




