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私達のクラスの演劇を舞台下から観よう!

 【みどり】達はこれから自分達のクラスの演劇を観る事となる。

 本番さながらの衣装や演出を観た【みどり】の感想は如何に……。

 私は今、文と体育館にいる。

 しかも、壇上の舞台膜の裏側といった普段ではあまり入れない場所にいるのだ。

 と言っても、そこには特に何もない。

 けど、特別な感じはした。

 その壇上の舞台膜の裏は今、私達のクラスの演劇に出演する者の控室と化している。

 なので、私と文は衣装を渡したら去らなくてはならないのだ。

 そんな私達はこれから本番さながらの演劇を舞台の下から観る事となる。

 前項生徒が入れる体育館に私達のクラスだけというのは物寂しい感じがするけど、

特別感があってそれはそれで良いものである。

 文化祭での本番もそうだけど、

今回のリハーサルは暗い中でスポットライトの光を演出者に当てて行われる。

 正面、左右からのライトの係の生徒は本番まで練習機会があまりないので大変だ。

 そういった生徒達が配置につき、ざわざわと演劇を観る生徒達が話していると美雪が合流した。

「みどりちゃん、文ちゃん、お待たせ!」

「美雪ちゃん。間に合って良かった!」

「そうそう、宮本さん。遅れたら石川先生に嫌味を言われるところだったよ?」

「別にぃ? 私、義猿なんかに何言われても平気だし!」

「もしかして、ヨシサルって、石川先生の事?」

「そうだよぉ! 結構、いいあだ名でしょ? 文ちゃん」

「ふふっ。そうかもね」

「カモ、じゃないの!」

 そんな話をしていると、石川の相変わらずの濁声の号令で体育館は静まった。

 すると、体育館の電灯は落とされた。

 体育館の窓に設置している黒いカーテンは全て閉められていたので、体育館は真っ暗になった。

 そんな真っ暗な体育館で急に誰かが私にくっついてきた。

 それは、文だった。

「ふ、文ちゃん? どうしたの?」

「ごめんね、小松さん。私、暗い所がちょっと苦手で……」

「へえ、そうなんだ」

「うん。何か、幽霊とか出そうな気がするからね……」

「はは……」

 苦笑いをした私の左隣には、私の守護霊のハイカラさんがいる。

 ハイカラさんは、黒髪で、日本人形のような顔をした、年齢不詳の女性の幽霊である。

 幽霊だからと言って、別に怖い事はない……と思う。

 ハイカラさんはその名の通り、袴をはいたハイカラスタイルである。

 勿論、その他のお洒落道具は持ち合わせていない。

 持っているのは、例の扇子である。

 この扇子は色んな奇跡を起こせるし、とてもお洒落なデザインだ。

 なので小道具のパラソルなんかには負けていない。

 そんなハイカラさんと、私は心の中で話す事にした。

「ハイカラさん、気に障っちゃった?」

「いえ、大丈夫です」

「なら、良かった! じゃあ、もっと傍に来てね」

「承知しております」

 そう、文に言えない程、私は怖がりである。

 だからこのカーテンを閉められ電灯を落とされた真っ暗な空間は苦手だ。

 だけど、同じような気持ちの文と安心出来るハイカラさんがいれば、苦手も克服出来そうだ。

 そう思うと、私はくすっと笑った。

 そして、それに気づいたのはハイカラさんだけだった。

 それから私達のクラスの演劇、'ハイカラ女学生の恋'の上演が始まった。

 その舞台は明治時代後期から大正時代にかけてだ。

 八木演じるハイカラ女子は華族、しかも上位の御令嬢である。

 そして、伊藤演じる男子学生は一般家庭の苦学生である。

 身分違いの恋で実る訳もないが二人は魅かれ合い、そして……、

といった恋愛要素たっぷりの内容なのだ。

 普段のリハーサルで八木達が私達と同じ制服を着て電灯の下で演じていた時は何とも思わなかった。

 けど、こうやってスポットライトの中、八木が私達が製作した衣装を着て浮かび上がると、

それは一変した。

 ハイカラ衣装の装いの八木が舞台袖からお洒落なパラソルを拡げ、

これまたお洒落なブーツで足音を鳴らしながら気品ある顔で舞台中央まで進む。

 そして、そこでくるりと一回りして観客に小悪魔な笑顔を向ければ、皆の心を鷲掴みと言う訳だ。

 きっと、何も知らなければ、絶対にそうなる。

 いや、知っていても危うい。

 あんなにも可愛いのだから。

 そんな八木が台詞を言って暫くして伊藤演じる苦学生が本を読みながら歩いて来る。

 そんな伊藤の衣装は八木に比べ、かなりシンプルである。

 伊藤の衣装は普段着ている制服に、私達が作成したマント、系列の小学校の学生帽子をかぶり、

下駄を履かせるといったものだった。

 エキストラの生徒が皆、八木を見る中、

伊藤だけは全く八木を見る事なく舞台の端から端まで通り過ぎる。

 一度目は八木は伊藤に気付かず周りのエキストラに笑顔を振り撒くのだが、

次に伊藤が八木に気付かず通りすぎようとした時、八木が伊藤に声を掛けるのだ。

 その理由は単純明快。

 皆が自分を褒めるのにどうして伊藤は褒めないのか。

 その答えも単純明快。

 勉学に集中している為だ。

 今までにない人間との出会いに八木は、イライラしながらも伊藤に魅かれていく。

 そして、伊藤は身分違いだという事が分かっており距離を取ろうとする。

 けれど、八木の一途な所に魅かれていき、二人は段々と距離を縮めていくのである。

 そんな風に演劇が盛り上がって来た時に、ハイカラさんが茶々を入れてきた。

「しかし、メェメェがあのように人が良いとは思えませんわ!」

「もう、ハイカラさんったら! これは演技なの‼」

「ですが、あのように良き大和なでしこなんて、似合いません!」

「そう? あんな綺麗な大和なでしこだったら憧れちゃう!」

 私達が演劇の内容と違う所で討論していると演劇は最高潮を迎えようとした。

 決して結ばれない二人は、駆け落ちを考えていた。

 そして、何もかも捨てる気でいた八木演じる大和なでしこはその身一つで約束の場所に行った。

 そこで、少し早く到着してしまった八木演じる大和なでしこは上を向いて何処かを見つめる。

 客席から見ると壇上の八木演じる大和なでしこの顔は程好い斜めの角度で、

客の心をぐっと引き寄せるのである。

 一体どこまで計算されているのかは定かではないけど、凄い演技力だ。

 私達が八木の演技力に引き込まれていると、鐘の音が響いてきた。

 それは約束の時間を告げる鐘の音だった。

 しかし、伊藤は姿を見せなかった。

 その代わりに、伊藤が愛用していた本が置かれていたのだ。

 その本にしおりが挟まっており、八木演じる大和なでしこはそれを抜き取り目をやる。

 そのしおりにには、こう書かれていた。

ーー

 君思ふ 別れの色に 染まりけり まつなき心は 散る花もなし

                              --

 その言葉を口にし八木演じる大和なでしこは涙を流しその場に崩れ、

スポットライトはフェードアウトして演劇は終了した。

 あの二人がどうなったのかという謎を残したまま、舞台は真っ暗になり、

そして体育館全体に灯りが灯った。

 まだ目がチカチカするけど舞台に演出者全員が集まっている事が分かると、

周りから拍手の音が聞えてきた。

 それにつられ、私も拍手した。

 勿論、八木を筆頭にこの素晴らしい演劇全てに対して拍手した。

 でも、あの涙は何だったのか。

 八木からはそれを微塵も感じさせられない笑顔が溢れていた。

 やはり、八木は大女優である。

 私が感心していると美雪が話掛けてきた。

「ねえねえ、みどりちゃん。メェメェのハイカラ衣装、すぅんごくいいね!

 メェメェにはもったいないよ!」

「そ、そう? 嬉しい! 文ちゃんと一緒に作った甲斐があったよ!」

「いいな! 私も二人が作った衣装、着たかったなぁ……」

「私も宮本さんがあの衣装を着ているところが見たかったなぁ。

 ところで宮本さんは、演劇部で何をするの?」

「へへぇーん! 題して、'ハチャメチャ白雪姫'の主役の白雪姫だよ!」

「えぇっ⁉ 宮本さん、何それ?」

 私もそれを聞きたかった。

 けれど片付けの時間が迫っていたのでそれはお預けとなってしまった。

 それからホームルームが終わると美雪はまた演劇部に行ってしまった。

 文は塾に行くらしく、ばいばいと挨拶だけして別れた。

 そして、私はと言うと、これからある部屋へと向かうのである。 

 


 私は、佐藤 文。

 小松さん、ごめんね。

 さっきは頼っちゃって……。

 でも、小松さんって時々、誰もいない所を見てるよね……。

 ま、まさか、小松さんって⁉

 ね、ねえ、小松さん、何所に行くの?


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