芸術の秋の十月の始まりだ!
十月のとある日の昼休み。
【みどり】は美雪ではなく、ある人物と過ごしている。
その人物とは……。
九月も終わり十月を迎え本格的に秋らしくなってきた。
秋と言えば、芸術の秋だ。
スポーツや読書という人もいるかもしれないけど、今の私は芸術の秋を推したい。
何故なら、八月のボランティアで見つけやってみたかった事が身を結びそうだから……。
☆*☆*☆
「小松さん、宮本さんは?」
「文ちゃん。美雪ちゃんはもう、演劇部の集まりに行っちゃったよ」
「そっかぁ……。そうだよね、文化祭まで一週間ないものね」
文化祭まであと一週間をきった十月のある日の昼休み。
私は、文と話している。
私達は修学旅行以降、友達になりよく話すようになった。
だけど、美雪は修学旅行以降、演劇部の集まりで話せる機会が減ってしまった。
それは、文化祭でお披露目される演劇部主催の演劇のせいだ。
美雪にとって、中学最後の舞台。
熱が入らない訳がないのである。
そして、美雪に有終の美を飾ってほしい私達は陰ながら応援しているのだ。
陰ながらと言うのは、文化祭で私達のクラスでも演劇をやらなくてはならないからである。
と言うのも、私達の中学校では中学三年生は文化祭で演劇をやらなくてはならないのだ。
所謂、伝統と言うものである。
そう言う訳で、美雪の分の仕事も私達二人が受け持っている。
美雪には演劇部の方に力を全振りしてほしい。
なので、文も協力してくれているという訳だ。
そんな私達の仕事は、小道具係である。
私達のクラスの演劇で使う小道具を作るのだが、私達は衣装を任されている。
「折角なら、私達が作った衣装を宮本さんに見て欲しかったね」
「文ちゃん。美雪ちゃんの厳しいチェックを受けるのって、結構、大変だよ?」
「ふふっ。それもそうね!
でも、小松さんが器用で本当に助かった!
こんなにも良い衣装が出来たんだもの」
「そ、そんな事、ないよ……。
それに、文ちゃんが綺麗に色付けしてくれたからだよ!」
確かに、私は器用な方だと思う。
だけど、ここまで上手く出来たのには、いくつか理由がある。
そのうちの一つは、私の後ろにいる、黒髪で、日本人形のような顔をした、
年齢不詳の女性の幽霊のおかげなのだ。
彼女の名は、ハイカラさん。
私の守護霊である。
ハイカラさんは私以外の人には姿は見えず、声も聞こえない。
なので、私の後ろに立っていても大丈夫なのだ。
さらに私とハイカラさんは普通に話す以外に心の中でも話せるので、
色々と助かる事も多いのである。
「ねえ、ハイカラさん。ハイカラさんのおかげで文ちゃんに褒められちゃった!」
「いえ、私は助言をしたまでです」
ハイカラさんは謙遜しているけど、そうではない。
実は私達のクラスの演劇の舞台は明治時代から大正時代にかけての時代設定だったのだ。
そこでその時代に詳しいハイカラさんの助言がかなり役立った。
さすがに本物の着物は作れなかったけどそれっぽい衣装を作る事が出来たのは、
ハイカラさんの考案したデザインが良かったからである。
そのハイカラさんのデザインに文の色彩豊かなセンスが加わって、
誰からも好評な衣装のデザインは完成したのだ。
なので、誰からも苦情が出る事がなく、すんなり衣装を作る工程へ進めた。
それからハイカラさんと文の協力の下、衣装を作っていった。
そして、衣装はほぼ完成したが、ハイカラさんは御機嫌斜めである。
何故なら、この衣装を着る人物の一人が八木だからだ。
私達のクラスの演劇の主演は、伊藤と八木である。
そして、予算の関係上、その二人の衣装のみ作る事となり、今に至る。
ちなみに伊藤の衣装には大して何もしていない。
「ハイカラさんったら、機嫌、直してよ!」
「みどりさん。私は機嫌は悪くありませんが?」
「もう……」
ハイカラさんは八木を嫌っている。
けれど、八木が私達のクラスの演劇の主演に選ばれるのは当然なのである。
あの容姿では誰も勝てる人はいない。
八木が舞台にいるだけで、華があるのだ。
そんな八木は身長が高い。
それだけでなく、モデル体型だ。
その八木に見合うだけの身長と体型を持った男子はそうはいなくて、
諸々の事情を踏まえて選ばれたのが伊藤なのだ。
はっきり言って、伊藤もかなり女子にモテる。
なので、この二人がこの衣装を着て並んでいたら、明治、大正ロマンという言葉がピッタリなのだ。
そんな二人が主演する演劇の題目は'ハイカラ女学生の恋'である。
ハイカラとは、高い襟を意味する英語の、【high collar】から派生した言葉で、
洋風のファッションや生活を好む人を明治時代そう呼んでいた
今ではお洒落等の言葉として用いられている。
そして、明治時代から大正時代までの女学生の事を、ハイカラさんと呼んでいたのだ。
なので、私の守護霊のハイカラさんは、この時代に生きていたのだろう。
私は、ハイカラと言う言葉を聞いてからその意味を調べていた。
だから、ハイカラと言う意味を知っていた。
そして、今回の事でハイカラさんがそうであったと確信した。
だからと言って、どうって事はない。
けど、ハイカラさんが当時の流行であった海老茶袴に庇髪、
編み上げブーツといった装いのハイカラさん女学生だったのは容易に想像出来る。
しかも、 あの容姿だから、絶対に華があったに違いない。
それを想像すると私の頬が赤くなった。
すると、慌ててハイカラさんが声を掛けてきた。
「みどりさん⁉ 大丈夫ですか? 熱があるのでは?」
「ううん⁉ そ、そうじゃないの……」
「ですが、顔が赤いですよ?」
「それはね……」
私は少し俯いてハイカラさんに心の中を見てもらった。
私が想像した、私と同じくらいの歳のハイカラさんの姿。
勿論、その装いはハイカラさん達と作り上げたあの衣装。
それに今回の演劇に持ち込まれた可愛らしい傘とブーツが加わったもので、
その背景には菖蒲草を咲かせてみた。
それに私の感想を添えると、今度は、ハイカラさんの頬が赤くなった。
「あれぇ? ハイカラさん、熱が出ちゃった?」
「こほん! お戯れも大概になさってください!」
「えぇー? 結構、真面目なんだけどな……。気に入らなかった?」
「そ、そうではありませんが……。その、少々、美化しすぎているのかと……」
「しすぎてなんかないよ!」
私は心の中でそう言って、ハイカラさんに心の中のキャンパスを渡した。
題名は'憧れのハイカラさん'である。
それに私の気持ちをサイン替わりに添えてハイカラさんに渡した。
これは私のハイカラさんへの感謝なの。
受け取ってほしい。
すると、暫くして、ほほっと笑う声が聞こえ、
「みどりさん。ありがたく受け取らせていただきます」
というハイカラさんの声が聞えた。
そう言ってもらえた私の顔はきっと、へにゃらってなってる。
確認するまでもなくそう思っていると、
「こ、小松さん? 大丈夫?
急に落ち込んだかと思ったら、そんなにはにかむなんて……」
て、文に心配されてしまった。
「ご、ごめん! ちょっと思い出した事があって!
でも大丈夫だよ!」
私は文に心配されまいとそう言って笑った。
「ふふっ。小松さんらしいね!」
「へへっ、そうかも!
あっ、文ちゃん。もうすぐ昼休みが終わっちゃうから、体育館に行かなくちゃ!」
「そうだね、小松さん」
実は、これから五、六時限目を使い、
私達が作成した衣装を着てのリハーサルが体育館で初めて行われるのだ。
今まで数回行われてきたリハーサルは制服姿のままだったけど、
今回のリハーサルで初めてこの衣装を着て本番を迎えるのである。
何か変に緊張してきたけど、早くそのリハーサルが見てみたい。
そんな気持ちと二人と私は体育館に向かって行った。
私は、小松 みどり。
文ちゃん、楽しみだね!
早く八木さんがあの衣装を着ているところが見たい!
んっえぇっ⁉
ふ、文ちゃん、どうしたの?




