ハイカラさんと、秘密の銀河鉄道の夜の旅へと出発だ!
深夜、【みどり】は密かに【ハイカラさん】とバンガローを出た。
そこには満天の夜空が広がり、二人は心奪われる。
そこで【みどり】は【ハイカラさん】に沢山の星々の話を語り、目的地に着くのだが……。
足音を立てず、息を飲みながら歩き、私は静かにバンガローを出た。
何となく、誰にも気づかれたくなかったから。
そしてバンガローを出ると、そこは満天の星空だった。
「凄く、綺麗!」
「とても綺麗ですね」
私とハイカラさんは、夜空に輝く星達に心を奪われた。
ハイカラさんとは、私に付き添ってくれている、黒髪で、日本人形のような顔をした、
年齢不詳の女性の幽霊の事である。
ハイカラさんは、私の守護霊だ。
だから、ちょっぴり怖がりな私に付き合ってくれている。
そんな私は、星空が好きだ。
「ねえ、ハイカラさん。見て見て! しし座があんなに綺麗に見えるよ!」
「ほう、といかけ座の事ですね」
「といかけ座って、何?」
私はバンガローから離れた場所にあるトイレに歩いて行く間、ハイカラさんと話した。
ハイカラさんが言う、といかけ座とは、しし座の事らしい。
しし座の形が雨樋を支える金具に似ている事からそう呼ばれているみたいだ。
そんな といかけ座が美しく輝けばその年は豊作になると信じられている土地もあったとか。
そして、天の川の下を二人で歩きながら今度は私がハイカラさんに しし座について教えた。
しし座は、八月生まれの私の星座である。
だから、特に しし座に目がいったって事を。
そんなしし座には神話があって、しし座のモデルが人喰いライオンだと教えると、
ハイカラさんは驚いた。
「まあ⁉ 何と恐ろしい!」
「でもね、その人喰いライオンは、勇者ヘラクレスによって倒されたんだ!
それで、ヘラクレスが嫌いだった女神のヘラが、
人喰いライオンを讃えて夜空の星にしたんだって!」
「ほう……。みどりさんは星座にお詳しいのですね」
「まあね。好きだから」
「何か他の星座を知っておられますか?」
「そうだな……」
私は夜空に輝く一際明るい赤い星を指差した。
「あれが、さそり座のアンタレスだよ!
火星に対抗するものって意味で、火星みたいに赤く輝いてるでしょ?」
「ほう……。何と美しい赤色でしょう!」
「でね、さそり座にも神話があって、さそり座になったさそりが、
狩人 オリオンを倒しちゃったんだって!
それからというもの、さそり座が夜空に上ると、
逃げるようにオリオン座は地平線の下に沈んじゃうんだよ!」
「まあ、オリオン殿はヘラクレス殿と違い、敵前逃亡をするのですね!」
「まあ、そんな所かな?
でね、他の話もあるんだよ!」
私は銀河鉄道の夜に出てくる、さそりの話をした。
その話では、いくつもの命を奪ったさそりが自分の命が尽きる時、
神様に、次に生まれた時にはみんなの幸せの為に自分の体を使ってくださいっと願ったって事を。
そして、そのさそりの願いは叶い、真っ赤な美しい火となって、
夜空をみんなの為に照らす様になったんだって事を。
「さそりの願いが通じて、よろしかったですね」
その話を聴いていたハイカラさんは切なくそう言った。
それから私はまた夜空を見上げ、今度は さそり座達とは反対の方を眺めた。
そこには勿論、アルタイルとベガが天の川を挟んで輝いていた。
だけど、その二つの星々は、寂しそうに輝いている気がした。
綺麗なはずなのに、何だか悲しくなってきた。
「今年は七夕が晴れるといいな……」
「まあ、みどりさんはロマンティストなんですね」
「そ、そんなんじゃないって‼」
何故だろう……。
小学生の時は、そんな事は思わなかったのに。
久しぶりに、こんな綺麗な夜空を見たから?
それとも、小学生の時と見えている何かが違うから?
それとも……。
私はこの自然の家キャンプに参加して、少し大人になった気がした。
だから、見える世界が変わったのかもしれない。
そう思うと、またハイカラさんに感謝した。
すると、目的地が見えて来たので、ハイカラさんに、ここで待っててと頼み、そこへ向かった。
そして、薄暗いトイレには、誰もいないと思っていた。
だけど、その暗闇からピンク色のタオルで顔を覆い隠した人が浮かび上がってきた。
「ひ、ひひえぇーーー⁉ おばけぇーーー‼」
そう叫んだ私は腰を抜かしてしまい、その場にしゃがみ込んだ。
足が、ガクガクして、息が止まるかと思ったのに、それは、おばけではなかった。
「大丈夫、小松さん?」
「その声は、八木さん⁉」
さらさらと水が流れる音と虫の声が残る静寂の中、八木の声は不気味に響いた。
私が八木であろう人物を見上げていると、
その人物はタオルで顔を覆い隠したまま、くすくす笑い出した。
「面白いものを見ちゃったな!」
「えっ?」
「小松さんって、とっても怖がりなんだねぇ」
「ははっ、まあ、そうかもしれない……」
「そんなに怖いんなら、大好きな宮本さんに付いて来てもらえば良かったのに」
八木のその言い方で、分かった。
八木が私達に、あれをやっている事を。
だから、
「八木さん、これ以上、嘘をつかないで‼」
と言って、私は立ち上がり、八木らしき人物を真正面から見た。
「嘘って、何の事?」
「惚けないで‼ 佐藤さんを利用して私達の変な噂を流したでしょ?」
「知らなぁーいわ。変な言い掛かり付けないでよ」
これ以上、八木に何を言っても無駄であると私は確信した。
だけど、これだけは言ってやった。
「次に私達に変な事をしたら、許さないんだから‼」
何の根拠もないが、私は、言ってしまった。
でも、達成感はあった。
そんな私の横を先程の私の言葉を無視し八木らしき人物は無言で通り過ぎた。
そして、通り過ぎて暫くして、出来るものならねという八木の声が聞こえた気がした。
それから私が身震いしていると、今度は安心出来るハイカラさんの声が私を後ろから包み込んだ。
「みどりさん、大丈夫ですか?」
「何とかね。ちょっと怖かったけど……」
「お見事でしたよ」
「でも、八木さんに喧嘩を売ってしまった……。どうしよう……」
「大丈夫ですよ。みどりさんには味方が多いですから」
「私に味方が多い⁉」
私がハイカラさんを見ると、そこには穏やかな顔をしたハイカラさんがいた。
そのハイカラさんの顔を見ると、また私はハイカラさんを信じれた。
だから、私は笑って答えたのに、
「みどりさん、お手洗いはよろしかったのですか?」
と、ハイカラさんは、空気を壊し、それを思い出させた。
それを思い出した私は、駆け込んだ。
色々と冒険したけど、またバンガローまでの帰り道、ハイカラさんに星座の話をした。
夏の星座で忘れてはならない、はくちょう座。
はくちょう座にあるデネブと、織姫と、彦星を結ぶと出来る三角形の事を話すと、
またハイカラさんは私を褒めてくれた。
そして、私はまた銀河鉄道の夜に出て来る、はくちょう座のサファイアと、トパーズの事を話した。
「私、銀河鉄道の夜を読んで星が好きになったんだ!」
「でしょうね。とても素敵な話なので、天の川を駆けている気にさせてくれますし」
「そうでもないんだ……」
私は、銀河鉄道の夜の結末を話した。
すると、ハイカラさんは悲しい顔になってしまった。
そうやって私とハイカラさんの秘密の銀河鉄道の夜の旅は終点駅であるバンガローに着き、
終了した。
そして、終点駅で私だけ降りた。
「ハイカラさん、ありがとう」
「いえ、私は、みどりさんの守護霊ですから」
「ふふ、ハイカラさん、いつもそう言うね」
「こほん! さあ、もう遅いですから、おやすみなさい」
「うん。でも、これだけは言わせて。私、この自然の家キャンプに来て、良かった。
ありがとう、ハイカラさん。そして、おやすみなさい」
それから私はまた足音を立てず、息を飲んで、バンガローの中を歩いた。
そして、熟睡している美雪の横で眠る事にした。
今度は静かすぎても眠れた。、
そんな私は夢の中で今日の復習をしていた。
正確に言えば、私がハイカラさんに色々と教えた事をだけど。
絶対に忘れないように、夢の中の私は何度も復習した。
そして、目が覚めても私はハイカラさんとの銀河鉄道の夜の旅を忘れてはいなかった。
私は、小松 みどり。
ハイカラさん、とっても星空が綺麗だったね!
みんなに内緒って言うのも、何だか、わくわくして楽しかった!
またいつか、こういう旅をしようね!
にしても、八木さんは何をしていたのかな?
どうして、タオルを掛けていたのかなぁ?
何か、見ちゃ悪かったような……。
何かされなきゃいいけど……。




