宿題を終えて交わした約束達
【みどり】は、【美雪】と協力し、【阿部】の宿題を完成させた。
そんな、【みどり】は、【ハイカラさん】と、【マーちゃん】、それに【美雪】とある約束を交わす。
そして、【みどり】は、また、……。
私は美雪の家で一緒に阿部の授業の宿題を完成させた。
そして、美雪は私達が食べ終わったお昼ご飯の食器を片付けるがてら、
自分の母に自信作の宿題を見せに行ってしまった。
つまり、今はこの美雪の部屋には、私と、ぐっすり眠っているマーちゃんしかいない。
そんな中、私はある狡い事を考えていた。
そして、
「ハイカラさん」
と、ハイカラさんを呼んだ。
ハイカラさんとは、黒髪で、日本人形の様な顔をした、年齢不詳の女性の幽霊で、
私の守護霊である。
でも、今は諸事情でハイカラさんは私から離れている。
「みどりさん。宿題とやらが終わりまして?」
「うん。終わったよ。ハイカラさん、ちょっとこっちに来て」
「承知しました」
そして、私の傍にハイカラさんは戻って来た。
「どう? 私、佐野天明鋳物でこれを作ろうと思うんだ!」
「ほう。これは、マーちゃん殿の肉球ですね」
「そうだよ。可愛いでしょ? マーちゃんの肉球、触らしてもらったんだ!」
「そうでしたか……」
「ねえ、ハイカラさん。マーちゃんはね、今、ぐっすり眠ってる」
「その様ですね」
「だから、今なら触っても大丈夫みたい」
「どういう意味でしょうか?」
「私を通じて、マーちゃんを触ってみて!」
「で、ですが……」
「私ね、思い出したの。初めてマーちゃんに会った時、ハイカラさんと同じ事をされたんだ。
意外とマーちゃんも臆病みたいで、慣れるまではあんな感じだったよ」
「そうでしょうね……」
「だから、今は、こそっと触ってみてよ。その内マーちゃんも、慣れるはずだよ?」
「みどりさん……」
「きっとね、こういう風に美雪ちゃんと宿題をする機会がまた来ると思うの。
その時、ハイカラさんも一緒に来るでしょ?
そうすると、その内マーちゃんも慣れてくるから!」
私はハイカラさんに何かをしてあげたかった。
狡いけど、今の私に出来る事はこれしかなかった。
「それにね、私、マーちゃんの肉球の感覚、忘れちゃいそうなの!
そうなると、佐野天明鋳物は完成出来なくなっちゃうよ!
そうなったら、ハイカラさんのせいだからね‼」
「そ、それは困りますね!」
「でしょ? じゃあ、ハイカラさん、責任持って、覚えててよ?」
「何と⁉ で、では、みどりさん、お願いいたします!」
「お願いします、ハイカラさん!」
そして、私とハイカラさんは一緒にマーちゃんの左前足の肉球を触った。
すると、マーちゃんはくすぐったかったのか、左前脚を大きく広げた。
それは、ふっくらとしたクリームパンの様に。
「こ、これは⁉ この様に拡がるのですね!」
「凄いね。こんなに大きくなるんだ……」
「ですね。そして、何とも言えぬ、柔らかさ……」
「マーちゃんは家猫だから、お外に行かない分、肉球は柔らかいんだって、美雪ちゃんが言ってた」
「なるほど……」
ハイカラさんは、マーちゃんの左前足の先の方だけを触ったのに幸せそうだった。
もっとマーちゃんと触れ合ってほしかったけど、ハイカラさんは私の右手から離れてしまった。
「ハイカラさん⁉」
「もう十分ですわ」
「そう……」
「また、次回、お願い出来ますか?」
「勿論! 約束だからね!」
「はい。約束します」
ハイカラさんとそう約束すると、満面の笑みの美雪が戻って来た。
「ねえねえ、みどりちゃん。お母さんに凄く褒められたよ‼」
「良かったね」
「うん! 全部、みどりちゃんのおかげだよ!」
「そんな事ないよ。私だって、美雪ちゃんのおかげで宿題終わらせる事が出来たんだし……」
「全部、マーちゃんのおかげだね!」
「そうだね。マーちゃん、ありがとう」
私がマーちゃんにお礼を言うと、
マーちゃんは薄目を開けて私と、恐らく、ハイカラさんを見つめてきた。
やっぱり、マーちゃんにはハイカラさんが見えてるんだ。
そう実感すると、マーちゃんにある頼みごとをしてしまった。
「マーちゃん、次は、驚かないでね」
「みどりちゃん。マーちゃんは何かの音にびっくりしただけだから‼」
「そっか。ねえ、美雪ちゃん、また、遊びに来てもいいかな?」
「勿論だよ! 来て来て!」
そして、私は美雪とも約束をした。
今考えると、この数年間、こういった事をしてこなかったのはもったいない事だった。
一緒に宿題をする。
一緒に遊ぶ。
そして、些細な事だけど、友達と約束をする。
こんな楽しい事が出来た時間を私は何もせずに無駄に過ごしてきた。
私はちょっとだけ後悔し、そして、美雪とマーちゃんに感謝しながら美雪の家を後にした。
それから、家路に着くまでの一〇分程の間に、私は、ハイカラさんと話した。
「ねえ、ハイカラさん」
「何でしょう、みどりさん」
「私の守護霊になってくれて、ありがとう」
「急にどうなされたのですか?」
「何となく、お礼が言いたくなったの」
「では、私の方からも、言わせてもらいます。みどりさん、ありがとうございました」
「ハイカラさん?」
「私も、何となくそう言いたくなったのです」
「何、それ? 変なハイカラさん!」
「こほん! 今日は見逃しましたけれど、明日からはそうはいきませんからね!」
「どういう意味?」
「無論、明日からはいつもの様に起きていただきます。
それから、規則正しい生活をしていただきますからね!」
「嘘ぉ‼」
「嘘をつく訳がないでしょう?」
「ハイカラさん、厳しい……」
「厳しいのは当然です! 私は、みどりさんの守護霊ですから!」
私は、また少しだけ後悔した。
でも、おかげで次の日も朝七時には起き、学校に行く準備を整えられて、
美雪により中学校へ連行された。
だけど、全然、辛くなかった。
足が動かない事なんて、なかった。
信じられなかったけど、私がこういう風な当たり前の学校生活を久しぶりに一周間も続けられた。
そして、その一週間の間にもいくつかあったけれど、
また次の日のあの一週間前の嫌な記憶が蘇ってしまう石川の授業でさえ、乗り超えられる事が出来た。
だから、私は不思議な達成感に満ちた。
そして、美雪と一緒に宿題を仕上げた、阿部の授業を迎える事となった。
「まず今日は、この間のデザインを提出してもらうぞ! みんな、持ってくるんだ!」
そして、私と美雪は、一緒に宿題を提出しに行った。
「おっ⁉ 宮本、これ、どうしたんだ?」
「阿部ちゃん、どう? 上手いでしょ?」
「宮本……。誰かに描いてもらったんじゃないだろうな?」
「えーーっ‼ 阿部ちゃん、失礼‼ 私が描いたんです‼ みどりちゃんが承認です‼」
「そうなのか、小松?」
「はい。阿部先生。この前の日曜日、一緒に宿題をやったんです。
私は美雪ちゃんに指示は出したけど、この宿題は、美雪ちゃん一人で完成させました」
「ほらぁ! 阿部ちゃん、謝って!」
「そうか。すまんな、宮本。それから、小松、御苦労だったな」
「いえ、阿部先生」
「ところで小松はどんなのにしたんだ?」
「私は、佐野天明鋳物のデザイン、これにしました」
「どれ……。ほう、これは中々面白いデザインだな!
しかし、小松。よく佐野天明鋳物の事を知ってたな!」
「ハイカラさんって親戚に聞いたんだって!」
「小松。中々物知りの親戚がいるんだな」
「はい」
そして、私は今は私にしか見えないハイカラさんを見た。
すると、ハイカラさんは、穏やかに私を見つめてきた。
そのハイカラさんの顔を見ると、私はたった一週間ばかりとはいえ、
中学に通い続けた自分を褒めたくなった。
そして、もう少しハイカラさんと共にがんばってみようと思えた。
私は、小松 みどり。
マーちゃん、ハイカラさんは悪い人じゃないんだよ。
とっても良い人なんだから!
ちょぉーっと、厳しいし、怒ると、怖いけどね……。
えっ⁉
ハ、ハイカラさん……、聞いてたの?
はは……、そんな顔、しないでぇ⁉
そして、もう少し優しく、お願いしまぁす!
そ、それに、何で、あなたが私に声を掛けてくるの⁉




