彼女の分の八つ当たり
翌朝、輝真は目を覚ますと、収納ボックスからローウェルとカオスギアを取り出した。
『……輝真さん、痩せました?』
「ほっとけ」
ローウェルは輝真がいつもより痩せて見えた。玲衣は足腰が思うように動かず、陸に打ち上げられた魚のようにピクピクと動くことしかできない。
「あ、足腰が立たない……」
『随分とお楽しみだったようですね』
輝真と玲衣の状況からローウェルは一晩中お楽しみだったこと察する。
「いやぁー、テマが一番いいわ。他の奴らと全然違う。めっちゃ気持ちよか……ムグゥッ!?」
玲衣は昨晩のことを話そうとして、輝真に口を塞がれた。
「さて、今日の試合は…、あのチャンピオンが先か」
輝真はチャンピオンが最初に試合を行うことを確認すると立ち上がり、ローウェルを玲衣の首にかける。
「玲衣を頼む。ここも違法だから物騒なのかもしれない」
『わかりました』
「じゃ、ちょっと行ってくる」
「な、なぁ、なるべく早く戻ってきてくれよ…?」
ローウェルに玲衣の見守りを任せ、玲衣は不安げになる。輝真はすぐ戻ると伝え、控え室を出ていった。
◇
「どうした!?そんな程度か!?」
「ぎゃあああああ!!」
試合を観に行ってみると、チャンピオンが今まさに試合中であり、相手選手を一方的に叩きのめしていた。チャンピオンの腰にはインフィニットリングがかけられており、単なるアクセサリーにしか見えず、違和感がない。
【インフィニットリング、活性化を確認。チャンピオンのステータス変動】
「やはりか、まあ俺もカオスギアで強化してるから人のこと言えないか……」
ピクセルの解析によってチャンピオンがインフィニットリングを使用して自身の身体能力を強化していることがわかった。問題はどうすればインフィニットリングが手に入るかだ。
(玲衣の時みたいに鉱石と交換で譲ってくれるだろうか?いや、せっかくの力を手放すのはあいつだって嫌だろうしなぁ……)
チャンピオンはそう簡単にはインフィニットリングは手放さないだろうと輝真は考える。とはいえ、手段など選んでいたら、インフィニットリングを取り逃してしまいかねないのだ。
「いや待てよ、あの野郎は玲衣の腕を奪ったんだよな?じゃあ、わざわざ交渉する必要ないか」
【では、実力行使でいくと?】
「玲衣を好き放題してたんだ、ちょっとばかり…いや、彼女の分も思いっきり報復させてもらう。ピクセル、チャンピオンをそのまま偵察してろ」
【かしこまりました。マスター】
結局、実力行使でインフィニットリングを無理矢理奪い取るという形になった。後は新型ドローンに任せ、控え室に戻った。
◇
輝真は順調に勝ち進み、準決勝戦まで上り詰めた。そして準決勝の相手は……
「チャンピオンか……」
なんとチャンピオンが対戦相手だった。輝真はよし来たと言わんばかりに小さくガッツをする。
「さて、いただきにいくか」
インフィニットリングを奪う気満々な輝真は意気揚々とリングに向かう。
「なんかテマ、すげえ張り切ってるような気が……」
『緊張感がないですね……』
玲衣とローウェルがそう呟いているが輝真はそんなことは気にしていなかった。
◇
「まさかお前と戦うことになるとはな。あのアマ奴隷と交換で鉱石を譲ってくれたのは感謝するが、ここは闘技場、手加減なんかしねえからな」
「……」
輝真は黙ってチャンピオンとを見据えていると、ピクセルが報告してきた。
【マスター、チャンピオンの解析結果を報告します】
輝真の視点の右下にピクセルが解析したチャンピオンのデータが表示される。
「なるほど……」
輝真はデータを一通り見通すと、軽くストレッチをして臨戦体勢を取った。そして試合開始を告げるゴングが鳴り響いた。その瞬間、チャンピオンが一瞬で間合いを詰めてきて、右ストレートを放ってきた。
「……ッ!!」
ドゴン!!
輝真は咄嗟に両腕を交差させて防御を取ることで、顔面への直撃は避けたが、両腕が痺れていた。
「……痛い一撃だ。顔面に当たってたら即負けになっていた……」
ゴングが鳴ったと同時に急にしかけてきた為、意表を突かれたが、すぐさま持ち直す。
「オラオラァ!」
チャンピオンは拳を連続で振るってくるが、今の輝真にとって避けるのは余裕だった。
「ちょこまかと!!」
チャンピオンの攻撃は速いし、当たったらただではすまないだろう。だが、それと同時に単純でワンパターンなのだ。輝真は隙を見計らい、チャンピオンの体に蹴りを入れた。
「グゥゥ…!」
手応えはあった。蹴りを食らったチャンピオンは少し後ずさる。
「やってくれるじゃねえか…!」
チャンピオンはイラついたのか表情が険しくなる。そして今度は拳のラッシュを浴びせてきた。
「うおおおおおおおお!!」
輝真はそのラッシュすらも避けていく。そしてチャンピオンの腕を掴むとそこから背負い投げをして、背中から地面に思いっきり叩きつけた。
「ぐはぁ…!」
「動きがワンパターンだ。速いけど、俺はそれよりも速いものを見てきている」
ふと、飛んでくるボールを避ける隠れ家のトレーニングルームでのことを思い出し、あのボールの飛んでくる速さに比べれば、遅いものだった。
「それと、お前が俺に売った奴隷、俺の探していた人物なんだよ。酷い有り様を見たときは思わず言葉を失った」
「何…!?」
「……よくも玲衣をあんな目に遭わせてくれたな」
輝真がドスの効いた声でチャンピオンにそう言い放った瞬間、チャンピオンの顎に輝真の拳が叩き込まれていた。
ドゴォ!
「がふぅ!?」
チャンピオンは宙を舞って倒れた。観客達は突然の出来事に唖然とし、静寂と化す。
「て…てめぇ…!うおっ!?」
チャンピオンが起き上がろうとした瞬間、輝真はチャンピオンの足を掴み、持ち上げるとそのまま床に勢いよく叩きつけた。
「ぶっ!?」
輝真はチャンピオンを持ち上げては叩きつけるを何度もやり、チャンピオンは痛々しいほどボコボコになっていた。だが、輝真の怒りは収まることはない。輝真はチャンピオンを今度は上に向かって放り投げると素早くバトルカードキーをカオスギアに装填する。
「ラッシュ返しだ」
そしてチャンピオンが落ちてきたところを、輝真は拳のラッシュをチャンピオンに浴びせる。
「うおおおおおおおおお!!!」
輝真のラッシュはチャンピオンのよりも断然速く、チャンピオンはもはや何が起きているのかわからない状況だった。そして一旦打ち上げたあと、思いっきり踏み込み、振りかぶったパンチをチャンピオンに叩き込んだ。
ドガアアアアアアン!!
チャンピオンは吹っ飛び、壁に激突してめり込む。その姿は誰がどう見ても虫の息だった。
「勝者、カオスファイター選手!」
「「「ウオオオオオオオ!!」」」
「……四肢も使い物にならなくしてやろうと思ったが、このリングだけで勘弁してやる」
玲衣を酷い有り様にしたチャンピオンは輝真によって報復されたのだった。インフィニットリングはどさくさに紛れてちゃっかり回収していた。
◇
輝真は控え室に戻ると、玲衣が抱き付いて出迎える。
「テマ!すげえカッコよかったぜ!あのチャンピオンをボッコボコにするなんてよ!」
「ちょ、ギブギブ…!」
輝真は玲衣のハグが強すぎて、逆に締め付けられ、玲衣の腕を軽くポンポンと叩く。
【マスター、インフィニットリングを回収は果たしましたが、闘技場はどうしますか?】
「棄権する。玲衣も取り戻したし、インフィニットリングも手に入った。だからもうこんな所はもう用はない」
『まあ、それはそうでしょうね…』
輝真は玲衣を連れて、受付に向かい、棄権することを伝えた。
「えっ!?棄権するのですか!?次は決勝ですよ!?優勝はもうすぐそこなんですよ!?本当にいいのですか!?」
「問題ない、用は済んだ。だからもう帰るだけだ」
「そうですか……」
輝真は棄権の手続きを済ませ、闘技場を去ろうとしたとき、目の前にイカヅチという選手が立っていた。
「な、なんだよ…?」
「………」
イカヅチは本来なら決勝戦の相手になるはずだった。輝真は玲衣を庇いながら、警戒する。すると、イカヅチが話しかけてきた。
「なぜ棄権した?優勝が惜しくないのか?」
それは輝真の棄権のことだった。確かに準決勝を勝ち抜いたあとは決勝戦、優勝は近い筈だったのにそれを自ら手放したのだ。イカヅチが疑問に思うのはもっともだろう。だが、輝真にとっては心底どうでもいいことだった。
「俺は、探していた人物がここにいることを知って、選手を装って参加しただけ。優勝なんか興味ない」
「それがそこにいる奴隷なのか…」
「奴隷なんて物言いはやめてもらおうか。彼女はもう俺の女だ。優勝はアンタに譲ってやる」
輝真をそう言うと玲衣を連れて、そそくさと闘技場を後にした。玲衣は輝真に俺の女と言われたことに赤面し、ご満悦な様子だった。




