チャンピオンのヒミツ
闘技場のチャンピオンから買い取る形で玲衣の保護に成功した輝真は困惑していた。何故なら玲衣がずっと抱きついて離れないのだ。
「あのー、玲衣?」
「やだ」
「まだなんも言ってないだろ」
「どうせ離れてって言うんだろ?」
「そうだけど、一旦離れてくれ。トイレ行きたいんだよマジで」
「ちぇ~…」
そう言われては返しようがないので、玲衣は渋々一旦、輝真から離れた。そして輝真は急いで駆け出していき、用を足して戻ってくるとまた玲衣が抱きついてきた。輝真はしばらく離してはくれないと悟った。
「なぁテマ、あたしの他に誰かいるか?」
「最初に一希を保護した。玲衣が二人目だ」
「一希が無事だったのか!?五体満足か!?」
「いや、右足を失っていた」
「そっか…、一希も酷い目に遭ったんだな……」
「玲衣は元の世界に帰りたいか?」
「なんだ?テマは帰りたくないのか?」
「いや、一希が帰るのを怖がっている。あんな目に遭わされたし、その時の写真とか動画を持ってる連中がいるだろうし、それでまた同じ目に遭いそうとか…」
「なるほどな……。もうネットにばら撒かれているだろうな…。確かに帰りたくても帰るのが怖いな…」
玲衣も一希と同じく、帰るのを恐れていた。彼女達を好き放題していた輩は恐らく彼女達の動画や写真をネットにばら撒くか、売り捌いていてもおかしくない。それを脅しに使ってまた彼女達を同じ目に遭わせるかもしれないと輝真は考えていた。
「玲衣、ちょっと待て」
「え、なにこれ?分厚いスマホ?」
輝真が取り出したのはやや厚めのスマホのような端末。玲衣は困惑するが、輝真はその端末を操作する。
「今隠れ家にいる一希と繋ぐ」
輝真は端末をポチポチといじり、ロード画面のようなものが表示されると、電話をするかのように耳に当てると、少し間を置いて一希が応答する。
『やぁテマ、何かあった?』
「玲衣の保護に成功した」
『ほんと!?』
「あぁ、でも玲衣は左腕を失っている」
『そうなんだ…。あ、そうだ、玲衣と変わってくれる?』
一希がそう頼み、輝真は玲衣に端末を渡す。
「玲衣、一希がなんか話したいらしい」
「へ?」
玲衣は端末を受けとると、一希と話し始める。
『玲衣、無事だったんだね』
「本当に一希なのか…。てか無事って言えるのか……?」
片腕を失っている玲衣は無事と言えるのかと困惑する。一希はこうやって生きてるから問題ないとはっきり言う。
『実はね、テマが元の世界とこの世界を自由に行き来できる計画をしてるんだよ』
「世界を行き来する?どういうことだ?」
一希は玲衣に輝真がやろうとしていることを話した。天使に導かれ、インフニットリングを見つけること、かつての転移者が残した隠れ家とAIのお陰もあって強い装備や力を得られたことなどを探した。
「それがこのAIと天使ねぇ……」
玲衣は首飾りのローウェルとカオスギアを見ながらそう呟く。
『それに僕はこの世界で住みながら家族に会うときとかの用でしか元の世界に帰らないことにしたから』
「なっ!?本当にいいのか!?」
『いいんだよ、どのみち帰ったとしても、周りに怯えて暮らすだけだし、それだったらネットとか普及していないこの世界でテマと一緒にいたい。ちなみに僕はテマとはより一層深い関係になったから。玲衣もどう?』
「はぁ!?」
玲衣は一希が既に輝真と一層深い関係になったことを聞いて愕然とする。
『この世界は一夫多妻OKなんだよ。僕はテマを共有することは別に構わないよ。むしろ、もう家族やテマ以外受け付けたくないんだ。玲衣もそうなんじゃない?』
「……っ」
一希の言葉に玲衣は言い返せなくなる。家族には会いたいが、人と関わるのに恐怖心を抱くようになっていた玲衣は一希の言うことはもっともだからだ。
『多分だけど、叶や真弓とか他の皆もそうだと思う。別に強制はしないけど、よく考えておいて』
「……」
『あと一つ、テマの他にも僕達を好き放題した一部のクラスメイトもこの世界に来てるみたいだから、テマがいるとはいえ、一応気をつけて』
「う、嘘だろ…」
玲衣は自分達を好き放題した連中の一部がここに来ていることに青ざめる。
『僕からは以上だよ。テマに変わって』
「あ、あぁ……」
玲衣は端末を輝真に渡す。
「もういいか?切るぞ?」
『わかった、テマも気をつけてね。帰ってきたら、また癒してあげるから…♡』
一希が色っぽい声で輝真にそう伝えると、通信を切った。すると急に玲衣が輝真を押し倒してきて、纏っていたマントを床に脱ぎ捨てた。
「ちょ、おい…!?」
「なぁ、テマ、一希とその…あれだろ?随分とお楽しみしたんだろ?あたしもこの首輪してるし、テマを共有するんなら、あたしも……」
「ちょっと待て…!落ち着…!」
「やだ、待たない」
そして輝真は玲衣に激しく求められたのだった。その際、ローウェルとカオスギアを収納ボックスに入れて見られないようにしたという。
◇
「ぜぇ…ぜぇ…、なんか、戦いより疲れた気がする…」
「♪」
あれから何時間も玲衣に求められた輝真はげっそりしてしまい、逆に玲衣はご満悦な様子で輝真に抱きついていた。すると輝真が玲衣にふと質問をする。
「そうだ玲衣、インフィニットリングはこの闘技場のどこかにあるらしいんだが…、玲衣は何か知らないか?」
「それをあたしに言う?今までそういうの聞かなかったし、というかあのチャンピオンの機嫌取りに必死だったからそれどころじゃなかったし……」
「……だよな」
「あ、でも待てよ…、確かあのチャンピオンがなんか…うーんと…」
玲衣はなにか心当たりがあったのか思い出そうとしていた。そしてハッとする。
「あっ、そういえばチャンピオンが誰かと話しているのを寝たふりしながら聞き耳立ててたっけ。その際に、このリングが凄いとかどうとか言ってたような……?」
「それがインフィニットリングと?」
「確証はないけど、可能性はあるんじゃないかな?それとチャンピオンってズルしてるかもしれない。なんか勝たせるようなこと言ってたような……」
「……ピクセル、ドローンで何か撮れた記録はあるか?」
【闘技場内に放ったドローンから、先程のチャンピオンから会話の様子を記録しました】
すると、ドローンが輝真の控え室にやって来て輝真のてに収まる。そしてドローンは映像を投影すると、そこにはチャンピオンともう一人の男が会話をしている様子だった。
「あっ、あいつチャンピオンのマネージャーだ」
玲衣がもう一人の男はチャンピオンのマネージャーであることがわかり、映像を見ていると、マネージャーがオレンジ色のリングを取り出した。
「あれは……」
『あっ!間違いないです!インフィニットリングです!』
「マネージャーが持っていたのか……」
「あれがインフィニットリング……」
インフィニットリングはチャンピオンのマネージャーの手に渡っていた。輝真はそれをどうするつもりだろうと思っていると、チャンピオンとマネージャーが話し出す。
『やっぱりこのリングは最高だな!これがある限り、俺はこの闘技場の永遠のチャンピオンだな!』
『えぇ、初めはなんだかよく分からない物でしたが、まさか人を大幅に強化してくれる代物とは思いもしませんでした』
『そうだな、おっと、試合の時間か、じゃあいつも通り、強化頼むぜ』
『任せてください!』
映像はそこで終了した。輝真はふぅ…っと溜息をつきながら、壁にもたれかかる。
「インフィニットリングを使ったドーピングってやつか。だからあんな自信家だったのか」
「あんなやつにあたしは腕を奪われたのか…」
チャンピオンの強さの秘密がインフィニットリングによるものであることがわかり、輝真は天を仰ぐ。まさかのインフィニットリングがこんなことに使われているとは思っても見なかったからだ。
「もしかしたら後のインフィニットリングも誰かが見つけて持っていってるかもしれないって考えた方がいいか?」
『確証はありませんが、あり得ない話ではないかもしれません』
「だよなぁ…。……本日の試合は、ここまでか」
輝真はふと案内人に渡されたスケジュールを確認して、今日の試合は終わり、次の試合は明日というのを確認し、寝床に横になると、玲衣も寝床入ってきた。
「なぁ、テマ…、もう一回…」
玲衣は赤面しながら上目遣いで輝真を誘ってくる。輝真はハァ……っとため息をこぼすとローウェルとカオスギアを再び収納ボックスに放り込み、ロックをかけた。




