ちょっと良い意味の想定外
玲衣の酷い有り様を見た輝真は拳を強く握り締める。しかし、今助けようと騒ぎを起こせば、今後の活動に大きく支障が出るため、ここは一旦様子を見ることにした。するとローウェルが声をかけてくる。
『試合が始まるようです。どのようなものなのか様子を見てみましょう』
ローウェルの言う通り、輝真は選手専用の観戦席場所から試合の様子を見てみる。そこには2名の選手がそれぞれ剣と槍を持ち、戦っていた。ルールはどちらかが死ぬか気絶、場外に放り出すで勝敗を決める。
「「「ウオオオオオオオ!!」」」
観客が盛り上がる中、槍持ちの選手が相手の剣を弾き飛ばし、腹に突き刺した。剣持ちの選手はその場で息絶え、槍持ちの選手が勝利した。
「これがこの闘技場か…。俺がいた世界でも昔、こういうことがあったんだろうな…」
古代ローマでもこういった闘技場があり、剣闘士達が死闘を繰り広げたという記録があったことを聞いたことがあり、輝真は過去の記録を実際に見ているような感じだった。
そのまま試合を見ていると、今度はマントを羽織り、仮面を被った選手が現れる。輝真は自分と似たような格好をしている選手に少し興味が湧いた。
「カッコつけたやつだ。俺が化けの皮剥いでやる!」
相手の大剣持ちの選手がそう叫び、試合が開始される。するとマントの選手は鞘から剣を引き抜くと、刀身に電気が纏われ、雷を模したエンブレムが現れる。
「あれは...」
『雷属性のジョブ持ちですね。あの剣も持ち主の属性を最大限に活用できるように作られているようです』
【マスター、あの剣はかつて博士が作成した物の1つです。属性持ちのジョブに同調し、使用者に合わせて成長する仕組みになっています】
「えっ、なんであいつが持ってんの?」
輝真はかつての転移者の作った物の1つがなぜマントの選手の手に渡っていることに疑問に思い、ピクセルに聞く。
【博士は生活費を稼ぐために武器屋を開店し、作成した物の一部を販売していました。あの剣もその1つです。かなり評判が良かったので生活に困りませんでした】
『病弱で冒険者には向きませんでしたしね…』
(確かに生活費は必要だよな…)
冒険者になって生計を立てている輝真はそのことに関してはごもっともであるため、これ以上言う気にはなれなかった。すると、マントの選手が一瞬消えたかと思いきや、大剣の選手の後ろに背中を向けた状態で現れた。その瞬間、大剣の選手の体から血が吹き出て倒れた。
「恐ろしく速い剣技、俺でも見逃しちゃったよ」
『それ、誰かのマネですか?』
試合はマントの選手の素早い剣の一振りにより、大剣の選手は瞬殺された。その速さに観客は歓声を上げる。
「勝者、イカヅチ選手!」
「あの選手はイカヅチというのか。勝てるかどうか心配になってきたな……」
マントの選手、イカヅチの剣術に正面から挑んでもかなわないかもしれないと輝真は不安になる。
「カオスファイター選手、試合の時間なのでそろそろ準備を」
係員がやってきて輝真にそう呼び掛ける。初めての試合に気を引き締めてリングに向かうと、相手の選手はすでに来ていた。かなりの筋肉質で手にはトゲの付いたメリケンサックが握られていた。相手の選手は輝真を見据えるとニヤリと笑う。
「よお、新入り!この俺がとことん可愛がってやるぜ!」
「……」
相手選手は見るからに輝真を下に見ており、輝真は内心少し腹が立っていた。そして試合開始のゴングがなると相手選手はすぐに輝真に拳を振りかぶってきた。
「そのカッコつけた仮面を顔面ごと潰してやるわー!!」
相手選手の拳が輝真の顔面を捕らえようとする。しかし輝真はそれを難なく避ける。
「ほう!俺の拳を避けるとはやるじゃないか!だが、これはどうだ!?」
相手選手は今度は拳のラッシュを浴びせてきた。輝真はそれをひらりひらりと避け続ける。
(あの洞窟の主の方が速いな……)
輝真は前に戦った洞窟の主と比べると相手選手の拳は断然遅く、他ごとを考える余裕まであった。そして相手選手が息を切らし始める。
「ゼェ…ゼェ…」
そして体力の限界で遂にラッシュが止まった瞬間、輝真の拳が相手選手の顔面に叩き込まれた。
「ブギャッ!?」
相手選手は何が起きたのか理解できないまま、糸が切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちた。
「勝者、カオスファイター選手!」
「「「ウオオオオオオオ!!」」」
審判のその声に観客が歓声を上げる。輝真はそそくさとその場から去り控え室に入ると一息をつく。
「ふう…」
『見事です輝真さん、隠れ家でのトレーニングルームのあの訓練が役に立ちましたね』
「あの過激な訓練してれば、嫌でもあんな拳は遅く見えてしまう……」
輝真は顔をしかめながら、ローウェルが言うあの訓練を思い出す。それは何処からともなく高速で飛び出してくるボールをひたすら避けるという訓練だった。何度も何度もぶつかり、顔がボコボコになったこともあった。だが、この訓練の成果が今、この結果に繋がったのだ。
「なあ、ローウェル、インフィニットリングは本当にここにあるのか?」
『インフィニットリングはこの場所にあるのは確かですが、見当たりませんねぇ…。誰かもっているのでしょうか?それとも何処かに隠してあるのでしょうか?』
ローウェル曰く、この場所にあるのは間違いないとのことだが、一向に手がかりが掴めないでいた。輝真は新型ドローンを放って捜索させ、自分は試合に専念することにした。
◇
「勝者、カオスファイター選手!」
「勝者、イカヅチ選手!」
隠れ家での訓練の成果もあってか、輝真は着々と勝ち上がっていき、準決勝まで進んだ。だが、それと同時に謎の雷の剣士、イカヅチという選手を警戒していた。他の選手とは圧倒的に格が違うのだ。別に優勝することが目的じゃないが、もしイカヅチと試合することになってしまったらと不安になって仕方がないのだ。
「おい、そこのお前、カオスファイターとか言ったか?」
その声に振り向くと、そこには玲衣を引き摺り回していた男がいた。玲衣は男の機嫌を伺いながら怯えている。
(そういえば、玲衣はこの闘技場のチャンピオンの所有奴隷だったな…。じゃあ、こいつが…)
輝真はふと玲衣が闘技場のチャンピオンの所有奴隷になっていたことをピクセルから報告されたことを思い出す。もしやと思ったが、一応聞いてみる。
「えっと、あなたは?」
「俺か?俺はこの闘技場で5回も優勝しているチャンピオンだ」
思った通りだった。自分から名乗ってくれたおかげでこの男がチャンピオンだという確信が取れた。あとはこの男からどうやって玲衣を奪い返そうかと彼女に目線を向けていると、チャンピオンが口を開く。
「なんだ?こいつが欲しいのか?」
「え、いや、別にその…」
「お前に売ってやろうか?」
「……えっ?」
チャンピオンから思わぬ提案に思わずポカンとする。まさか向こうの方からそう言ってくるとは予想だにしていなかったのだ。
「こいつもそろそろ飽きてきた頃だからな、新しいの奴隷に変えようと思ったんだが、金がなくてな。そこで、お前にコイツを売ってやろうってな」
新しい奴隷を買う為に玲衣を売り付けようとするチャンピオンに輝真は呆れと怒りで複雑な心境になる。だが、これはまたとないであろう機会でもあり、ここで断れば、いつ彼女を取り返せるか分からない為、手段を選んでいるわけにはいかなかった。
「悪いが金はほとんど持ち合わせていない。だがこれならある」
輝真は洞窟から取ってきた鉱石をチャンピオンに差し出した。
「ほう!これを売れば結構な価値がつきそうだ!いいぜ、こいつを譲ってやる!」
チャンピオンは輝真から鉱石を受け取ると、玲衣を乱暴に突き出してきた。輝真は咄嗟に彼女を受け止める。チャンピオンは上機嫌に鼻歌を歌いながらその場を去っていった。
「さて…」
「……っ!?」
輝真は玲衣を優しく抱き上げる。玲衣は突然抱き上げられて動揺する。そのまま控え室に連れていった。だが、その様子をイカヅチが見ていたことに気付かずに…。
◇
「ちょっと想定外だったが、結果オーライってやつだな」
控え室に着いた輝真は休憩用の簡易寝床に玲衣を座らせ、キョロキョロと何かを探し始める。
「えーっと…、これでいいか…」
輝真は予備の為に持ってきたマントを玲衣に羽織らせ、彼女と向き合う。
「さてと、少しアレだったが…、ようやく見つけたぞ、玲衣」
「……!なんで名前を…!?」
名前を言われた玲衣はようやく口を開いたと思いきや、しまったと言いたげに口を塞ぎ、震えながら身構えた。
「なるほどな、発言権すら制限されていたということか。大丈夫、俺はお前がよく知るやつだよ」
輝真はそう言うとカオスアーマーを解除し、マントのフードを脱ぎ、顔を見せた。
「俺だよ、玲衣」
「えっ……テマ……?」
玲衣は最初は目を見開き唖然としていたが徐々にその目には涙が溜まっていった。
「あ…あぁ…!」
すると次の瞬間、玲衣は輝真に抱きつき、左腕だけでも抱きしめる力が強かった。
「うわあああああああん!!テマアァァァァ!!」
「お、おう…」
輝真は一希のときのように、玲衣が泣き止むまでそのままでいた。




