第55話 一週間経ち
土魔法の鍛錬を開始してから、一週間が経過した。
今日も今日とて屋敷から離れた訓練場に、ソフィアはモーリスとクラリスと共に来ていた。
「いい! いいですよ、ソフィア様! かなりの精度です!」
土の精霊魔法を使い、ほぼ正方形に近い土塊を生みだしたソフィアにモーリスが駆け寄った。
ぶんぶんと躍動する尻尾から、彼の興奮度が見て取れる。
「い、良い感じ?」
今日もかれこれ三時間ほど訓練を続けて疲労が浮かんでいた表情にぱあっと笑顔が咲く。
「ええ、それはもう。目算で誤差五センチほどくらいでしょうか。ここまでくれば、もうあと一歩というところですよ」
大きく頷くモーリス。
もうゴールまであと少しまで来ているというお墨付きに、ソフィアは俄然やる気を沸き立たせた。
「よし、じゃあ感覚を忘れないうちにもう一回……」
「ダメですよ、ソフィア様」
ぴしゃりと、そばに控えていたクラリスがタオルと飲み物を持って言う。
「もう三発連続で打ったでしょう? 一旦休憩です」
「あ、あれ、そうだっけ……? 」
「私はちゃんと数えていました。ほら、お座りください」
クラリスに背中を押されて、訓練中の休憩スポットにしている平たい石に腰を下ろした。
二日目以降、精霊魔法を三回打ったら一回休憩するというルールが義務付けられ、ソフィアはそれに従っている。
無理をし過ぎないようにというアランの配慮らしい。
個人的には限られた時間の全てを訓練に使いたいのだが、休憩する事も大事だという事で徹底されている。
でもお陰で、初めて精霊魔法を使った時のようにぶっ倒れるような事もないため、やはり適度な休憩は大事なんだなと実感していた。
タオルで額に浮かんだ汗を拭ってくれるクラリスにソフィアは言う。
「いつもありがとう、クラリス」
「仕事ですので」
相変わらずの調子で言うクラリスだが、その口元には笑みが浮かんでいる。
最近、クラリスの表情が柔らかくなっているのは、気のせいではないかもしれない。
「さっきの魔法は、最後の最後で少し集中がブレてしまいましたね」
こくこくと水を飲むソフィアにモーリスが解説する。
「ソフィア様はやはり、最後の仕上げ段階で少々気が抜ける癖があるので、もう少しで完成という段階でこそ一度息を吸って再度集中すると良いと思われます。あと、序盤に力んでいるようにも見受けられますので、もうほんの少しだけ抑えて、リラックスの姿勢で臨まれると良いと思いますよ」
「ありがとう、モーリス。最後に気が抜ける癖は仰る通りだわ……詰めが甘くてごめんね」
「いえいえ、とんでもございません」
ぶんぶんぶんぶんと、モーリスが残像が見えそうなほど速く首を振る。
「精霊魔法の経験が全くのゼロの状態から、ここまで上達するのに普通はもっと長くかかるものなのです。……一週間でこれほどのバランス感を身につけていると言う時点で、凄まじい事なのですよ」
「そ、そうなのね……ちなみに、普通はどれくらいかかるものなの?」
ソフィアが尋ねるとモーリスは首筋に冷や汗を垂らして言った。
「今教えてしまうと集中が乱れてしまいそうなので、成功した際に……」
「わ、わかったわ」
とりあえず、本来であればうんと時間がかかるという事は理解した。
モーリスの反応から察するに、結構いい感じに上達はしているようなので、その点は安心しても良いかもしれない。
そう思うと、再びやる気がむくむくと湧いてきた。
「さて……」
立ち上がるソフィアに、クラリスが尋ねる。
「もう、休憩はよろしいのですか?」
「ええ、充分休めたわ」
大きく息を吐き、モーリスの方を向いてソフィアは言った。
「再開しましょう」
「かしこまりました」
眼鏡を持ち上げるモーリスの先導で、いつもの定位置へ。
先ほど作った、ほぼ正方形に近い土塊を見据えると、モーリスの声が鼓膜を震わせる。
「では、始めてください」
「はい」
すうっと、深く息を吸い込む。
(今度こそ……成功させる……)
強く意気込んでから、ソフィアは精霊魔法を発動した。




