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第33話 名前で

 屋敷内の廊下。


 これから練習を頑張るぞと意気込んだ矢先、急にぶっ倒れたソフィアをアランがおんぶで部屋に運んでいる。


 その後ろを、クラリスがついてきている。


「うう……身体に力が入りません……」


 アランの背中で、ソフィアは呻くように呟く。


「今まで使ったことのない力を急に使ったのだ。身体に相当な負荷がかかって、力が抜けたのだろう」

「ご迷惑をおかけします……」

「気にするような事ではない」


 ちなみに現在のアランは、おんぶだと鱗が当たって痛いだろうという理由で人間モードに戻っている。


 安心感のある広い背中と、落ち着く温もり。

 それに、どこか安心する匂いもする。


 精霊力を使って疲労困憊のソフィアにとって、恥ずかしさを通り越して心地よい多幸感をもたらす状況だった。


「時間はたっぷりある。焦らず、ゆっくりと練習はしていけばいい」

「ありがとうございます……」

「夕食は食べられそうか?」

「夜ご飯は……食べたいです」

「わかった。なら、君の部屋に持ってこさせよう」

「……ありがとうございます」


 本音を言うと夕食はアランとご一緒したかったが、我儘は言ってられない。

 

 三食ご飯を食べられるだけでも万々歳としたところだろう。


 自室に戻るなり、ベッドに寝かされる。

 まるで壊物を扱うかのような丁寧さに、(大切にされてるんだ……)とよくわからない感情を抱いた。


 今まで人に優しくされた経験が少ないソフィアにとって、アランの優しさは嬉しくはあったが、同時に戸惑いを覚えていた。


(……何でアラン様は、こんなに優しくしてくれるのだろう……)


 この結婚は契約的なもので、愛はないはずなのに。


 アランが誰に対しても誠実で、優しい性質の持ち主だと言うのは見ててわかる。

 だけど、自分に対して向けている優しさは、他の人に向けているものとは違うような気がした。


 ……なんて事を本人に直接尋ねる勇気もなく、ソフィアはアランにされるがまま布団を被せられる。


「クラリス、あとは任せた」

「かしこまりました。ソフィア様を運んでいただき、ありがとうございます」

「気にするな。バスタオル、とても助かった。感謝する」

「とんでもございません」


 恭しく、クラリスは頭を下げた。


「俺は公務に戻る。君はゆっくり休むといい」

「ありがとうございます……あ、あの……アラン様」

「なんだ?」

「名前ではもう、呼んでいただけないのでしょうか?」


 それは、ふとした問いだった。


「……名前」

「私が誤ってたくさんのお水を出してしまった際、アラン様は私のことを……ソフィアって、呼んでくれました」


 それ以外は、ずっと“君”

 なんだかよそよそしさと言うか、距離感があってちょっぴり引っかかっていた。


「出来れば、いつも名前で呼んでほしく思います。その……夫婦なんですし」


 言ってて、なんだか気恥ずかしくなった。

 頬を朱に染めたソフィアが口元まで布団を覆う。


 そんな彼女に、アランは申し訳なさそうに頭を下げた。


「すまない、俺の配慮不足だった」

「い、いえ……おこがましいお願いである事は重々承知で……あうっ」


 ぽんぽんと、アランに頭を撫でられる。


「おこがましくなんてない」


 耳元で囁くように。


「おやすみ、ソフィア」


 言われて、恥ずかしさやら嬉しさやらたくさんのプラスの感情が溢れ出てきて。

 満面の笑顔で、ソフィアは応えた。


「はい、おやすみなさいませ、アラン様」


 そんな二人のやりとりを、クラリスはどこか微笑ましげに眺めていた。 

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聖女様になりたいのに攻撃魔法しか使えないんですけど!?



― 新着の感想 ―
[一言] ま、素直じゃないですからな!(笑)
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