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4金曜日「変わる日常、消えた親友、変わる主人公」


【金曜日】


おはよう。

教室に入ると、昨日と変わらず重苦しい感じがした。

見ると、取り巻きがうらめしそうにみんなをガン見していた。


委員長「おはよ。あれ、ずっとあんな感じなの。嫌よねぇ。」


大丈夫かな・・


クラスメイト「ガキ大将が来たら殴っておしまいだろ。」

クラスメイト「その前にお前刺されたりして。」

クラスメイト「やーめーろーよー。」


なんか・・茶化していい雰囲気には思えないけど・・

というか、殴って解決でいいの?


ガキ大将「よお、おはよー・・ん、どうしたみんなオレ様に注目して。」

ガキ大将「聞いてんだろ?昨日はひいじーさんの葬式で休んだって。」


委員長「そうじゃなくてね、あれ。」


委員長が取り巻きを指差す。


ガキ大将「今にも人を殺しそうな顔してんじゃねえか。何があった?」


取り巻き「・・別に。」


委員長「取り巻きが昨日の放送の後で盛り上がっちゃってね。」

委員長「あなたに殴られてたのはいじめで、それを止めなかった私たちに、殺されてしまえって叫んだの。」

委員長「それからあの調子で・・」


ガキ大将「そうか・・」


ガキ大将が、突然正座して頭を床につけた。


ガキ大将「みんなすまん!取り巻きがこんななっちまったのはオレの責任だ!」

ガキ大将「こうならないよう殴ってたのがアダになっちまった。」

ガキ大将「オレが責任をもってなんとかする!だからみんなも取り巻きとは今まで通り接してやってくれ!」


ガキ大将「頼む!」


みんなあっけにとられてた。

取り巻きが一番驚いたようだ。

口を開けたまま、信じられないものを見たような顔をしていた。


委員長「う、うんそれでいいけど・・ねぇみんな。」

クラスメイト「ああ。ガキ大将がそう言うなら・・わかったよ。」

クラスメイト「取り巻きも、一昨日と一昨昨日さきおとといはいつも以上に殴られてたもんな。辛かったんだよな。」


取り巻き「みんな・・ガキ大将・・」


ガキ大将「お前が行き過ぎないよう殴って教えてたつもりだったんだが・・わりいな、痛かったろ。」

取り巻き「これからは弱パンチで頼むよ。」

ガキ大将「今までのが弱パンチなんだがなあ・・」


委員長「口で言うんじゃだめなの?」


ガキ大将「口で言うより殴る方が早いじゃん。効率的だろ?」


これが効率化の弊害か・・いや違うか・・いやその通りなのか?

効率化を優先するあまり、一番大事なものの優先度まで下げてしまった。


自分で考えてよくわからなくなった。一番大事なものってなんだろう?


ガキ大将「オレはお前を絶対見捨てねえ。だからオレがガキ大将で、お前が取り巻きなんだ。」

取り巻き「一生ついていくよ。だから弱々パンチを覚えて!」


委員長「でも土下座するなんて驚いたわ。」


ガキ大将「誰だって理不尽なことで頭を下げたくはないはずだ。」

ガキ大将「だが、大切なやつのために頭を下げるのは何も恥ずかしくない。」


取り巻き「よっ、さすがガキ大将!日本一!」


委員長「元のサヤに戻ったって感じね。」


ガキ大将「あとな・・喪主を務めたじーさんのスピーチで・・ひいじーさんがシベリア抑留してたことを初めて知ったんだ。」

ガキ大将「葬式の後でそのことをじーさんに聞いたら、辛いことだから、あまり話さないようにしてたんだって。」

ガキ大将「長期の拘留、厳しい環境下の強制労働。非人道的な扱いさ。」


ガキ大将「ひいじーさんは運よく帰れたけど、ソ連で亡くなった知り合いもいたって。」

ガキ大将「戦争犯罪なのに、ソ連は一切裁かれないまま。」

ガキ大将「だけどオレは昨日までろくに知らなかった。授業でもさらっとやって終わりだ。」


ガキ大将「ひいじーさんは、心に傷を負ったままだったんだ・・日本の扱いもひどかったんだぜ。」


取り巻き「ふむふむ、ネットには、当時社会党の議員が査察した時に抑留者から現状を聞いていたのに揉み消したってあるよ。」

取り巻き「戦犯たちの待遇は決して悪くない、なんて嘘の報告をしてたってさ。ひどいね。」


戦犯?


ガキ大将「日本からは金を渡されただけさ。金で・・ソ連のことは目をつぶれってことかよ・・」

ガキ大将「それで少し・・弱者・・見捨てられた不幸な人が救われてもいいんじゃねえかって、思っちまったんだ。」


委員長「人に歴史ありね。」


取り巻き「やっぱあの動画は最高なんだ!」


ガキ大将「そ・れ・は・や・め・ろ!」


ガキ大将が取り巻きの両ほっぺをつねった。

・・取り巻きも笑ってるし、これはいじめとは違うよね?


委員長「・・どうしたの?」


俺はさ、親友がいじめられてたなんて知らなかった。

親友とは喧嘩もしたことない。でも、それでよかったのかなって・・


委員長「色んな友情の形があるわ。あれがだめでこれがいいなんてものはない。」

委員長「もうっ、あなたもガキ大将みたいにしっかりしなさい!」


ガキ大将「強くなれよ転校生!それと、親友無事に見つかるといいな。」


ありがとう。


ガキ大将「てか、まだ見つかってないのか?いじめられてたってどういうことだ?」


委員長「そういえば昨日休んだから聞いてないのよね。」


取り巻き「僕が説明するよ!火曜に殺されたやつは、こいつの親友をいじめてたことが昨日判明した。」

取り巻き「だとするとこいつの親友には動機がある・・が、犯人は動画の女性だった。」


ガキ大将「ああ、オレも昨日見たぜ。あれで一気に現実味が増したな。」

ガキ大将「机上の空論どころか、実演までするとはな。」


委員長「あんなのテロじゃないの?」


ガキ大将「テロも内戦も革命もYouTuberも、成功率0%じゃ一部の変わりもんしかやらねえ。」

ガキ大将「でも成功率100%なんてありえねえだろ?」

ガキ大将「もしかしたらうまくいくかも・・っていう期待で大衆は動くんだ。」


ガキ大将「女性でもやれる。うまくいけば捕まらない。国は隠蔽している・・」

ガキ大将「誰にも相談しないよう言っておきながら、自分は仲間だと依存先を作る。」


ガキ大将「だがわからん。なんで5日間だけなんだ?」

ガキ大将「もっと続ければひょっとしたらそれなりの成果が出るかもしれなさそうなのに。」

ガキ大将「成果が出ても困るがな。」


取り巻き「次があるんだよ。ビッグサプライズ!」


ガキ大将「怖え話だよな。いきなり現れてネット中に宣伝しまくって注目浴びてるし。」

ガキ大将「なんだかんだでオレも見ちまってる。お前らもそうだろ?」


委員長「まぁね。」


取り巻き「真実に人は抗えない。」


ガキ大将「ちげーよ。人は都合のいい話を信じたがるんだ。」

ガキ大将「ニュースだって殆どの人が確かめないで真実だと思うだろ?」

ガキ大将「反社会的な内容でここまで興味持たせるなんて異常だ。だから腑に落ちない。」


ガキ大将「なんでもっとわかりやすくまとめないんだ?方向性おかしくなるぞ。」

ガキ大将「なんで5日間なんだ?すぐに風化するぞ。」

ガキ大将「なんで十代の学生を狙ったんだ?」


委員長「殺しやすい相手を選んだんじゃない?」


ガキ大将「殺しやすいなら老人女子供だろう?」

ガキ大将「中学生は体育や部活で結構パワーあるぞ。」


取り巻き「女性でも男性を殺せることをアピールしたかった?」


ガキ大将「なら二十代三十代くらいの方がアピールになる。」

ガキ大将「十代って大人が守らないといけない対象だから、かわいそうってなりやすいんだよな。」


ガキ大将「やめやめ。答えが出ないことを考えてもしゃあない。」


すべては、今日の放送だね。


ガキ大将「ああ、何を言って来るのやら・・」


・・

・・・・


昼休み。

放送前にお昼を食べようとすると、携帯が鳴った。


・・き、来た!親友から連絡が来た!


委員長「電話?」


いや・・えっと、近くの海岸へひとりで来るようにだって。


委員長「海岸?」


あの崖で有名な場所。名前覚えてないけど・・

12:30までに来いってある。


取り巻き「おいおい、優秀な僕が調べたところ、今から行ってギリ間に合うかって距離だぜ。」


ガキ大将「行くのか?」


・・うん。


委員長「危険じゃない?一緒に行く?」


ひとりで来いってあるし、もしふたり以上で行って姿を現さなかったら後悔する。

それに、たぶん午後の授業までに戻って来れないと思う。

俺は行く理由があるし、怒られたって構わないけど、みんなはそこまでの理由ないよね?


委員長「水臭いわね。じゃあこうしましょう。」

委員長「もしヤバかったらワン切りして。そしたら私が110番通報して事情を伝えるわ。」


委員長「これが罠なら、ゆっくり110番する余裕もないわよ。」


なるほど。


委員長「というわけで、アドレス交換しましょ。」


ガキ大将「戻って来たらオレのアドレスも教えるぞ。」


取り巻き「僕も!」


うん・・じゃあ行ってくる!


・・

・・・・


ちょっと急ぎ足で指定の場所へ向かう。

親友・・今はとにかく会いたいよ。


見えた・・崖のところに誰かいる。

だけど、いるのは髪の長い女性だ・・親友じゃない。


・・と、携帯が鳴った。親友のお母さんから電話だ。


え・・?


親友が見つかったって・・でも・・


親友は・・・・自殺してた・・


じゃあ・・俺を呼びだしたのは誰?


親友の遺品に携帯があったか聞いてみた。


無かったって・・


電話を切り、俺は再び崖を見た。


女性はこちらを見ていた。


まだ逃げることはできる距離だ。

でも、偶然親友の携帯を拾っただけかも・・

俺は、足を前に動かした。


ジェミニ「こんにちは。私はジェミニよ。」


崖のところまで行くと、女性の方から声をかけてくれた。

自己紹介かな?俺も一応名乗った・・あ、俺の個人情報を狙って・・んなわけないか。


・・もしかして、親友の家から帰る途中、殺人事件だって教えてくれた人?


ジェミニ「ええ、そして、動画の投稿者。」


体に緊張が走った。

つまりそれは、殺人事件の犯人・・


ジェミニ「何が知りたい?3つだけ答えてあげる。」


この人は何がしたいんだ?

親友のこと、動画のこと、目的・・知りたいことはたくさんある。


でも聞いて大丈夫か?あなたの目的は?なんて聞いて”お前の命を奪うことだよ!”

って襲い掛かられたら怖すぎる。


えーと、きょ、今日はどんな放送をしたんですか?


俺は、まったくどうでもいいことを聞いていた。

あとで見りゃわかることだろ!


ジェミニ「徳川家康のことを話したわ。」


ん?

んん?

なぜに徳川家康?


ジェミニ「天下が統一される前・・乱世では人々は戦うことが当たり前だった。」

ジェミニ「乱世を終わらせるために覇王の道、つまり武力で天下を統一するのは平和への手段になるわ。」

ジェミニ「では、天下統一後、乱世が終わった後の徳川家康の行いは、自らが権力を握るための私利私欲な争いじゃない?」


結局、豊臣家も潰してるから・・そう見えなくもない。

でも、あの時代はそれが当たり前だったんじゃないの?

あ、乱世が終わってからだと平和を乱す行為になるの・・かな?


ジェミニ「天使は人間と違い、どれだけ月日が経とうとも物事の善悪を変えたりしない。」

ジェミニ「私は天使に聞いてみたわ。徳川家康の行いは悪ではないかって。」


・・それは・・ちょっと気になる。


ジェミニ「”人はより良いものを求めているから、その方が良いと判断したなら問題はない”」


悪じゃないってことでいいんですよね?


ジェミニ「人間が決めなさいってこと。」

ジェミニ「天使は人間に命令しないわ。人間の自由に任せている。」

ジェミニ「これは他の人も同じ。」


ジェミニ「天下を統一できなかった織田信長も、武田信玄も、今川義元も、ただの兵士だった人も、天使は悪だと言わない。」

ジェミニ「地獄に落ちたりもしない。」

ジェミニ「その方が良いと判断してがんばった人を悪く扱ったりしないわ。たとえ人を殺していても。」


何を言いたいのか、少し気付いた。

俺の反応を見て、ジェミニさんがほほえんだ。


ジェミニ「不幸な人が、不幸なシステムを無くそうとがんばったなら、たとえ人を殺しても地獄に落ちたりしない。」

ジェミニ「そういう話を今日はしたわ。」


俺は・・何を言えばいいかわからなかった。

なにか、なにか言わないと雰囲気に飲まれる気がした。


そ、そういえば、ジェミニだから双星って名前で放送してたんですね。


ジェミニ「・・」


名前からして外国の方ですよね?

でもそれだと日本人に対する訴えに説得力がなくなるから日本人っぽい名前を使った。

で、ジェミニは双子座のことだから、双子座→ふたつ星→双星。


ジェミニ「それも3つできる質問のひとつとして答える?」


・・あ、いえ答えなくていいです。

親友のこととか動機とか、他に優先しないといけないことがあるもんな。


ジェミニ「そう。あと2つ質問に答えるわ。」


普通に受け答えしてくれた。

俺を殺そうというわけでは・・なさそう?


な、なんであんな動画を作ったんですか?

もっと他に解決方法があると思います。


ジェミニ「そうね。」


そうねって・・あのやり方では日本が混乱すると思います。

そしたら混乱に乗じて外国が日本を狙ったりしませんか?


ジェミニ「逆よ。」


ジェミニ「外国が本気で日本を狙うなら、不幸な人を扇動して混乱させるでしょうね。」

ジェミニ「暴行や窃盗、破壊行為、都市占拠・・日本各地で暴動が起こるわ。」

ジェミニ「でもそのやり方で不幸な人は救われない。利用されて終わり。」


ジェミニ「今のうちにやらなければならないの。」

ジェミニ「遅くなれば状況は悪くなるばかり。」


それでも・・他に方法はなかったんですか!?


ジェミニ「あればやってるでしょ。」


じゃ、じゃあ権力者はなんで不幸な人を救わないんですか?

救えばいいじゃないですか。面倒なの?見下してるの?


権力者の中にだって善人がいると思います!


ジェミニ「弱者を優遇したら、みんなが弱者になりたがると思わない?」


まぁ、そうですね。

そこは強者は優遇、弱者は冷遇しないって風にすればいいじゃないですか。

強者の方がお得だけど、弱者だって不幸にはならないよって感じで。


ジェミニ「それができないのは、強者の優遇と、弱者の冷遇がセットになっているからよ。」


・・え?


ジェミニ「世の中に、お金は無限にあると思う?」

ジェミニ「もしお金が無限にあるなら、みんなの銀行口座の金額を∞にできるわ。」

ジェミニ「どうなる?」


なんでも買えそう。

あ、でも売る人もお金を無限に持っているから、お金を欲しがらないか。

じゃあお金より物の方が欲しくなるから・・誰も物を売らなくなる?


ジェミニ「物を持っている人は、自分の持っていない物を欲しがるわ。」

ジェミニ「すると、自分の持っている物と、他人が持っている他の物を交換するようになる。」


・・物々交換。


ジェミニ「というわけで、貨幣経済は、お金が無限にあると成り立たなくなるの。」

ジェミニ「今の強者・・例えば政治家に献金する企業は、お金を持っている?いない?」


お金がないと献金できないって話は、動画でやっていましたよね?

いじめられて学校に行けなくなった人は、授業が受けられず学力は伸び悩み就職もそれなりになるみたいな話を。

だから献金する人はお金を持っている側の人でしょう?


ジェミニ「そうね。企業の献金額は個人とはケタが違うわ。」

ジェミニ「大きいところは1000万以上、それを毎年ね。」


俺も欲しい。


ジェミニ「強者がお金を持っているなら、弱者の多くはお金を持っていない人になるわ。」

ジェミニ「この人たちにお金を持たせるには、どこからか持ってこないといけない。」

ジェミニ「弱者を救うには、お金が必要になる。」


ジェミニ「お金が有限であるならば、誰かのお金を使わなければならない。」

ジェミニ「誰のお金を使う?」


・・強者の?


ジェミニ「つまり、弱者を救えば救うほど、強者の損になる。」

ジェミニ「そして救いすぎると、下剋上・・強者と弱者の立場が逆転してしまうのよ。」

ジェミニ「負け組になりたくない強者は、弱者を救うわけにはいかないの。」


ジェミニ「むしろ逆。弱者からより多く奪うことが強者の立場を守ることになる。」

ジェミニ「だから今、弱者の中で救う対象になっているのは、強者の立場を奪いにくいハンデを背負っている人・・」


不幸な人を救う・・それは思った以上に難しいこと・・

いやでも、だからといって他人を殺さないと解決しないのだろうか?

そのことをみんなに広めてさ、うまいことバランスをとっていけば・・


ジェミニ「どの立場の人がバランスをとらせることができるのかしらね?」


ジェミニ「他にもブラック企業問題もそう。」

ジェミニ「労働基準法や最低賃金法など、いわゆる労働法違反には刑罰があるわ。」

ジェミニ「でも殆ど刑罰に至ることはない。」


ジェミニ「労働法違反があったら、まず労働者がしかるべき労働基準法監督機関へ通報または相談しないといけない。」

ジェミニ「違反が認められたら企業へ是正勧告が出るわ。これに応じなかったら刑罰がある。」


ジェミニ「企業からすれば、労働法違反をしても、労働者が訴えなければ丸儲け。」

ジェミニ「是正勧告が出ても応じれば問題なし。」

ジェミニ「企業は労働法を破ったら得するかもしれない。損はしない。」


ジェミニ「そんなの、窃盗してもバレなかったら自分のもの、バレたら返せば無罪っていうのと同じ。」

ジェミニ「もっと厳しく罰を与えようとは・・しないのよね。厳しくして企業が倒産したら困るからって。」

ジェミニ「でもそれ、人権より大事なの?」


ジェミニ「企業という強者を優遇することで、労働者という弱者が不幸になるの。」

ジェミニ「ひどい扱いで心がやられてしまった人の中には、訴えて戦う気力まで失い、そのまま心を閉ざしてしまう人もいるわ。」

ジェミニ「時間は心を癒してくれるとは限らない。それどころか、心の傷が広がる人もいる。でも救われないまま・・」


・・不幸を生み出すシステム・・


ジェミニ「話がそれたわね。」

ジェミニ「なぜあの動画を作ったかって質問だったのに、色々聞いてくるんだもの。」


あ、すみません。


ジェミニ「別にいいわ。」

ジェミニ「じゃあ答えるわね。あなたを救うためよ。」


え?


ジェミニ「このノートに書いてあるやり方でやったの。」


ジェミニさんがノートを取り出した。

ノートには名前が書かれてあった・・親友の名前が・・


ジェミニ「ふたつ目の質問も答えたわ。」

ジェミニ「でもね、あなたが何を質問するか、私にはわかっていた。」

ジェミニ「いいえ・・あなたは、私が決めた質問をしているに過ぎない。」


それは・・どういう意味・・?


ジェミニ「いいことを教えてあげる。」

ジェミニ「あなたがしようとしている最後の質問、それを聞いたらあなたの運命が変わる。」

ジェミニ「でもあなたは質問を変えることはできない。」


ジェミニ「人間は、自分で運命を選んでいるようで、選ばされているのよ。」

ジェミニ「あなたは私の手のひらの上・・さぁ、最後の質問をどうぞ。」


そんなこと言われても・・

そりゃもちろん親友のことを聞くつもりだった・・でも・・

聞いたら、俺の運命が変わる・・?


ジェミニ「私は何も強制しないわ。どんな質問でも、あなたが自由に決めていいの。」


・・怖いけど・・でもジェミニさんの言う通りだよ!

親友に何があったんだ!?なぜ親友は自殺したんだ!


ジェミニ「あなたの親友は月曜日、駅の裏通りであなたの話をする二人組を見かけた。」

ジェミニ「そこで聞いてしまったの。あなたがクラスで孤立していることを。」


あ・・月曜日は、取り巻きがガキ大将とアルバイトに行ったって・・

帰りに、俺のことを話したって・・言ってた・・まさか・・


ジェミニ「自分だけでなく、あなたまでいじめに苦しんでいることを知りさらに悩んだわ。」

ジェミニ「でもどうすることもできず、火曜日の朝、逃げるように学校とは反対方向へ向かった。」


ジェミニ「あてもなく歩き続け、その途中であなたを救うための方法を考えたの。」

ジェミニ「それがこのノートに書いてある。」


親友の名前が書かれたノート。

あの動画の内容は、親友が考えたものだったのか・・


ジェミニ「はい、どうぞ。」


ノートを渡された。

親友の微妙に下手な字だ・・懐かしい・・

ノートの終わりの方に、それは書かれてあった。


―――――

あいつが・・いじめに遭っていたことを知ってしまった。


俺と同じだ・・なぜこんなことになってしまったのだろうか?


なんで義務教育でこんな苦しまなければならないのか。


なんで誰も助けてくれないのか。


いや・・俺が・・あいつを救ってやらないと。


そうだ、日本は自殺者が2万人くらいいるってニュースでやってた。


不幸な人はたくさんいる。


その人たちを扇動してたくさんの人を殺させよう。


不幸な人に殺されたくなければ、不幸な人を救わなければならなくなる。


俺が言っても信じてもらえないかなぁ。


そうだ、ひとり殺そう。


俺をいじめたやつを殺して、不幸な人を救わないとこうなるって、日本中の人に見せつけてやるんだ。


そうすれば・・あいつが無視されることもなくなるはずだ。


いや・・違う・・不幸な人は大勢いる。


その人たちも救うんだ。


不幸な人が人々を殺して混乱に満ちた中、俺が政治家になる。


間違った政治を俺が変えて・・みんなを・・救う・・・・・・


・・・・・・人を殺した俺に、人を救う権利はあるのか?

―――――


あとは何か書こうとしては横線を引いて、また何か書こうとしては横線を入れてあっただけだった。


ジェミニ「この計画ではだめだと思ってしまったの。そして再び歩き出した。」

ジェミニ「人通りが減り、日が暮れ始め、帰ることもどうすることもできず、絶望の中で命を絶った。」


な、なんで、ジェミニさんはそこまで知ってるんですか?


ジェミニ「見てたわ。死ぬまでずっとね。」


止めてくださいよ!

自殺しようとしてたんでしょ!?


ジェミニ「あの子は、自分の意思で死のうとしたのよ。」

ジェミニ「私は自由意志を否定しないわ。人間は、自由が好きなんでしょ?」


違う!

死にたくて死ぬやつなんていない!

死なざるを得なかったんだ!


ジェミニ「登校拒否すれば死なずに済んだんじゃない?」


ジェミニさんが動画で言ってたじゃないか。

授業に出なくなれば学力は落ち進学も就職も不利になって、不幸になりやすくなるんでしょう?


ジェミニ「それがわかっていたら、人生に悲観したくもなるかもね。」


ジェミニ「学校は人間が作ったシステム。」

ジェミニ「自分たちの作ったシステムで人が死ぬのを、なんで続けるの?」

ジェミニ「どうして人が死なないシステムに変えないの?」


それは・・


ジェミニ「ねぇ、不幸な人が他人を殺す以外の解決方法、まだあると思える?」


・・わからない・・

あってほしいと・・思うけど・・


ジェミニ「人は死んだら例外なくみんな救われるの。」


え?


ジェミニ「でも救われる形は色々。」


ジェミニ「大抵は先に亡くなった親や、愛する人に再会することで救われる。」

ジェミニ「空腹で亡くなった人には、お腹いっぱい食べさせてあげるの。」

ジェミニ「私利私欲で他人を苦しめた人は、地獄で救われるわ。」


・・地獄も救いなんですか?


ジェミニ「人間は地獄を嫌がるけど、こちら側は救うための手段に善悪を決めないわ。」

ジェミニ「みんな等しく救うための方法よ。」


・・天国は?


ジェミニ「天国は地獄の谷を越えた先にあるわ。」

ジェミニ「それを乗り越える心を持った人がいける・・あなたも死んだら挑戦するといいわ。」

ジェミニ「天国は・・楽しくないところよ。」


ジェミニ「さて、あなたの親友は、心に重いしこりを残したわ・・あなたを救えなかったこと。」


ジェミニ「あなたの親友を救うには、あなたを救う必要があった。」


それであの動画を・・いやちょっと待って!


色々なことが頭の中でぐちゃぐちゃになる。

ジェミニさんは・・向こう側の・・人?

そういえば、神曲の中では、亡くなった人があの世で案内人みたいなことしてたような・・


ジェミニ「あなたの親友は救われたわ。絶望していいわよ。」


なんでですか!

よかった・・というか、ありがとうございますというか。


ジェミニ「いいえ、あなたにとっては絶望。」

ジェミニ「親友は命を絶ってまであなたを救ったわ。」

ジェミニ「・・あなたは何かした?」


・・それは・・


ジェミニ「私が何もしなければ、あなたも親友も”お互い何もできなかったねー”で終わり。」

ジェミニ「でも、あなたは親友のおかげで救われたのよ。」

ジェミニ「あなたは何もできなかったのに。」


や、やめてください!


ジェミニ「神様は全知全能よ。そのすべてが神様の領域。」

ジェミニ「善も、悪も、光も、闇も、救いも、絶望も、すべてね。」

ジェミニ「救いを与えることもあれば、絶望も与えるわ。」


ジェミニ「あなたが天寿を全うしたら、あの世で親友と再会できるかもね。」

ジェミニ「その時・・あなたは親友にどんな顔をして会うのかしら。」


なんでそんなこと言うんですか!?


ジェミニ「・・ここでの用事は終わり。私は行くわ。」


あの動画はどうするんですか?

5日間やって終わり?


ジェミニ「あなたがクラスに馴染む間やっただけよ。」

ジェミニ「続きをやりたいならどうぞ。」


いや・・やり方わかりません。


ジェミニ「わからなければ、ノートを見ればいい。」

ジェミニさんは・・去って行った・・


続きと言ったって、ノートには詳しいこと書いてないよね?

もしかして続きが書かれてあるとか!?


・・当然だけど、さっき見た内容から変わってない。


これでどうしろと・・いや・・

続きは書いてあった。最初から。


・・

・・・・


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