閑話 女王ともなると書類仕事は大変でした。
「姫様、どうされたのですか?」
執務室から密かに外に出ようとした私はばったりセドリックに出会ってしまった。
「丁度良かった。セドリック、私と一緒に訓練場に稽古しに行こう」
私は必死に笑って誤魔化した。
セドリックなら文句は言わないはずだ。
「えっ、私とお手合わせ願えるのですか? 喜んで!」
セドリックが喜々として頷いてくれた。
よし、これで上手く逃げられると私は思った。
でも、甘かった。
「姫様、どちらに行かれるのですか?」
訓練場に行こうとして角を曲った私は、そこでばったりヒロトに会ってしまった。
「ヒロト、なぜここに?」
私は唖然とした。
「姫様に言われて書類を父に届けようとして、印鑑漏れを見つけたのです。私の事よりも、姫様はまさか仕事を途中で放り出してセドリック殿とデートと言うわけでは無いでしょうね」
血走った目をしたヒロトが私を睨み付けてきた。
「いや、ヒロト、少し気分転換にだな、訓練に行こうとしてだな……」
「私は既に三日間完徹です。寝ている姫様が何かおっしゃいましたか?」
そう言われたら私はもう何も言えなかった。
そう私は国王に就任してから、やらなければいけない書類の山と格闘していたのだ。
決めなければいけないことも多々あって文官達はほとんど寝ていなかった。
私もさすがに一週間の缶詰は息が詰まって死にそうになっていた。
そこで逃げ出したのだが、ヒロトに捕まってしまった。
屠殺場に引き出される牛のようにドナドナされたのだった……
状況が判っていなかったセドリックはきょとんしていた。
「その方等は逃げだそうとした陛下を何故見逃した」
部屋に帰るなり、ヒロトが文官達を怒鳴り散らしていた。
「いや、ヒロト様、陛下はお手洗いに行かれるとのことで」
「そんなわけは無いだろう。セドリック殿とデートに逃げだそうとしていたのだぞ」
「そんな、陛下」
「我々が三日間もほとんど寝ていないのに」
「なんたる事です」
文官達も私を恨めしそうに余睨んできた。
ちょっとこれは中々厳しいかも。
「まあ、ヒロト殿。姫様も悪気が会ったわけではないだろう」
セドリックはどこまでも優しかった。
「セドリック!」
「そんなわけ無いでしょう。陛下もいい加減になれてください」
ヒロトがヒステリックに叫んでくれた。
「なるほど、ヒロト殿も寝ていないのは良くないな。部外者ではあるが、私がお手伝いしてもよかろうか?」
信じられないことにセドリックが手伝いを申し出てくれた。
「そうか、セドリック殿は帝国でも書類の決裁とかはされていたのか」
「まあ、少しは」
「今は猫の手も借りたいくらいだ。手は多い方が良い。手伝って頂けるか」
ヒロトや文官達は諸手を挙げて歓迎していた。
うーん、私に対する態度とヒロトに対する態度が違いすぎるのでは無いかと少し私はむっとした。
しかし、セドリックは私の前に来て、書類の山を次々に仕分けしていってくれた。
「この分け方は何だ?」
「これは姫様がサインだけすれば良い物です。おそらくめくら判でも良いかと。こちらの山は姫様が是非とも読まれた方が良いもの。こちらは側近の方々が意見を書いて出された方が良いものです」
セドリックが私の問いに答えてくれた。
「更に3つに分けたのは」
「手前は早急にした方が良い物です。真ん中は今週中にやった方が良いもの。最後の列は全然急いでいない物です」
「なるほど。そのようにも分けられますな」
ヒロトも喜んでくれた。
帝国の方が書類仕事は仕分けという面で進んでいるらしい。
「それにしてもセドリック殿は文官仕事に慣れていらっしゃいますな」
「まあ、私の執事が厳しかったのです。『殿下は第六皇子です。おそらく他国へ婿にやられることもあるでしょう。そこで書類仕事もやらされる可能性もあります。やっておいて損はありません』とね」
セドリックは説明してくれた。
「なるほど」
文官達はうんうん聞いていたが、
「しかし、書類仕事が出来ることだけが陛下の配偶者の条件ではありませんからな」
横から見ていたソウヘイが言い出してくれた。
「確かに。書類仕事が出来ることは陛下に足りないところを補うことは出来るとは思いますが、それが全てではありませんから」
ヒロトもジロリとセドリックを睨み付けていた。
なんか三人の間で火花が飛び散ったような気がしたのだが、何なんだろう?
私はキョトンとして三人を見ていた。
「ほっほっほっほ、姫様を巡る男の争いですな」
なんかサツマが面白がって言い出してくれたが、今はそれどころではなかった。
「三人とも、手が止っているぞ」
私が注意すると
「元々、陛下が逃げ出したからでしょう」
「そうです。セドリックと一緒にサボろうとしたからでは無いですか」
「いや、私はたまたま外で陛下にお会いしただけで……」
二人に責められるわ、一人に白い目で見られるわで最悪だった。
「ようし、やっと終わったぞ」
その日の夜遅くに私が今日中にやらなければいけない最後の書類をサインして顔を上げた。
スピー、
寝息が聞こえた。
はっとして周りを見ると、机に突っ伏してソウヘイが寝ていた。
その横はヒロトがかくんかくんと船を漕いでいた。
文官の皆も寝ていた。
起こすのは可哀相だろう。
しかし、一日中文官仕事はさすがに疲れた。
顔を上げるとセドリックと目が合った。
私達は目と目で合図して外に静かに出ると、連れだって訓練場に向かったのだった。
国王になると仕事も大変です。
まだまだ閑話等かいていく予定です
お楽しみに








