【婚約編】貴女を抱きたい
ジュ…
ジュ…
ゆっくりと押し出され、
私が喉を鳴らすたびシリウスの唇から流れ込んでくるカクテル
身も心もカクテルと共に溶けていく
「リヒトさん…お味はいかがですか…?」
シリウスは唇を触れ合わせたまま尋ねる
その唇の動きがたまらない
もう、私は夢の中
「もっと…ああ…」
ジュ…
ジュ…
「シリウス…おいしい…」
ジュ…
ジュ…
口の端から、カクテルが一筋流れ落ちる
シリウスはそれをゆっくりと吸い取る
私はたまらずに喘ぎ声を上げる
シリウスは私の顔中に唇を這わせる
藻掻く私はシリウスの銀髪を掴む
…
…
シリウスは急に私を膝に座らせ、喘ぎながら熱っぽい瞳で見つめる。
「リヒトさん…結婚しましょう…なるべく早く…」
「え…?」
私は懸命に呼吸を整える。
「僕は大王だ…婚約一つでもやることが多い。
結婚となると…もっと…
本当は、そんな儀式要らない…
貴女と丘に登って…一番星の下で神に誓えれば十分だ。
待てない…」
「シリウス…?」
「…ごめんなさい…僕のダメなところだ…
せっかく婚約できたのに、結婚なんて…足るを知らないんだ…」
シリウスは、私の胸元に顔を埋めた。
絹糸のような美しい銀髪が、私の顔を包む。
私は、シリウスの頭を、腕一杯抱き締めた。
「それ、すごく素敵だね…!一番星の下で誓うって…!」
シリウスは驚いたように顔を上げて、私を見つめた。
「婚約したばかりなのに…って言わないんですか?」
「シリウスが幸せならなんでもいい…」
シリウスの顔一面に、切ない笑顔が広がった。
「僕の…幸せですか…?」
シリウスは、もう一度私の胸元に顔を埋めた。
しかし、今度は激しく口づけの雨を降らせる。
口づけの音をさせながら、シリウスは途切れ途切れに言う。
「今の…僕…の幸せは…貴女と…繋がることだ…」
もう私の理性は飛びかけて、はしたなくもこの男性の愛撫を求めて狂いそうだ。
あのカクテルは強いお酒だったと思う。
結婚前も何も関係ないと思えるほど…
ああ…もう無理だ…私は…
シリウスは顔を上げ、じっとりと汗を滲ませて喘ぎながらささやいた。
「貴女を抱いてもいいですか。」
私はシリウスを見つめ…
*********
そのとき、左手の薬指に激痛が走った。
悲鳴を上げて、左手を抱え込む。
その瞬間…
風が巻き起こり、地鳴りを上げて黒い巨大な渦が出現した。
「いけねェなァ…シリウス様?」
白い髪がゆっくりと見え始める。
「アンタを殺せば、俺が、この子を伴侶に出来る…って約束じゃねェの?
まさか、キズモノを渡すつもりか?」
「約束などしていない!」
シリウスが叫ぶ。
「アハハハ!!!うまいねェ!!!」
黒い渦から浮かび上がってきた姿…
「ユ、ユーリ様!!!」
もうユーリ様ではないと分かっていても、思わず叫ぶ。
シリウスは「神路開放…」と集中しながら、私を庇う。
「ユーリ?」
エーレントはなぜか寂しそうに笑った。
「哀れなユーリは月に帰った。
オスカー先生に捨てられたと思い込んだまま…
まあ、あの子は長くなかったんだけどな。」
最後の言葉は聞き取れないほど小さかったが、私にははっきり聞こえた。
エーレントは、太陽のように輝く瞳で、真っすぐに私を見つめる。
「俺は、エーレント。ま、とりあえず…」
私は、エーレントから目が離せない。
「助かってよかったじゃねェか……リヒト。」
*******
何かをシリウスが叫んでいる。
が、よく聞こえない。
エーレントは、私を見つめ、自分の左手の薬指を私に伸ばす。
私は立ち上がって左手を伸ばすと、エーレントに向かって歩き始めた。
シリウスが引き留めようとするが、なぜか、私に手が届かないようだ。
引き止めないで欲しい。
私は、あちらに行かなくてはならない。
…後ろで、誰かが絶叫している。
誰?それは、もうどうでもいい。
私が慈しむべき人は、あちらにいる。
私は、あちらに行きたいのだ。
もう後ろには誰もいない。




