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【毒殺事件編】星空の下の虐殺王

挿絵(By みてみん)


「なぜ…貴方が…」


固まる私を、またテレシウスはギュッと抱き寄せる。


「何も言うな。」


シリウスの声なのに、テレシウス。

私は、混乱して、テレシウスの腕に包まれたまま聞く。


「貴方、私を「雌猫」って呼んで、殺してもいいって言ってたよね…?

どうして…」


「ハッ…

惚れた雌猫が怯えていたら、男ならこうするだろうが。

コイツ(シリウス)が阿呆なだけだ。」


と自分の胸元を親指で指す。


「でも、別に貴方は…」

「しばらく黙れ。」


命令口調なのに、なぜか優しい気がする。

これまで、変化(へんげ)したときは、あんなに乱暴だったのに…


私は、自分でも驚いたことに、素直にテレシウスに身を預けた。


テレシウスは、また私を抱き締め、大きな手で私の髪を撫でる。


爽やかな柑橘系の香り…

シリウスの香り…


不思議なほど、私の心のトゲがホロホロと溶け、安らいで落ち着いていく。


でも、これはシリウスじゃない。テレシウスだ。

心のトゲをすべて、テレシウスで溶かしてはいけない。


だって私が愛おしく思っているのは…


心が落ち着いた私は、「誰か」から身を離した。


「あの…あの…」

「礼はいらん。」


ディモイゼの街の灯りを見やるテレシウスの白銀の髪が、サラサラと風になびいている。


「…ありがとう…」


テレシウスはフイと私を向いた。


「おかしな雌猫だな。」


「おかしなのは貴方よ。変な人。」


「アッハッハッハ!!!」


シリウスそっくりの笑い声を上げる。


「ねえ、テレシウス…」


ピタリと笑い声が止まり、ブルーダイヤモンドの輝く瞳が私を見つめる。


「何をしたら、シリウスに戻ってくれる?」


「ハッ!自由な雌猫だな。そんなもの…」


と言いながら、テレシウスは私を押し倒した。

しかし、決して乱暴ではない。


「貴様を抱けば、あの阿呆なら勝手に戻って来るだろう。」


「…猫族(フェリス)とはまぐわらないんじゃないの?」


「気が変わった。」


「自由な鼠ね…」


「ハッ!」


私に馬乗りになり、テレシウスはガウンを脱いだ。


「こちらを向け、雌猫」


テレシウスは、服の上からゆっくりと私をまさぐり始めた。


「私から目を逸らすな。つまらんからな。」


私は、シリウスの顔をしたテレシウスを見つめた。

私の身体は言いようもない感覚に囚われている。

テレシウスだと思っても、顔も声も体も指も匂いも全てシリウス…

その人がこんな手つきで触れてくれるのに、どうすれば「嫌だ」と思えるのか。


私は何としても「快感」から逃れようと必死に話し始めた。


「この服ね、ヴァカンティエのお店でシリウスが買ってくれたの。

私はピンクなんか無理って言ったんだけど、

お店の人が、私でも着れるように、ほら、この黒いレースとかをあしらってくれて、

…最近、届けられたの。」


シリウスとは違う、余裕のあるテレシウスの手つき、唇が、

シリウスの顔と吐息で、どんどん私を這いまわる。


私は、これはシリウスではないと必死に言い聞かせながら、話し続ける。


「今日はね、3年前…感情の再生(リザレクション)計画のときに、

大神殿でシリウスと私に講義してくれた教授の、退任祝いだったんだ。」


3年前の光景が目に浮かぶ。

13歳の無表情な…誰よりも輝いていた少年大王。


「教授は、シリウスの講師として選ばれたことが自慢らしくて、

パーティーの間、ずっとそれを喋っていて、すごくおかしかった。

私のことは『忘却』させられてたけど…」


「黙れ…集中させろ。」


「この話をシリウスにしようと思って…

全然似合ってないけど…この服も…見せようと思って…

シリウスなら『よく似合っています』って言ってくれそうだし…

大神殿に帰ってそのまま、シリウスの部屋に…行ったのよ…


そしたら…」


急に、あの光景を見た時の衝撃と苦痛が蘇り、私の声が震える。

「快感」の波は急に途絶えた。


テレシウスがピタリと動きを止め、私を見る。


「そしたら…!

あんなの…!!!

…あんなの、ないじゃない!!!!!」


(それは、勘違いだって、リヒトさん!!!)


「ひどいよ!

…ひどいよ!!

私、あの人と同じピンクの服着てさ、

似合わないのに、バッカみたい!!!」


(泣かないで!リヒトさん!!泣かないで!!!)


「あっちはピンクが似合ってて、

美人で、胸も大きいからって!


鼻の下のばして、

胸まで触って…馬鹿じゃないの!!

何よ、私の貧弱な胸なんか、興味持ったこともないくせに!!!」


(持ってるよ!!!

持ってる!!!

興味持ちすぎて困ってるんだ!!!)


「あんなの見せられて、勘違いだとか、誰が信じれる?

勘違いなら、追いかけてくるんじゃないの!?

すぐに追いかけてきて、抱き締めるんじゃないの!?

真実だから、後ろめたくて来れなかったんじゃないの!?」


「違う!!!!!!!!!!!」


急に、テレシウスは私の胸に顔を埋めて叫んだ。


「違う!

違う!!

違う!!!

違う!!!!

違う!!!!!」


そのまま肩で激しく息をして、小刻みに震えている。


「あの人は、急に来たんだ。

私を呼んだでしょうって…


見間違いだ、部屋に戻ってくれって言ったら、

誘ってきたんだ。」


まだ顔は上げずに、私の胸に埋めたままだ。

喋るたびに、熱を帯びた吐息が私の身体に伝わってくる。


「興味のない女性に言い寄られたら、迷惑なだけだ。

お願いだから、このことで僕を疑わないで。」


「…うん…」


髪の半分は、美しい銀髪に戻ってきている。

私は、胸が一杯になって銀髪の方を優しく撫でた。


それに、なんとなく、テレシウス自身がシリウスを戻そうとしている気がした。


この歴史上最悪の残虐王は、なぜ、こんなにも悲しそうで、不思議に優しいのか。


なぜ、テレシウスは、シリウスの中で復活したのか?

どうやって復活したのか?

これは、一連の事件とどう関係しているのか?


でも、今はもういい…星空が綺麗だから。


「ああ…小犬座がよく見える…」


私たちを推すと笑ってくれた、クロエ様の顔が浮かんで消える。


私は、私の胸にいる人の頭を、両手で抱え上げた。


「ねえ、シリウスとテレシウス…


私、ヤブサメ家の養女になるのは、お断りしようと思う。」


(次話に続く)

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