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【毒殺事件編】ハッ…貴様も苦労するな こんなお子様男が相手だと

挿絵(By みてみん)


僕は呆然となった。

最悪の事態になっているじゃないか。


でも…

一人にしてほしい?


僕が、ヘスティア嬢といい雰囲気になっていると勘違いしたなら、

問いただしたくなるもんじゃないのか?


別に、どちらでもいいのか?

リヒトさんには…


ああ、この思考はダメだ…

これは、また、例の「誰か」を呼んでしまう。


風呂に入って、今夜はさっさと寝よう。

明日も忙しいんだ。


僕はむしゃくしゃしながら自室に戻った。


馬鹿らしい。

大王たる僕が…祖母やヘスティア嬢に振り回されて。


風呂に入ると、柑橘系の石鹸が目についた。

いよいよ苛々して、思い切り握りつぶす。


弾けるような爽やかな香りが、虚しく鼻につく。


リヒトさんがゴテスベルクに誘拐されたとき、

まだそれを知らなかった僕は、彼女を…

彼女とそういうことをしようと決意して、この石鹼を使ったんだ。

リヒトさんはこの香りを気に入ってくれるかと想像しながら……


大体、リヒトさんは、なんで怒るんだ。


僕は、ヘスティア嬢との結婚話をリヒトさんの目の前できっぱり断った。

マリアの婚約のときとは違うじゃないか。


何が不満なんだ。

リヒトさんは難し過ぎるんだ!


それに、リヒトさんだって、なんだ。

勝手に出掛けたりして…

僕に言いもせずに。


きっと、僕より年上の男や、

ツヴェルフェト大学の優秀な男たちと、

楽しい時間を過ごしたんだろう。


なんなら、教授クラスの男と、

仲良くなったんじゃないか。


僕とは違って変化(へんげ)しない男と、

獣化しないリヒトさん…

一件落着、めでたいことだらけだ。


風呂から上がってガウンを着ると、

従者たちを下がらせる。


さあもう寝るぞ、リヒトさんの部屋は見ないぞ…と妙なプライドに囚われていたが、

我慢できずに窓の外を見てしまう…


アッ!!!!!


僕は瞬間に窓を開けて、

「神路開放…神通力…」

と集中しながら、リヒトさんの部屋を凝視した。


彼女の部屋の窓の外に、誰かいるのだ。


僕はその不審者を秒殺できる体勢で窓枠に足をかけ…

…え?


「リヒトさん!?!?」


思わず叫んで窓から飛び出し、神通力で飛んで行く。


その人影は、その間も、スルスルと器用にパイプを登っていく。


「リヒトさん!!!!!!!」


僕は、パイプの人影の肩をグッと掴んだ。


「あ―…君、誰?」


「酔っ払っているんですか!?僕ですよ!」


「『僕』なんて人、知ーらない。」


とまたスルスル登り始める。


「危ないですよ!僕の方に…」


「だから、知らない!!!!!」


急に、キッとなって、僕を見る。

包帯を巻いていない方の夕日色の瞳が、星明りで異様に輝いている。


「どっか行ってよ!ゴミ鼠!!!!!」


「ハァ!?なんですって!?!?」


「汚らわしい!!!あっち行け!!!」


ここで、リヒトさんは屋根によじ登る。


僕も術を解いて屋根に乗って相対する。

黒い大きなフードと片目だけのリヒトさんは、

まるでおとぎ話の半妖精(ハーフエルフ)のようだ。


「さっきのヘスティア嬢は勘違いです!

あの人が急に部屋に来て、あんなことを…」


「へぇ…『またいつでも来ます』って言ってたけど?」


「どうやったら勘違いが解けるんですか!?

冤罪もいいとこだ!!!」


僕はもう、苛々の極致に達した。


リヒトさんは急に、屋根の際まで行って、

バランスをとって歩き出す。


普段は器用な彼女も、片目だと危なっかしい。

フラフラとバランスを取りながらつぶやく。


「どうやったら…

勘違いが…

解けるのか…だって?

そんなの知ーらない…」


リヒトさんに突き放されて困惑の極みにいたった瞬間、

僕の身体は自分の意思で動かなくなった。


**************


と、急にシリウスが、屋根の際に来て、

黙って、力強く、ギュッと私を抱き寄せた。


私のフードに手を差し入れて、頭を撫でてくれる。


頬を擦り寄せながら、何度もギュッとしてくれる。

もちろん私は抵抗しない。


シリウスの胸の鼓動が心地良い。


言葉も言い訳も、何も要らない。

それは、争いを生むだけ。


私はただ、不安なときに、

私を一番優先して…ギュッとしてほしいだけなんだから…


「明日はずっとこうしていよう。」


「え?でも、明日も君は…」


「執務も公務も何とかなる。

それより、放っておけるわけがないだろう…」


「シリウス…!!!」


今度は、私からシリウスをギュッと抱き締めた。


「…君は大王だから、我儘言っちゃいけないって思ってた…

でも、嬉しい…

そういうこと、言ってくれて…

言ってくれただけで嬉しい…」


「ハッ…貴様も苦労するな…

…こんなお子様男が相手だと…」


エッ…!?


固まる私の頬が、優しく持ち上げられる。


シリウスの顔を見て、私は言葉が出なかった。


白銀の髪、

ブルーダイヤモンドの瞳…


いつの間にか、シリウスは、「誰か」に変化(へんげ)していた。



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