【毒殺事件編】神鼠の最強大王シリウスは 女の扱いが下手すぎる
執事のモレルが僕に耳打ちをする。
次の予定まで、あと少ししかない。
リヒトさんが庭園に向かったことをヤンから聞くと、
僕は神通力で窓から飛び出した。
…いた。
小さな影。
「リヒトさん!!!」
リヒトさんは振り向かない。
しゃがんで、木の棒で土を掘っている。
何かを言おうとしたが、うまく口から出てこない。
急にリヒトさんが言う。
「どうして、何も言わないの?」
「エッ…?
いや…言うことがないから…
見ていた通りです。
僕は何も知らなかったし…
リヒトさん、どうして怒っているんですか?」
「怒ってない。」
そのとき、従者が走ってきた。
「シリウス様、次のご予定が…」
僕はため息をつく。
何を言えば、リヒトさんの機嫌が直るのか分からない。
「リヒトさん…
寝るときは、燭台で合図します…」
リヒトは、黙々と土を掘っている。
「ねえ、リヒトさん、僕は、はっきり断りましたよ?
これ以上、何をすればいいんですか?
リヒトさん…!!!」
リヒトさんはずっと黙っている。
僕は、少しムッとして、その場を離れた。
*************
その晩、執務を終えた僕は、
執事のモレルを問いただしていた。
「なぜ、一緒に行かない?」
「お世話になった教授の小さな退任パーティだから、
一人で行きたいと、強くご要望で…」
「遅すぎるだろう。」
「まだ亥の刻にもなっておりません。」
「そもそも、なぜ、その予定を僕に言わないんだ。」
「リヒト様も、夕方に思い出したとのこと…
この予定だけを、他の方もいらっしゃるのに、
執務中のシリウス様にお伝えすることはできません。」
「彼女が危険な目に遭うかもしれないだろう。」
「ですから、少し離れた位置で、親衛隊が複数人警護しております。」
僕はむしゃくしゃした。
執事のモレルは静かに続ける。
「ご報告ですが、ヘスティア様は、大神殿の一室にご宿泊です。」
「夜が明け次第、帰ってもらえ。
僕は会わない。」
モレルは退室した。
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僕は、自室に戻ると、窓を覗いた。
リヒトさんの部屋は暗い。
僕は、妙に寂しくなって、
燭台で合図をしてみた。
1,2,3,4,5,6,7,8,9
返事はない。
1,2,3
もちろん、返事はない。
僕は腹が立ってきた。
一人で部屋をウロウロする。
僕が、燭台で合図をするときに、
部屋にいないなんて。
僕は、燭台で合図すると言ったじゃないか。
教授って誰だ?
その宴会に来るのは誰だ?
彼女は今、楽しそうに笑っているのか?
あの笑顔で?
…僕がいなくても?
そのとき、遠慮がちに扉をノックする音がする。
僕の心臓は跳ね上がった。
リヒトさん!!!
扉に飛んで行く。
が、すぐに扉を開けると、
まるで待っていたみたいで、
今の、むしゃくしゃしている僕の変なプライドに反するから、
二呼吸ほど待って、ゆっくり扉を開けた。
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が、そこに立っていたのはリヒトさんではなかった。
「…ヘスティア嬢。こんな夜分にどうされましたか。」
僕は鋭い視線を大王付きに送る。
なぜ、この人をこの廊下に通した?
「大王様…私をお呼びになりましたでしょう?」
「僕が?」
呆気に取られていると、
「ええ、先ほど窓から、燭台を点けて、私に手を振っておられたでしょう。
私も、手を振り返しましたが、ご覧になりました?」
と言う。
が、なんにせよ、距離が近い。
胸元が当たりそうだ。
しかし、後ろに下がると、部屋に入ってきそうだし…
僕は動かないまま言った。
「いいえ、貴女にそんなことはしていません。
見間違いでしょう。」
「どなたかに、しておられたのですか?」
ヘスティア嬢は健康的な艶っぽい笑顔を浮かべる。
「さあ、部屋にお戻りください。」
「分かりました。
それでは、大王様のご健康をお祈りいたします。」
と言いながら僕の手を取ると、両手で包んで、
胸の谷間に押し当てる。
あまりの積極性に面食らっていると、
さらに、僕の胸に顔をすり寄せてきた。
僕が、慌てて手と身体を離して「部屋にお戻りください」と再度言うと、
「お休みなさいませ。
…またいつでも参りますわ。」
と、ようやく去ってくれた。
やれやれとため息をついたとき、ヤンが近付いてきた。
「リヒト様がお帰りになって…」
「リヒトさんが?無事か?」
「はい…お酒に酔っていらっしゃいますが…」
「酔ってるのか…」
お酒に酔ったリヒトさん、どんな顔なんだろう。
僕は、先ほどのヘスティア嬢の禊をしたいし、
なんでもいいから、
酔っ払った、可愛いリヒトさんに会いたくてたまらなくなった。
「まだ寝てないんだろう?
少しだけ顔を見たい。」
「あ、あの…」
「なんだ?」
「今、ここにいらっしゃったんですが…」
僕は、嬉しさでくすぐったくなった。
リヒトさん、会いに来てくれたんだ!
すぐに追いかけようとした僕に、
ヤンがためらいがちに言った。
「シリウス様が、ヘスティア嬢とその…寄り添っているお姿を見て…
一人にしてほしいと、立ち去られました。」




