怨霊祭(ゲシュペンストフェスト)はお断り
「でも、どうなったでしょうか…
シリウス様が恋に落ちた貴女は、猫族…
近付こうとすればするほど、
感情が戻るほど、
距離を取らざるを得ず、あの方の苦しみは深まっていく。
三年前、貴女が大神殿を去ったときのシリウス様の絶望と悲しみ…
想像できますか?」
私は睨みつけた。
「もちろん、貴女のせいではない。
シリウス様を救うために、
貴女も、絶望と悲しみを背負っていた。」
ロベルトは少し遠くを見た。
「その後、いったん鎮まっていた独立運動が、各州で、また復活し始めたのです。
シリウス様の命を狙う事件も出て来ました。
貴女が去った後も、必死に国のために尽くしておられるシリウス様の命を…
独立だのなんだの、救いようのないゴミ共です。」
私の心は、ロベルトに賛同することを否めない。
ロベルトは私に目を戻した。
「貴女は、シリウス様に言ったんでしょう?
『シリウスが命を懸けなければ守れない国は滅べばいい』と。
…私はそれを、随分前から思っていたわけです。
十二支というシステムを破壊して、
シリウス様を中心とした新たな統一国家を創ろうと。」
私はロベルトを凝視する。
「十二支を神通力から解放すれば、
シリウス様は御自身の血族に王位継承を行うことで、生贄にも捨て駒にもならない。
シリウス様は、今は一緒にいられないことが運命づけられている猫族の貴女と、
自由に過ごせる。
いいこと尽くめでしょう?」
私は、ようやく声を絞り出した。
「そのために…クロエ様…たちを…?」
「ご明察。
ある友人に教えてもらったのです。
十二支を神通力から解放する、王たちの血を集めた【怨霊】祭を。」
「怨霊…?」
私は声を絞り出した。
頭の中を色々な想念が駆け巡り、繋がっていく。
うなじの刻印が破れそうに痛い。
「ここは…もしかして…ゴテスベルクの…」
「本当に貴女は聡明で素晴らしい。」
ロベルトは…いつもそうだったように、穏やかに私に微笑んだ。
「そう…ここは、ゴテスベルクの、
猫族の天神です。」
私の目の前が、真っ白になった。
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「そろそろ、貴女もお喋りできるようにしましょうか。」
ロベルトが私の口に指を当てると、私は喋ることだけできるようになった。
私は冷静さを取り戻した。
ここは、落ち着いて話して、ロベルトの計画の全容を知ろうと考えた。
「【怨霊】祭には、十二支の王の命が必要ということ…?」
「ええ、正確には9人の命です。忌数のね。」
「シリウスと、貴方と、誰かが生き残る…
その3人で、今の体制を利用しつつ、最終的にはシリウスを王とする統一国家を創る…
という計画ですね?」
「貴女、生き辛いくらいの鋭さですね…その通り。
十二支の王9人だけ死ねば…もう3人死んだので、後6人死ねば、
シリウス様が報いられる世界が構築できます。」
「なるほど…」
私はじっとロベルトを見た。
「私に何を協力しろと?」
「たった6人、されど6人です。
十二支の王は強い。私が手を回してその命を奪うには時間がかかり過ぎる。
でも、シリウス様がその気になれば、即座に6名の命を奪える。」
「私に、シリウスをこの計画に賛同するよう唆せということでしょう。」
「愛を持って説得してください、というお願いですよ。」
ロベルトも私を見つめている。
「私も、彼らが好きなのです。
独立運動も、地下組織がやっていることで、十二支の王が牽引しているわけではない。
実際、今期の十二支の多くは気のいい人間で、シリウス様に心酔していますから。」
ふいに、ロベルトは、200数十年と言われる年齢とは思えない整った表情を綻ばせた。
何かを思い出したように。
「でも、【怨霊】祭には、9人の命が必要。
まあ、シリウス様を愛してやまない十二支の王なら、命を落としても、あの世で祝杯をあげるでしょう。」
私は目を閉じた。
妙な納得感に押し流されそうになっている。
「神通力というシステムを解放しなければ、
独立派の運動が過激化して、シリウスが殺されるかもしれない。
多くの人が命を落とすかもしれない。
私がシリウスを殺す可能性も消えない…」
私は噛みしめるように言った。
何度思ったことだろう。
どうして、シリウスが鼠で、私が猫などという因果な属性に生まれてしまったのだろうと。
神通力などのない国に生まれて、属性に怯えることなく、
シリウスと向き合うことができたら、どんなによいだろうと。
「そうです、リヒトさん。
シリウス様もあなたも、まっすぐで、聡明で、懸命なお方だ。
シリウス様を虐待したり、貴女を嘲笑したりした人間たちよりも遥かに幸せになる資格がある。
私は、どうしても、幸せにして差し上げたいのです。
【怨霊】祭の罪悪感などを、シリウス様と貴女が背負う必要はない。
9人には、私が死んだときに、あの世でしっかりと謝っておきましょう。」
ある意味、隙のない説得だ。
私は思わず微笑んだ。
ロベルトは少し安心したように続ける。
「大量の神通力が国中に発出されていました。
おそらく、シリウス様が貴女の居場所を突き止めて、それでテオもここに来たのでしょう。
もうすぐ、シリウス様もいらっしゃるはず。
ぜひ、貴女からもシリウス様を…」
「お断りします。」
ピクリとロベルトが止まった。
「納得していただけたと思っていましたが…?
貴女方が幸せになるこの計画の、どこが不満なのですか?」
私の顔に、苦笑いが込み上げた。
「シリウスと全く同じことを言うんですね。
十二支の男性って皆そうなんですか?」
「え?
おっしゃることの意味が分かりませんが…」
ロベルトが面食らった表情をする。
「全部話さなきゃ、分かりませんか。
だから馬鹿シリウスに、馬鹿ロベルトなんでしょ?
でも、説明しません。
時間の無駄です。」
ロベルトは吹き出した。
「シリウス様も最高ですが、リヒトさん、貴女も最高だ。
あの鉄壁のシリウス様が、易々と陥落するわけです。」
ロベルトはクックと笑いながら続けた。
「では仕方ありません。
貴女の命を盾に、シリウス様に残る6名を殺してもらいましょう。
この方法だと、私がシリウス様に嫌われてしまいそうですが…まあ仕方ないですね。」
ロベルトは私をドサリと倒すと、石の台に鎖で縛り付けた。
「私の神通力【牛歩】は強力ですが、派手さがないですからね。
貴女が動けないことが、ちゃんとシリウス様に分かるようにしないと。」
クロエ様とフレドリック様の首が目に入って、
思わず目を背けた。
「それにしても…貴女はずいぶん色っぽい寝間着を着ていますね。」
ギクリとして目を下に向けると、横倒しで鎖を巻きつけられたことで、
ゆったりしたネグリジェが乱れ、捲れ返り、私の胸や足が露わになりそうになっている。
「可哀そうに…シリウス様があまりに奥手だから、
貴女から誘おうとしたんですねぇ…」
頬に血が上る。
「そ、そんなことは…」
「ふぅん…」
気付けば、ロベルトが、台に腰を下ろして私の身体をじっと見つめている。
私はサッと青ざめた。
「悪くないね。」
ロベルトは手を伸ばすと、ネグリジェの襟を胸元まで引き下げる。
「何するの!!!!!!!!!!!」
「おっと、鎖が邪魔で見えないねぇ。
でも、なかなかいいじゃない。」
というなり、私を押さえつけると、胸元を牛のような分厚い舌で舐め回し始めた。
「シリウス!!!助けて!!!!!シリウス!!!!!シリウス!!!!!」
身体は動かない。
私はただ叫ぶ。
しかし、叫ぶ間にも、鎖がギシギシとずらされ、あっという間に足が開かれる。
「できる男は仕事も手も早い…ってねぇ?」
「助けて!!!!シリウス!!!!!シリウス!!!!!!
シリウス!!!!!シリウス!!!!!!」
もう私は声が枯れるほど泣き叫んだ。
ズシリと私を跨ぐロベルト。
「いいね、アンタ。決めたよ。」
鉄の棒のような固い物が押し付けられた瞬間、私は声を限りに叫んだ。
「シリウス――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!」
*************
と、私の身体からロベルトの体重が消えた。
「リヒトさん!!!!!!!!!!!!!!!!!」
絶叫と共に、ドスンという鈍い音が聞こえる。
顔に風を感じると同時に、私の手が強く握りしめられた。
目を開くと、
青い光に包まれたシリウスの背中があった。




