襲われたエーレント
テレシウスが来て一年くらい経ったときか。
テレシウスはまたフラリと去ると、
しばらく俺んちに帰って来なかった。
大の男の世話をしないから時間に余裕ができる。
寝台も俺が使えるから、疲れも取れる。
忙しい俺にはありがたい環境が戻ってきた。
…はずなのだが、どうも落ち着かない。
今日も、猫族のジジイにクダクダ言われたり、
仕事の割り振りでゴチャゴチャ言われたり…
それが、常以上に、俺への敵意に溢れている気がする。
…こんな夜は、部屋で、
テレシウスとタバコ吸って、
酒飲んで、
無駄話してェな…
アイツ、いつ帰ってくるんだ…
帰るのもクサクサするから、適当にその辺りで飯を食うことにした。
立ち食いしていると、急に耳障りの悪い声がする。
「お兄さん一人?いつものデカい用心棒は?」
「…アイツは用心棒じゃねェ。
ダチだ。」
「へェェ!おたくら、そういうオトモダチ?
…その耳飾り、あの用心棒の目の色だもんなァ?」
息がクセェ。
しかし、酒に酔っていない(もともとクセェんだろう)。
明らかに、わざわざ喧嘩を売ってきている。
「胸のそれ、うなじと同じだろ?」
「……」
「相手してよ、お兄さん。」
「……」
俺は金を払うと、さっさと店を出た。
が、案の定ついてくる。
俺は振り向いた。
「なんか用か?」
言い終わる前に、息のクセェ男が飛び掛かってきた。
ナイフを持っている。
俺はヒラリとその辺りの壁に飛び乗ったが、
物陰から、ナイフやこん棒を持った男が何人も襲って来る。
おいおい、俺の命をとろうってか?
俺は猫爪で応戦する。
…が、多勢に無勢。
傷は増え、動きは鈍くなる。
どうせ死ぬなら一人でも多く道連れにするのと、
誰が俺を殺そうとしているかを知りてェ。
王を舐めるな、末代まで呪ってやる。
「分かった!降参!!!」
俺は猫爪を転がすと壁を背に、両手を挙げた。
「ハイハイ、ちゃんと殺されるから、
誰が俺を殺そうとしてるか教えてくれ。」
男たちは沈黙する。
俺は舐め回すようにコイツらの全身を見て、ふと剣の家紋に気が付いた。
「ほォーん…ステンチ家か。
あのクソ野郎…」
男たちは明らかに動揺している。
俺はすかさず言った。
「なァ、アイツ、モーホーなんだぜ。
しかも、俺の身体にご執心だ。
俺を生きたまま連れて帰ったら、もっと金をもらえる。」
男たちは、目を見交わした。
その瞬間、俺は、猫爪を拾い上げて一人の男に突進した。
まずは一人、道連れ。
ざまあ見ろ。
「コイツ!!!」
一気に男たちが俺になだれかかる。
ふと、テレシウスの静かな顔が目に浮かんだ。
息のクセェ、むさくるしいクソに囲まれたが、
人生の最期に、
テレシウスの顔が浮かんで良かった。
俺は最後の力を振り絞る。
やったね。
もう一人道連れ。
俺は血まみれだ。
ゴッと重い衝撃が身体のどこかに来た。
――
「エーレント!!!!」
テレシウスの声…
アイツの叫び声なんか初めて聞いた。
「エーレント!!!!!エーレント―――――!!!!!!!」
霞む目の先に、
恐ろしい速さでクソ共を薙ぎ払い、
串刺しにしている白銀とブルーダイヤモンドの残像が見えた。
…テレシウス…
テレ…シウ…ス…
*******
…ここは…どこだ?
しばらく何も分からなかったが、
やけに腕が重い。
目だけを動かすと…
包帯を巻いた俺の腕を枕に、
座ったまま眠り込んでいるテレシウスが見えた。
しかし、俺が目を覚ましたことを感じたのか、
動物のように機敏な動きで頭を上げ、俺を見た。
「私が分かるか。」
全く…思いがけない顔つきだ。
この男もこんな…人間らしい顔つきをするんだな。
俺が頷くと、深くため息をつき、
そのまま目を逸らして、何も言わなかった。
「チビん…なよ、テレ…シウ…ス。」
俺は、少し笑った。
手を動かしてみると、
以心伝心、
テレシウスが大きな手で、
俺の手を握ったのだった。




