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大学の窓際少女は、美少年に襲い掛かる

僕は、この国の大王シリウス・ソイリ。

神から神通力を与えられた、十二支の【神鼠(しんそ)】。

 

僕は、

その夜、

僕を食べようとする猫の少女に 

恋をした。


神鼠と猫は一緒にいられない運命。


でも、僕は、絶対に、彼女と結婚するんだ。

彼女と殺し合っても

神の摂理を変えてでも。


僕は、彼女と共に、運命に勝つ。



挿絵(By みてみん)


********




私は、リヒト・ネコミヤ、16歳。

この国随一のツヴェルフェト大学一年生。

神馬しんばのエクウス州高等学院の最優秀成績者だった。


数名の優秀者と共にこのツヴェルフェト大学に推薦され、

希望に胸を膨らませて上京したのが、今年の春。


しかし、上京後に行われた最終試験で失敗し、

「窓際」と後ろ指さされる学部に所属することになってしまった。


高等学院では私の足元にも及ばなかった学友は、

ここぞとばかりに、私を見ればおとしめ、さげすみ、

優越心を十分に満たしながら、

充実した大学生活を送っている。


故郷、神馬しんばのエクウス州には母がいた。


母子家庭で親類もなく、

私を学校に通わせるために、

母はどれほど苦労しただろう。


鬱々とした毎日ではあったが、

母のためにも、学友を見返すためにも、

来年は上位学部に転部しようと、

歯を食いしばって勉学に励んでいた。


しかし、その母が一か月前に病死。


私は、母に恥をかかせたまま、

母の死に目にも会えなかったのだ。


*****


大学がある首都ディモイゼは、

とにかく空気が合わない。


上京してから、

心身共にひどく不安定になっている。


このツヴェルフェト王国の大王がいる大神殿などは、

見るだけで吐き気がするほどだ。


仮にも「エクウスの俊才」と呼ばれた私…

…うまくいかない人生を首都ディモイゼのせいにしたくない。


しかし、母が世を去った頃から、

不調は明確になった。


憎悪のような感情に取りつかれて、

目まいがする。


常に空腹で吐き気がする。


金輪が嵌められたように、頭がギチギチと痛む。

うなじは焼けつくように痛くて、痒い。


冬の長期休暇に入る頃には、

私は頻繁に大学を休むようになっていた。


****


大晦日(シルヴェスタ)の夕暮れ、

ツヴェルフェト大学には人影もない。


私は、高い塔の屋根によじ登り、

ドーマーに頭をもたせかけて、

街の光を遠く眺めていた。


高くて、狭くて、誰もいないこの場所は、

多少なりとも私を落ち着かせてくれる。


ふと空を振り仰ぐと、鼠色の雲が空に広がり、

ゆるゆると雪が舞い降りてくる。


随分冷えてきた。


あと数時間で訪れる新年に向け、街並みに光が満ちていく。


私はブルリと一度大きく震えると、

屋根をするする走り、

ポプラの大樹を伝って地面に降りた。


食堂は閉鎖され、寮の自室には食料もない。


やむを得ず街に向かうが、

案の定、妙な憎悪の感情が沸き起こり、激しい目まいが襲ってくる。


私は、笑いさざめく人混みを縫って、

何とか食料を調達した。


しかし、もう限界だった。


寮に向かう途中の大きな橋の中央で、

とうとう歩くこともできなくなった。


呼吸が苦しい、

動機が激しい、

助けを呼ぼうにも声が出ない、

光と音楽に満ちた街で、

ぼろ雑巾のような私に気づく人はいない。


もう終わりだと思った瞬間、

うなじに激痛が走った。


急に目の前に止まった立派な馬車と、

背の高い人影の映像を最後に、

私は意識を失った。


****


意識を取り戻した私が目にしたのは、

豪華な天蓋だった。


私が身を起こそうとすると、

低く穏やかな声が聞こえた。


「お気づきになりましたか?」


そこには、背が高い男性が佇んでいた。


「貴女は橋の上で倒れたのです。

私たちがここにお連れしました。

少し治療もしています。」


「あ…ありがとうございます…

おかげさまで…楽になりました。

あの…ここは…?」


「大神殿です。」


「大神殿!?」


思わず飛び起きた。


「調子が戻られたようで、何よりです。

では、今から謁見に参りましょう。」


「謁見…?」


「…ああ、申し遅れました。

私はトロス王の神牛しんぎゅうロベルトです。」


「トロス王!!」


私は飛び上がった。


その男性の高雅な佇まいは、

私に一点の疑いも抱かせなかった。


「大変…大変失礼いたしました…

私はエクウス州出身、

ツヴェルフェト大学に在学中の、

リヒト・ネコミヤと申します…」


「こんな状況です。気楽にしてください。

それより参りましょう、さあ…」


ロベルト様にいざなわれ、

私は、驚きが冷めやらず、状況も飲み込めないまま、部屋を出た。


*****


ロベルト様は、荘厳な空気の廊下をしばらく歩き、

巨大な扉の前でピタリと立ち止まった。


私は、ロベルト様の引き締まった背中にしたたかに顔をぶつける。


「さあ、こちらが謁見室です。」


私が何を言う間もなく、

ゆっくりと扉は開いていった。


しかし、扉が開くにしたがって、

私は、未だかつてない激しい憎悪と食欲が、

体中を走り回るのを感じた。


この憎悪と食欲は、間違いなく、

奥にある玉座の前に立つ人物に向けられたものだ。


そこにいたのは、一人の少年。


挿絵(By みてみん)


薄暗い部屋にもかかわらず、

銀髪とアクアマリンの瞳が、

恒星のように光り輝いている。


もちろん、一度も会ったことはない…


が…

コイツが憎い、

コイツを食いたい、

憎い、食いたい、憎い、食いたい…


もう何も考えられない!


衝動に…

全身が戦慄くほどの衝動に突き動かされる!

このままでは…

このままでは!!!!!


理性と本能が、

たけり狂う波と岩のように激しくぶつかり合う。


しかし、膝から崩れ落ちると思った瞬間、

その少年の瞳と私の獰猛な視線がかち合った。


理性は完全に吹き飛んだ。



挿絵(By みてみん)



私は天井近くまで跳躍すると、

そのまま少年に飛び掛かり、

その美味そうな首元にかぶりついた。


吹き出す血を味わうと、

これまで積もり積もった憎悪と食欲が満たされる。


私はこれを求めていたのだ!!!!!


強烈な悦びが体を貫く。


憎い!

食いたい!!

食らい尽くしたい!!!


少年は硬直して全く動かない。

無我夢中で彼にむしゃぶりつこうとする。


しかし、さらなる味わいを得る前に、

衛兵たちが、私を少年から引き離した。


次の瞬間、重い衝撃を食らった私は、

本日二度目の意識消失を経験することとなった。



****


ハッと目を開けると、先ほどと同じ天蓋が見える。


私が、少年を襲い、首元に嚙みついたのは…

夢だったのか…?


ふと口元に手をやると、

何かがこびり付いている。


舐めると鉄のような匂いが鼻に抜け……


私は飛び起きた。


私の服には血が飛び散っている。


夢ではない!

…あれは、夢ではない!!


私は、少年を襲ったのだ。

首元に噛みついたのだ。

血が噴き出ていた。


あの子は、死んだのではないか?


全身が氷のように冷え、

自分の首を絞めるように引き掴んだ。


エクウスでの勉学の日々、

嘲笑われながらも、

必死に過ごしたツヴェルフェト大学。


世のため人のためになるよう、

知性と理性を磨いてきたのに、

結果は、知性も理性も何もない。


狂気によって、罪のない少年を殺したのか。


美しい銀髪とアクアマリンの瞳が脳裏に浮かぶ。


喉の奥がカサカサに乾いて、

氷水を浴びたように震えが止まらなくなった。


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