大学の窓際少女は、美少年に襲い掛かる
僕は、この国の大王シリウス・ソイリ。
神から神通力を与えられた、十二支の【神鼠】。
僕は、
その夜、
僕を食べようとする猫の少女に
恋をした。
神鼠と猫は一緒にいられない運命。
でも、僕は、絶対に、彼女と結婚するんだ。
彼女と殺し合っても
神の摂理を変えてでも。
僕は、彼女と共に、運命に勝つ。
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私は、リヒト・ネコミヤ、16歳。
この国随一のツヴェルフェト大学一年生。
神馬のエクウス州高等学院の最優秀成績者だった。
数名の優秀者と共にこのツヴェルフェト大学に推薦され、
希望に胸を膨らませて上京したのが、今年の春。
しかし、上京後に行われた最終試験で失敗し、
「窓際」と後ろ指さされる学部に所属することになってしまった。
高等学院では私の足元にも及ばなかった学友は、
ここぞとばかりに、私を見れば貶め、蔑み、
優越心を十分に満たしながら、
充実した大学生活を送っている。
故郷、神馬のエクウス州には母がいた。
母子家庭で親類もなく、
私を学校に通わせるために、
母はどれほど苦労しただろう。
鬱々とした毎日ではあったが、
母のためにも、学友を見返すためにも、
来年は上位学部に転部しようと、
歯を食いしばって勉学に励んでいた。
しかし、その母が一か月前に病死。
私は、母に恥をかかせたまま、
母の死に目にも会えなかったのだ。
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大学がある首都ディモイゼは、
とにかく空気が合わない。
上京してから、
心身共にひどく不安定になっている。
このツヴェルフェト王国の大王がいる大神殿などは、
見るだけで吐き気がするほどだ。
仮にも「エクウスの俊才」と呼ばれた私…
…うまくいかない人生を首都ディモイゼのせいにしたくない。
しかし、母が世を去った頃から、
不調は明確になった。
憎悪のような感情に取りつかれて、
目まいがする。
常に空腹で吐き気がする。
金輪が嵌められたように、頭がギチギチと痛む。
うなじは焼けつくように痛くて、痒い。
冬の長期休暇に入る頃には、
私は頻繁に大学を休むようになっていた。
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大晦日の夕暮れ、
ツヴェルフェト大学には人影もない。
私は、高い塔の屋根によじ登り、
ドーマーに頭をもたせかけて、
街の光を遠く眺めていた。
高くて、狭くて、誰もいないこの場所は、
多少なりとも私を落ち着かせてくれる。
ふと空を振り仰ぐと、鼠色の雲が空に広がり、
ゆるゆると雪が舞い降りてくる。
随分冷えてきた。
あと数時間で訪れる新年に向け、街並みに光が満ちていく。
私はブルリと一度大きく震えると、
屋根をするする走り、
ポプラの大樹を伝って地面に降りた。
食堂は閉鎖され、寮の自室には食料もない。
やむを得ず街に向かうが、
案の定、妙な憎悪の感情が沸き起こり、激しい目まいが襲ってくる。
私は、笑いさざめく人混みを縫って、
何とか食料を調達した。
しかし、もう限界だった。
寮に向かう途中の大きな橋の中央で、
とうとう歩くこともできなくなった。
呼吸が苦しい、
動機が激しい、
助けを呼ぼうにも声が出ない、
光と音楽に満ちた街で、
ぼろ雑巾のような私に気づく人はいない。
もう終わりだと思った瞬間、
うなじに激痛が走った。
急に目の前に止まった立派な馬車と、
背の高い人影の映像を最後に、
私は意識を失った。
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意識を取り戻した私が目にしたのは、
豪華な天蓋だった。
私が身を起こそうとすると、
低く穏やかな声が聞こえた。
「お気づきになりましたか?」
そこには、背が高い男性が佇んでいた。
「貴女は橋の上で倒れたのです。
私たちがここにお連れしました。
少し治療もしています。」
「あ…ありがとうございます…
おかげさまで…楽になりました。
あの…ここは…?」
「大神殿です。」
「大神殿!?」
思わず飛び起きた。
「調子が戻られたようで、何よりです。
では、今から謁見に参りましょう。」
「謁見…?」
「…ああ、申し遅れました。
私はトロス王の神牛ロベルトです。」
「トロス王!!」
私は飛び上がった。
その男性の高雅な佇まいは、
私に一点の疑いも抱かせなかった。
「大変…大変失礼いたしました…
私はエクウス州出身、
ツヴェルフェト大学に在学中の、
リヒト・ネコミヤと申します…」
「こんな状況です。気楽にしてください。
それより参りましょう、さあ…」
ロベルト様に誘われ、
私は、驚きが冷めやらず、状況も飲み込めないまま、部屋を出た。
*****
ロベルト様は、荘厳な空気の廊下をしばらく歩き、
巨大な扉の前でピタリと立ち止まった。
私は、ロベルト様の引き締まった背中にしたたかに顔をぶつける。
「さあ、こちらが謁見室です。」
私が何を言う間もなく、
ゆっくりと扉は開いていった。
しかし、扉が開くにしたがって、
私は、未だかつてない激しい憎悪と食欲が、
体中を走り回るのを感じた。
この憎悪と食欲は、間違いなく、
奥にある玉座の前に立つ人物に向けられたものだ。
そこにいたのは、一人の少年。
薄暗い部屋にもかかわらず、
銀髪とアクアマリンの瞳が、
恒星のように光り輝いている。
もちろん、一度も会ったことはない…
が…
コイツが憎い、
コイツを食いたい、
憎い、食いたい、憎い、食いたい…
もう何も考えられない!
衝動に…
全身が戦慄くほどの衝動に突き動かされる!
このままでは…
このままでは!!!!!
理性と本能が、
たけり狂う波と岩のように激しくぶつかり合う。
しかし、膝から崩れ落ちると思った瞬間、
その少年の瞳と私の獰猛な視線がかち合った。
理性は完全に吹き飛んだ。
私は天井近くまで跳躍すると、
そのまま少年に飛び掛かり、
その美味そうな首元にかぶりついた。
吹き出す血を味わうと、
これまで積もり積もった憎悪と食欲が満たされる。
私はこれを求めていたのだ!!!!!
強烈な悦びが体を貫く。
憎い!
食いたい!!
食らい尽くしたい!!!
少年は硬直して全く動かない。
無我夢中で彼にむしゃぶりつこうとする。
しかし、さらなる味わいを得る前に、
衛兵たちが、私を少年から引き離した。
次の瞬間、重い衝撃を食らった私は、
本日二度目の意識消失を経験することとなった。
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ハッと目を開けると、先ほどと同じ天蓋が見える。
私が、少年を襲い、首元に嚙みついたのは…
夢だったのか…?
ふと口元に手をやると、
何かがこびり付いている。
舐めると鉄のような匂いが鼻に抜け……
私は飛び起きた。
私の服には血が飛び散っている。
夢ではない!
…あれは、夢ではない!!
私は、少年を襲ったのだ。
首元に噛みついたのだ。
血が噴き出ていた。
あの子は、死んだのではないか?
全身が氷のように冷え、
自分の首を絞めるように引き掴んだ。
エクウスでの勉学の日々、
嘲笑われながらも、
必死に過ごしたツヴェルフェト大学。
世のため人のためになるよう、
知性と理性を磨いてきたのに、
結果は、知性も理性も何もない。
狂気によって、罪のない少年を殺したのか。
美しい銀髪とアクアマリンの瞳が脳裏に浮かぶ。
喉の奥がカサカサに乾いて、
氷水を浴びたように震えが止まらなくなった。




