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Jardin miniature 神々の箱庭で、少女たちは軌跡を紡ぐ  作者: kitty
第1章 聖エリュシア学園入学編
8/91

新入生歓迎会前

入学式典から一月後。

今日は新入生歓迎会のため授業はなく、生徒たちは朝から準備に追われていた。


「そのドレス、素敵ね」


「ありがとう。マダムルージュの新作なの」


「まぁ、ルシファニア王室御用達の……羨ましいわ」


女子寮のロビーでは、色とりどりのドレスを見せ合いながら、少女たちが目を輝かせて笑い合っている。


「……はぁ。行かないという選択肢は、無いのかしら」


その光景を少し離れた場所で眺めながら、ジャミーラは深いため息を落とした。


⚜️⚜️⚜️


男子寮のロビー。

高い天井に声が反響し、笑い声があちこちで弾けている。


数人の新入生が、興味津々といった様子で噂話に花を咲かせていた。


「なあ、もうダンスパートナーは決まったか?」


「一応な。ギリギリでさ……本当に焦った」


「まじか。良かったじゃないか」


「こういう時、婚約者がいるやつはお気楽でいいよな」


「それな。相手探しで走り回らなくて済むし」


「そういえば聞いたか?ランデュート王国第二王子の婚約者、入学したらしいぞ」


その一言に、近くを通りかかった青年——

ランデュート王国第二王子の側近、ライルは思わず足を緩めた。


「え、ランデュートって家庭教師が主流だろ?」


「だよな。わざわざ学園に来るなんて珍しくね?」


「噂じゃ、婚約者を追いかけてきたらしいぞ」


「まじかよ」


「すげぇよな。“魅惑の悪魔”はやっぱ違うわ」


「……魅惑の悪魔?」


首をかしげる新入生に、別の男子生徒が得意気に言う。


「知らねぇのか? ランデュート第二王子の異名だよ。

あの国の民が“悪魔の民族”って呼ばれてるのは知ってるだろ?」


「そういや……髪の色も瞳の色も、伝承にある魔族そっくりだもんな」


ライルは小さく眉を寄せ、胸の奥に拭えないざらつきを覚えた。


「それに第二王子は、すげぇ美形でさ。

見る者を惑わす悪魔って意味で、“魅惑の悪魔”。昔からそう呼ばれてる」


「でも、王族に向かって無礼じゃないか?」


「関係ねぇよ。

あの王子、追放された身なんだって。

王妃も処刑されて、後ろ盾も何もないらしいぜ」


「……そりゃ、悲惨だな」


品のない笑いがロビーに響く。


赤い瞳をわずかに細め、

ライルはまっすぐ男子寮の奥へと向かう。


長い廊下を進むたび、喧騒が少しずつ遠ざかっていく。

その歩みに合わせ、漆黒の髪の奥で編まれた一房が静かに揺れた。


目的の部屋の前で足を止め、扉を叩く。


「入れ」


低い声に応じて扉を開けると、鏡台の前に立つ漆黒の髪の男——ムスタファが、ゆっくりと振り返った。


「なんだ、ライルか」


「うわぁ、その反応ひどいですね?

愛する従者が迎えに来たんですよ。

他に誰か、お待ちでした?」


わざとらしく肩を落としてみせるが、ムスタファの表情は微動だにしない。

どうやら“待っていた相手”は、まだ来ていないらしい。


「……その外套は何だ」


「え?」


「今日は歓迎会だ。着崩すな」


ライルは自分の肩を見下ろす。

外套は肩から半分落ち、襟元は無造作に開いている。

袖先も長く、ひらりと揺れていた。


「いやぁ、これくらいの抜け感がですね——」


「直せ」


低い一言。


「お堅いなぁ。これでも一応、正装ですよ?」


「一応、では困る」


溜息まじりに言い捨てられ、ライルは肩を竦めた。


「はいはい。王子殿下の品位に傷がついてはいけませんもんね」


「そうだ」


即答。


「……否定しないんですね」


ぶつぶつ言いながら、外套を整える。


「支度は、お済みのようで」


正装に包まれた引き締まった体躯。

くせのある漆黒の髪の奥、後ろへ流した髪の間から細く編んだ一房が覗く。

彫りの深い美貌。赤い瞳が静かに光を宿している。


“魅惑の悪魔”。

そう呼ばれる所以を、否応なく思い知らされる。


ふと、周囲を見渡す。


「あれ、アルは?」


「まだ戻っていない」


短い返答。だが、それだけで十分だった。


(……やっぱり、待ち人はアルか)


同じ側近のはずなのに——

胸の奥が、わずかにざわついた。


「そこに座っていていい。アルが戻ったら向かう」


促されるまま椅子に腰かけると、室内に沈黙が落ちた。

壁に掛けられた振り子時計の音だけが、規則正しく時を刻んでいる。


その間が苦手で、ライルは話題をひとつ投げる。


「そういえば、ジャミーラ・シャマル様が無事にご入学されたそうですよ」


「ああ」


興味の欠片もない返事。


「殿下は、お会いになったことは?」


「ない」


「……絵姿くらいは?」


「見ていない」


「…………」


ライルは思わず目を瞬いた。


(まじですか……)


政略婚とはいえ、婚約者の顔すら知らないとは思わなかった。


「仮にもご婚約者なのですから、少しくらい興味を持たれては?」


「必要がない」


即答だった。


ライルは額を押さえる。


「せめて新入生歓迎会では、仏頂面だけは隠してくださいね。

場が凍りますから」


ムスタファは何も答えない。

——ほんのわずか、眉が動いた。

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