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Jardin miniature 神々の箱庭で、少女たちは軌跡を紡ぐ  作者: kitty
第3章 厭う地で志を繋ぐ
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決意の灯

生徒会室には、夜の気配が満ち始めていた。


窓の外は群青に沈み、

中庭の輪郭も闇に溶けていく。


灯されたランプの光だけが、

室内をかろうじて現実につなぎ留めていた。


アルテリスは、同じ場所に立ったまま動かない。


机の上には、ライルからの手紙。


内容は、すでに理解している。


だからこそ——決めなければならない。


二つの思いを天秤にかける。


本当は、もう決まっている。


だが、選べば戻れない。


言葉にできぬまま、

時間だけが静かに流れていく。


沈黙を破ったのは、ムスタファだった。


「——夜になるな」


独り言のように呟き、

窓の外へ視線を向けたまま続ける。


「来たばかりの頃は、この静けさが異様に感じられたが……

今は、当たり前にさえ思っている」


誰に向けた言葉でもない。


それでも、アルテリスは耳を澄ませる。


「慣れとは、恐ろしいものだ」


それだけだった。


——だが、十分だった。


ムスタファは語らない。


母を失ったことも、

王宮に居場所がなかったことも。


語らず、背負い、

そしてここに立っている。


その事実が、迷いを断ち切った。


「殿下、やはり——」


「やはり行くのはやめよう、か」


図星だった。


アルテリスは、すぐには頷けない。


喉が、わずかに詰まる。


それでも——アルテリスはゆっくりと頷いた。


ジャミーラを思えば、行くべきだ。


だが——


優先すべきは、誰か。


答えは、とうに決まっている。


「お前は、そういうやつだ」


ムスタファが苦く笑う。


「誰よりも、俺を優先する。

……自分を押し殺してでもな」


否定はできなかった。


「俺はな」


ゆっくりと振り返る。


赤い瞳が、まっすぐ射抜く。


「お前に、そんな顔をさせたくはない」


決めたはずの選択を、

なお揺らがせるように。


「それから——」


一拍。


「俺が聖騎士見習いに推薦した。

その時点で、責任は俺にある」


アルテリスの胸が、

小さく揺れた。


「王子として戻るつもりはない」


視線は逸らさない。


「責任を負う者として行く」


確固たる意志が、そこにあった。


「ですが——」


「俺が、それほど弱く見えるか?」


アルテリスは視線を伏せる。


違う。

決して、そうではない。


ただ——


「お命を——狙われるかもしれません」


答えの代わりに、そう告げた。


ランデュートへ向かうということは、

主を危地へ連れていくことに他ならない。


「俺達は、昔ほど無力じゃない」


静かな声。


「過信はしない。

だが——黙って奪われるつもりもない」


沈黙。


やがて、アルテリスはゆっくりと顔を上げた。


「……お供いたします」


迷いは、もうない。


「私自身も、そうしたいのです」


わずかに、ムスタファの目が細められる。


「私は——

殿下とシャマル様。

お二人の幸せを願っております」


一瞬の沈黙。


それから——


ムスタファは、ふっと微笑んだ。


「傲慢だな」


だが、その声には温度があった。


拒絶ではなく、

信頼の温度。


生徒会室のランプが、小さく揺れる。


その灯のように——


二人の決意もまた、

静かに、揺らぎなく燃えていた。

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