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Jardin miniature 神々の箱庭で、少女たちは軌跡を紡ぐ  作者: kitty
第2章 変わりゆく繋がりの中で
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零れた涙

ジャミーラの悲鳴が、遠くで揺れているように聞こえた。


視界が歪み、耳鳴りがする。

五感が定まらない中で——


アルテリスは奥歯を噛みしめ、崩れた梁の下から身体を起こそうとした。


肩と背中に、焼けるような痛みが走る。


「ア、アルテリスさん……!早く、治療を……!」


震える声。


顔を上げると、ジャミーラの瞳は大きく揺れ、今にも涙が零れ落ちそうに滲んでいた。

震える指先が、必死に治癒の詠唱を紡ぎ始める。


その時だった。


アルテリスは、彼女の手を掴んだ。


「そんなことより……お二人とも……早く外へ……!」


「……でもっ……!」


「また崩れたら……どうするのですか!」


普段の穏やかな声音とは思えないほど、鋭い声だった。


ジャミーラの肩がびくりと震える。


少女を抱き寄せながら、迷いを振り切るように頷いた。


アルテリスの誘導に従い、ジャミーラは少女を連れて家屋の外へ出る。


「ミーナ!!」


「お母さん!!」


母娘は泣きながら抱き合った。


その光景を確認した瞬間——

アルテリスの膝から、力が抜けた。


地面に崩れるように膝をつく。


血が地面に滴り落ちているのが、ぼんやりと分かった。


「アルテリスさん……!今すぐ治療を……!」


ジャミーラは震える両手を組み、祈りの詠唱を紡ぐ。


「《女神アウロラさま……

どうか、この者の傷を癒したまえ……》」


柔らかな光がアルテリスの身体を包み込む。


光が傷口に染み込み、

流れていた血がゆっくりと止まっていく。


やがて呼吸がわずかに整った頃。


アルテリスがかすかに息を漏らした。


「シャマル様……申し訳ございません」


その言葉に、

ジャミーラは、込み上げるものを押し殺すように、きつく唇を噛みしめた。


「どうして……」


声が震える。


「……どうして私を庇ったの!」


アルテリスは、かすかに微笑む。


「シャマル様に……お怪我を負わせるわけには……参りませんから」


「そんな……理由で……!」


ジャミーラは震える声を絞り出す。


「あなたが……怪我をしていい理由にはならないのよ……!」


アルテリスは苦しそうに息をつきながらも、微笑んだ。


「こう見えて……案外、頑丈なのです」


「そういう問題ではないわ!」


ジャミーラが叫ぶ。


「もっと……もっと自分を大切にして……!」


その声は、痛いほど真っ直ぐだった。


⚜️⚜️⚜️


足音が近づき、母親が駆け寄ってくる。


ジャミーラが振り返ると、女性は青ざめた顔で言った。


「人を呼んできます……!」


だが、アルテリスは静かに首を振った。


「応急処置は済んでおりますので……大丈夫です。

お嬢様がご無事で、何よりです」


一度呼吸を整え、続ける。


「どうか、教会でお休みください」


女性は迷うように視線を揺らしたが、

やがて深々と礼をして去っていった。


そして——


村外れの小道に、静けさが戻る。


風が草を揺らす音と、

二人の呼吸だけがそこに残った。


アルテリスはその場に膝をついたまま、肩で息をしている。


ジャミーラはその前に膝をつき、

伏せた目元を隠すように、わずかに俯いたまま口を開いた。


「……ごめんなさい……わたくし……

血を……止めることしか……出来なくて……」


声は整えているつもりでも、

わずかな震えが滲んでいた。


アルテリスは、優しく微笑む。


「シャマル様……本当に、私は大丈夫です。

どうか……そんな顔をなさらないでください」


その優しさに、

ジャミーラの肩がびくりと揺れた。


小さな沈黙が落ちる。


やがて——


「……ごめんなさい」


「シャマル様……?」


「わたくしが……軽率でした」


視線を落としながら続ける。


「あの子のことばかり考えて……

周りを見ていなかったの……

感情的にならなければ……

あなたが傷つくこともなかったのに……」


声がかすかに震えていた。


アルテリスは静かな声で返す。


「シャマル様は、あの少女のためを思って動かれたのです。

どうか、ご自身を責めないでください」


その言葉を聞いた瞬間——

堪えていたものが、ふっと緩んだ。


ぽたり、と。


ジャミーラの頬を涙が伝った。


慌てて目元を押さえる。


「……っ、違うの……

泣くつもりなんて……」


「シャマル様……?」


アルテリスが目を見開く。


ジャミーラは、押し殺すような声で言った。


「……怖かったの……!」


その瞬間、

堰を切ったように涙が溢れ出す。


「倒れてくる天井を見た時……

あなたがわたくしを突き飛ばして……

血を流して倒れた時……」


声が震える。


「胸が、張り裂けそうなほど……怖かった……!」


普段どれほど気丈でも。


今は、隠しきれなかった。


アルテリスは言葉を失う。


その瞳に、初めてはっきりとした動揺が浮かんだ。


「シャマル様……

私ごときのために……そのように……」


「“ごとき”なんて……二度と言わないで!」


ジャミーラの声が震えながら跳ねた。


「あなたが倒れた時、わたくし……

心臓が止まるかと思ったのよ……

あんなの……二度と、嫌……」


アルテリスは息を呑む。


ゆっくりと手を伸ばし——


震えるジャミーラの指先に、そっと触れた。


「……シャマル様が……

こんな表情をされるとは……思っておりませんでした」


その声には、かすかな揺れがあった。


「シャマル様が……ご無事で……何よりです」


「そのせいで……あなたが傷つくのは……嫌なのよ……!」


涙混じりの声。


アルテリスは静かに目を伏せる。


胸の奥に——


静かで、温かい痛みが広がっていった。

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