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Jardin miniature 神々の箱庭で、少女たちは軌跡を紡ぐ  作者: kitty
第2章 変わりゆく繋がりの中で
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放課後、生徒会室にて

放課後。


授業を終えた学園に、ゆっくりと夕暮れの気配が広がり始めていた。


生徒会室の扉を開けると、すでに数人の姿がある。

書類を整理する者、机に向かって筆を走らせる者。

久しぶりに、生徒会室は穏やかな空気に包まれていた。


「シャマル様、ごきげんよう」


声をかけられて振り向くと、

柔らかな白金の髪をくるりと巻いたツインテールに、紫の瞳をした少女が穏やかに微笑んでいた。

ルイーズ・ベルタンだ。


「ごきげんよう、ベルタン様」


ジャミーラも微笑み返す。


「ぜひ、ルイーズとお呼びくださいまし」


「では、わたくしのこともジャミーラとお呼びください。ルイーズ様」


「ええ、もちろんですわ。ジャミーラ様」


ふふっと、ルイーズは小さく微笑む。

くるりと巻かれたツインテールが、肩のあたりで軽く揺れた。


「嬉しいですわ。

今までは、生徒会にも、聖騎士団見習いにも、

女子はわたくししかおりませんでしたもの」


ジャミーラは納得して、頷いた。


「仲良くしていただけましたら嬉しいですわ」


教室で感じていた張り詰めた空気とは違い、

生徒会室は自然と肩の力が抜ける場所だった。


「……あ」


ジャミーラは一歩足を踏み入れた瞬間、思わず小さく声を漏らした。


「どうなさいました?」


紫の瞳が、やさしく覗き込む。


「い、いえ……」


そう答えながら、ジャミーラはそっと太腿に手を添えた。


(……痛……)


早朝訓練から、すでに数時間が経っている。

授業中は何とか誤魔化せていたが、

こうして動きを止めた途端、鈍い痛みがじわりと主張してきた。


「もしかして……早朝訓練の影響ですか?」


ルイーズが、ふと思い当たったように言った。


「はい……。初めてでしたので……

想像していた以上に、ずっと厳しかったですわ」


苦笑いを浮かべると、ルイーズは一瞬、懐かしむように目を細めた。


「わたくしも、最初は階段が敵でしたわ」


「階段……」


「ええ。降りるほうが辛いんですの」


「同じですわ」


思わず、二人で声を潜めて笑う。

ルイーズが肩を揺らすたび、巻かれたツインテールがふわりと弾んだ。


「誰もが通る道、ということですね」


後ろから声がかかる。


振り向けば、ライルが立っていた。


漆黒の髪に、後ろへひと房の三つ編み。

肩から外套を崩した制服の青年が、

深紅色の瞳を細めて微笑んでいる。


「ごきげんよう、イルハン様」


「ごきげんよう、シャマル様」


「イルハン様も、似たようなご経験が?」


「ええ。最初は膝が踊ってしまって、

それはもう見るに堪えない有様でしたよ」


三人は微笑みあった。


「皆様、似たような経験をされているのですね」


「ええ。でも、継続は力なりです。

今、ちょうど踏ん張りどころですよ」


「はい」


ジャミーラは素直に頷いた。


「……さて」


ルイーズは小さく息をつき、腕に抱えた書類へと視線を移す。


「わたくし、そろそろ仕事に戻らなくては。

訓練明けでお疲れでしょうから、

どうか、今日は無理はなさらないでくださいね」


「ありがとうございます、ルイーズ様」


「では、失礼いたしますわ。

ごきげんよう、ジャミーラ様、イルハン様」


「「ごきげんよう」」


軽やかに一礼して、

ルイーズは静かに生徒会室の奥へと戻っていった。


その背を見送ってから、

ライルは自然な仕草でジャミーラを自習用の机へと案内する。


「彼女と、だいぶ打ち解けられたようですね」


「ええ。生徒会の皆様はとても親切で安心いたしますわ」


「生徒会は、それから聖騎士団も、

ランデュートというだけで距離を置く者は、ほとんどいませんからね」


ライルの表情はいつにも増して温かかった。

それにつられるように、ジャミーラの胸にも温もりが広がる。


ジャミーラは椅子に腰を下ろした。

その瞬間、思わず安堵の息が零れた。


「お茶でも淹れましょうか?」


「お心遣い、ありがとうございます」


ふと、室内を見回す。


——いつもいるはずの姿が、見当たらない。


「……あの」


少し迷ってから、口を開く。


「アルテリスさんは……?」


「聖騎士団支部へ行っていますよ」


「任務、ですか?」


「いいえ。殿下の代理で、

生徒会宛の資料を受け取りに行っております」


まるで、いつもの事のように。


「そう、ですのね……」


ジャミーラは小さく頷いた。


「わたくしも、頑張らないと……ですわね」


初めての早朝訓練で筋肉痛になっている自分と、

すでに次の役割を淡々とこなしている彼との差を思い、

無意識に唇を引き結ぶ。


「シャマル様」


ライルは一拍置いてから、穏やかに続けた。


「焦る必要はありません」


「……でも」


「他者と自分は、違うものです。

ご自身の歩幅を、どうか見失いませぬように。

特に……アルテリスは、少し基準がずれています」


苦笑しながらも、声は穏やかだ。


「あいつは、どんなに辛い訓練も任務も学業も、

すべて当然のことのようにやってしまうんです」


「確かに……そうですわね」


ジャミーラも、つられるように小さく笑った。


「では、少々お待ちください」


そう言って、ライルはお茶の準備へと向かっていった。


生徒会室には、穏やかな時間が流れている。


その日常の中で、

ジャミーラは静かに——自分がここに居ていいのだと、確かめていた。

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