表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Jardin miniature 神々の箱庭で、少女たちは軌跡を紡ぐ  作者: kitty
第1章 聖エリュシア学園入学編
2/89

ジャルダン神話

聖暦1654年。


穏やかな陽射しに包まれた、豪奢なる建物

——聖エリュシア学園。


ルシファニア王国の東に位置するこの学園は、

“優れた知性”と“教養”、“高潔な人格”を校訓とし、

王侯貴族の子女、ならびに特別に入学を許された者のみが通うことの出来る、

全寮制の名門校である。


その一角——


数千人を収容する巨大な講堂では、

新たな生活の門出を祝う式典が、

厳かに執り行われていた。


「——新たなる門出を迎えた諸君。

神々の加護があらんことを」


丁寧ながら厳格な響きを帯びた声が、講堂全体に静かに広がる。


声の主は、学園長ルルド・ド・ノエル。


白金の長衣に赤い帯を掛けたその姿は、大司教を思わせる威厳を湛えていた。


両脇には黒衣の職員たち。

正面には、白黒の制服を纏った全校生徒達が

整然と並ぶ。


尖頭アーチの天井には壮麗なシャンデリア。

身廊の両側には細き側廊が伸び、

境界を彩るステンドグラスは、千変万化の光を落としている。


そして——


学園長の背後に鎮座する、巨大な女神像。


その存在こそが、この場に絶対的な神聖を与えていた。


“女神アウロラ”


ジャルダンに生きる者で、

彼女を知らぬものはいない。


⚜️⚜️⚜️


古より語り継がれる。


この世界には、三つの領域が在ると。


人と精霊が息づく地——ジャルダン。

神々の御座す高天——神界。

理を外れし存在が蠢く深淵——魔界。


それは単なる歴史ではない。


天地創生とともに刻まれた叙事詩。

忘れられようとも、消えることなき真実である。


⚜️⚜️⚜️


はるか昔——


世界がまだ名を持たず、

神界と混沌のみが広がっていた時代。


神界の王は七日を費やし、

ひとつの“箱庭”を創り上げた。


後に“ジャルダン”と呼ばれる世界である。


神王はそれを他の神々に託し、

自らは深き眠りへと入った。


神王の眠りのあいだ、

神々は生命に惜しみなく祝福を与え、

ジャルダンの民は祈りによって応えた。


神と民は、確かに結ばれていた。


世界は潤い、

生命は満ち、

文明は花開く。


だが——


繁栄は、やがて傲慢を孕む。


祈りは感謝から義務へ。

義務はやがて忘却へと変わった。


富を奪い、土地を争い、

ついには神々の恩恵すら奪い合う。


争いは絶えることなく広がった。


神々は沈黙し、やがて姿を消した。


民は各地に散り、国を興し、

戦は日常となった。


弓は魔道具へと姿を変え、

争いの度、

ジャルダンは静かに、しかし確実に疲弊していった。


そして——

約1600年前。


荒廃した大地に、

災厄そのものが降り立った。


魔神ネオ。


無数の下僕を従え、

彼は世界へ牙を剥いた。


国々は滅び、

空は荒れ、

大地は裂けた。


嵐、地震、噴火。

そして、日照り、飢餓、疫病。


数百万の命が、

祈りとともに消えていった。


ジャルダンの民は叫び、縋った。

だが、

祈りを捨てた民に、神の声は届かない。


絶望が、世界を覆い尽くした。


⚜️⚜️⚜️


その闇の中。


北方の国に、ひとりの女王がいた。


名を——ルテア。


彼女は己の命よりも、

民の未来を願い続けた。


ある朝。


祈りの最中、

光を纏う一羽の鳥が舞い降りる。


そして——天より“声”が響いた。


女神アウロラの声であった。


『顔を上げなさい、ジャルダンの子よ。

私はアウロラ。

そなたたちが神と呼ぶ存在。


もし、その力を、

正しきことのみに使うと誓うのなら、

世界を救う力を授けましょう』


ルテアは迷わなかった。


授けられし力をもって祈りの歌を紡ぎ、

魔を鎮め、

魔神ネオとその眷属を“魔界”へと封じた。


これこそが——

“ルテアの奇跡”。


後世に語り継がれる、

ジャルダン神話の一節である。


⚜️⚜️⚜️


奇跡の後。


北方の国は

“サンシャイン神聖国”と名を改める。


彼女は初代聖女王となり、

その血と祈りは代々の聖女王へと受け継がれた。


魔界とジャルダンを隔てる

光の天蓋——大結界。


それは蒼穹のさらに上より世界を包み、

幾世代にもわたり守り続けられる。


ときに光の綻びより影が零れることはあった。


だがその都度、祈りと刃により退けられた。


やがてジャルダンの民は

天を仰ぐことを忘れてゆく。


——天蓋は在る。


ゆえに、世界は揺るがぬ。


誰も疑わなかった。


平和は安寧を生み、

安寧は静かな驕りへと変わる。


種族を違えど、

刃は再び同胞へ向けられた。


歴史は音もなく巡り続ける。


神話は、遠き昔語りとなった。


——そして、三年前。


千年閉ざされていた光の天蓋が、

音なき悲鳴とともに裂けた。


蒼天に走る、ひとすじの黒き亀裂。


聖女王の祈りを貫き、

魔族が外より侵入した。


その瞬間——


ジャルダンの民は思い知る。


神話は、物語ではなかった。


それは今もなお、

この空の上に在り続けていたのだと。


結界は次代の聖女王によって

ふたたび織り上げられた。


だが、裂け目より零れ落ちた影は

闇に紛れ、各地へと散った。


その気配は今もなお、

大地のどこかで息づいている。


静かに。

確実に。


ジャルダンを蝕みながら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ