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Jardin miniature 神々の箱庭で、少女たちは軌跡を紡ぐ  作者: kitty
第1章 聖エリュシア学園入学編
15/90

萌芽

真夜中。

言いようのない胸騒ぎに、アルテリスははっと目を開いた。


静まり返った部屋。

冷えた空気の中で耳を澄ませば、外気の揺らぎが、微かに乱れているのがわかる。


呼吸を整え、気配へと意識を沈めたその瞬間——

すぐ傍らで、人の気配がわずかに動いた。


「起きているか」


「はい」


低く、闇に溶ける声。

窓から差す月光に、漆黒の髪が淡く縁取られる。

——ムスタファだ。


アルテリスは上体を起こし、音を立てぬよう寝台の縁へ腰掛けた。


「気づいたか」


「はい」


ムスタファの問いに、アルテリスは静かに頷く。


「……学園内に、本来存在してはならない気配が迷い込んでおります」


ムスタファは赤い瞳をわずかに細め、短く息を吐いた。


「まさか、“あれ”を破壊する者が現れるとはな」


わずかに震えた声音。

それが、事態の重大さを物語っていた。


「様子を見に参りますか」


「いや。異変に気づいた団員が、既に動いているはずだ。一先ずは任せよう」


静かな応答。

しかし深紅の瞳の奥には、刃のような警戒が宿っている。


「はい」


短い沈黙が落ちる。


外では風がざわめき、深い闇の向こうで、何かが地を這うように蠢く気配があった。


「これから、一波乱あるな」


ムスタファの呟きに、アルテリスは小さく頷いた。


やがて、薄明かりがゆっくりと夜を侵し、

静寂の中には、緊張だけが取り残された。


——そして翌朝。

聖騎士団から、緊急招集がかけられた。


⚜️⚜️⚜️


朝靄の残る、聖騎士団支部。


団長や要人らが密かに集められ、石造りの会議室には重く澱んだ冷気が漂っていた。


アルテリスはムスタファの背後に控え、無言で様子を見守る。


壇上には支部長。

鋭利な眼差しが、室内の一人ひとりを射抜く。


「気づいている者もいるだろう。

昨夜、結界石のひとつが破壊された」


抑えた声が空気を震わせ、微かなざわめきが広がる。


「警備にあたっていた団員二名は意識不明の重体。

襲撃犯は痕跡を残さず姿を消した。

詳細は不明——現在、調査中だ」


「“例の”襲撃犯と同一の可能性は?」


誰かの問いに、支部長は重々しく頷いた。


「その可能性は高い。

既に各支部へ、警戒を通達している」


再び、冷え切った沈黙が落ちる。


「結界石の再祈祷は、オリヴィエ副団長に一任する。

支部内の神聖術師は全員、彼女の指示に従え。

各団長は調査班と討伐班を編成し、速やかに動け」


「承知いたしました」


「完全修復には、どれほどの時間を?」


別の団員が問うと、支部長の側に立つ銀髪の女性が一歩前へ出た。

氷のように澄んだ銀髪が肩を流れ、冷静な碧の瞳が室内を見渡す。


「……ひと月ほどを要します」


室内がざわつく。


ひと月。

それは即ち——

学園の防御が、不完全な状態で晒され続けるということ。


支部長は、静かに言葉を継いだ。


「修復までの間、魔族が学園へ侵入する恐れがある。

よって——」


ムスタファへ視線を向ける。


「ムスタファ殿下。

貴殿と学内の聖騎士団員には、学内調査を一任したい」


「承知いたしました」


即答。

その声音は鋼のように揺るがず、深紅の瞳には迷い一つなかった。


支部長は最後に一言だけ告げる。


「この件が公になれば、学内は混乱する。

当面、この一件は内々に処理する」


そうして会議は静かに解散し、

団員たちは朝靄の薄光の中へと歩み出ていった。

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