24 婚約者 ④
国王夫妻が話してくれたのは、本当に物語のような話だった。
最初、何がきっかけかは解らないが、カオル姫と曾祖母、雛子がこの世界に現れたとき、その突然の侵入者に何者なのかかなり怪しまれたものだった。
しかし、人を魅了する笑顔を持ったカオル姫と、理性的な雛子は徐々に周りに受け入れられ、時間が許される限り何度もこの世界に来ては楽しく過ごしていたらしい。
その受け入れられる最大の原因は、出会った時から誰もが恋に落ちた、と解る当時皇太子だった王子とカオル姫の熱愛ぶりに大きくあったようだ。
カオル姫は自分の生まれ育った国より、この世界で暮らすことを望んだ。
そして姉である雛子はそれを許し、ひとりで帰ることになる。
居なくなったカオル姫を、妹を、神隠しにあったと周囲を誤魔化すためだ。
しかしその雛子にも、想い合う相手がいた。
それがヴァレリーの曽祖父である、ハーヴェストだ。
ハーヴェストは王子の側近であり、突然現れた姉妹と王子と同じだけの時間を過ごした。
しかしハーヴェストには決められた婚約者がいたし、雛子も雛子で家の跡取りとして決められた相手がいた。
想い合っていながら、別々の人生を歩む何かがあったのだろうが、それが何かは誰も知らない。
ただ、ハーヴェストの婚約者だった人は、結婚したあと産まれた子供たちに、いつか、向こうの世界から雛子の子供が来る。子供たちか、はたまたその子供たちの誰かが、その人を迎え入れて結ばれる――そうすれば、ハーヴェストと雛子の想いはようやく結ばれるの、と教え育ててきたという。
ハーヴェスト本人でなくて、その結婚相手なの? それってどういう関係だったのおばあちゃま――秋乃は一昔前にどんなロマンスがあったんだ、とファンタジー好きには堪らない設定に脳内でメロメロになってしまった。
しかしそれで、幾度も話してくれた曾祖母の寝物語の、あの表情に納得がいく。
王子様のお友達の話をするとき、幸せそうで、そして切なそうな顔をしていた曾祖母は、確かにこの場所で恋をしていたのだ。
今まで読んできた小説も吹っ飛ぶようなトキメキに、秋乃は打ち震える。
クリフォードは自分の祖母であるカオル姫からその話を聞いていたというし、昔から仲の良かったリリアもその話を聞いて胸をときめかせていたらしい。
いつか、雛子の子供の誰かが、あの箪笥をもう一度押して来てくれる――そう望んでいたのはカオル姫自身でもあるし、それを聞かされていたリリアたちも然り、だ。
クリフォードやリリアの話を聞いたところから、カオル姫は結構長く生きたのだと解る。
秋乃の曾祖母である雛子にしても、秋乃が10歳になるまで生きていたのだ。
長命の家系なのかな――秋乃はそんなことを気にしながら、クリフォードの髪が黒い理由を改めて思い知る。
カオル姫の血を引いているのだ。
この国では珍しい真っ黒な髪は、人々に親しまれ愛されたカオル姫の血を受け継ぐ証しとして誇らしいものでもあるらしい。
だからリリアは、秋乃に会えて嬉しい、と目を輝かせるのだ。
そしてその表情のまま、一緒に夢の中に浸っていた秋乃を現実へと引き戻す。
「ハーヴェスト様と、ヒナコ様の想いがようやく成就するの・・・! こんな素敵なことって、他にないと思うわ」
「・・・はえ?」
美人が目をキラキラさせると、破壊力が増すなぁ――秋乃は思考を一瞬飛ばされかけたが、今までの説明と現状を照らし合わせて、ようやく合点がいった。
ヴァレリーが、不機嫌な顔を崩さない理由に、だ。
ええと、ハーヴェスト様とおばあちゃまの恋は、子孫によって成就するっていうことで、その子孫って――秋乃は大きく目を見開いてヴァレリーを見た。
強い視線が、まっすぐに秋乃を見下ろしている。
「・・・はああぁぁぁ?!」
つまり、婚約者は秋乃なのだった。
この、不機嫌極まりない男の。




