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後編 婚約の行く末

 ソルトはジェイドの話を簡単に受けられなかった。


「私を誰だと思ってるんだい?」


 この言葉がホールを静寂で満たす。


「ソルト様ってなんかすごい方なのかしら?」

「もしかして隣国の女王とか」

「隣国に女王なんていないわよ。もしかしたらこの国の女性騎士――」

「いや普通に既婚者かもよ?」


 人々の勝手な想像の話はソルトの肩を落とさせる。


(なんで人は想像が好きなんだか?このせいで何人も苦しんできたというのに)


 仕方がないのでソルトは真実を話すことにした。このまま良からぬ噂を立てられても商売に傷がつくし、それに大して隠すようなことでもない。


「あんた、随分と頭がお花畑だね」

「はい…?」


 ジェイドはまだわかってないようだ。


「あのね、私はただの旅商人で、この国の国民ですらないんだよ?それに比べてあんたは公爵だ。無能の」


 ソルトはまだまだジェイドに追い詰める。既に彼は泣き顔なのに。


「どっかのおとぎ話じゃ、庶民に王子が恋をして国の姫になるなんて話があるけど、いい?これは現実!私はリアリストだからね。そんな存在しないレッドカーペットにすがりたくないんだ。あと、あんた”無能”だろ?爵位も持ってないそうじゃないか」


 そう、ジェイドはまだ公爵候補でまだ公爵じゃない。それに候補の順位は下から数えた方が早いくらいだ。何しろローズ家には20人も息子がいる。おまけにジェイドは最初の養子で血縁関係もなかった。


 話を聞いた周囲の人々はひそひそ話を続ける。


「え?公爵じゃないの?」

「そりゃ、下に19人もいればそっちにいくでしょ。才能もないし」

「娘を合わせるとジェイド様入れて30人か。大家族」


 赤面したジェイドはソルトに飛び掛かった。


「全部、お前のせいだ…!」


 しかし、ソルトは背負い投げしてジェイドを軽々と床に叩きつけてしまった。


「私は旅先で武道を極めた。そして極めて無敵になった今生活のため商人をやってるんだよ」


 ソルトは最後に床で仰向けになったジェイドの額に紙を置いた。


「それよりあんた。今回のパーティーで仕立てた服のお代を代わりに払うと言ったそうじゃないか。自分の約束くらい守りな」


 そのままソルトは何食わぬ顔で出口のドアから姿を消した。


 ――こうして婚約は結ばれなかった。


 *****

 翌日、ローズ家の子供が29人になっていた。どうやらローズ家の元公爵が今回の件でジェイドとの縁を切ったらしい。そして爵位はジェイドの妹でローズ家の長女のクレアに渡った。国内初の女性の公爵で婚約はそのまま続行。仲はとても良好で1ヶ月で無事に結婚。現在6人も子供がいるそうだ。


「相変わらず、ローズ家は子沢山だね」


 風が吹き抜ける緑の生い茂る丘から遠くに見えるローズ王国を見つめるのはソルトだ。彼女のトランクには金貨でいっぱいになった大きな麻袋が5つ。この重さがソルトには笑顔を誘った。


「お代はもらえたし。次行くかね」


 お代はジェイドの私物を全て売ったものだが、それでは足りずジェイドが借金して全額支払った。今まで彼と仲良くしていた男も花を送り続けた女も両親もたくさんの弟も、自分のことが大好きだった妹クレアでさえも誰も彼に手を差し伸べなかった。


 その後ジェイドの消息は不明だが、日の当たる場所には二度と出られないだろう。


 一方で、今回ジェイドという有害物質を取り除いたことで服代と別にたんまり報酬をもらったソルトだが、彼女はまだ旅を続けている。


 ――それからローズ王国に彼女が現れることはなかった。

※この物語はフィクションです。

最後までご愛読いただきありがとうございます。良ければ評価とリアクションをしてください。今後の執筆の励みになります。この機会に他の作品も読んでみてください。

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