Episode 25
『幸せになって……。シャーロット……。そして──……って。』
──アリア様……なんて……?教えて……大切なこと、そうでしょう?
『お願い、シャーロット。───を……すくっ…て……。』
「………っ!?」
まだ薄暗い部屋の中。
シャーロットは弾かれたように体を起こした。
「どうして、今頃……あんな夢………。」
ひどく汗をかき前髪が額に貼り付いている。彼女は首元を探り、昨日から着けているペンダントの石をグッと握り締めた。
◇◇◇
「殿下、シャーロット様がお見えでございます。」
「通してくれ。」
翡翠宮で過ごして一週間──。
翌日にマルセル公爵領へ出発することが決まり、シャーロットは挨拶のためにセシルの元を訪れた。
「セシル殿下。お時間をいただき、ありがとうございます。」
「そんな堅苦しくならないで。さあ、どうぞ。」
一階にあるティールーム。いつもカティアローザと向き合っていたテーブルにつくと、侍従長がお茶をサーブして下がっていく。
セシルもシャーロットも未婚のため、ドアは開かれたまま。入り口近くにはソフィーが控えていた。
「やっぱり彼が淹れてくれるお茶が一番美味しくてね。シャーロットもぜひ味わってみて。」
「はい。」
カップを持っただけで、広がる香りの心地よさに違いがわかる。
ゆっくりと一口味わうと、「美味しい」という呟きが自然と溢れていた。
「ふふ、彼も喜ぶよ。」
ニッコリとしたセシルに、シャーロットはちょっぴり赤くなりながら口を開いた。
「翡翠宮では本当に良くしていただきました。ありがとうございました、殿下。」
「ううん。シャーロットも大変だったね。本当は男爵領への帰省を手配してあげたかったけど、君も知っての通りこんな現状だ。安全面を考えると、ちょっとね……。」
「はい。わかっています。」
「その代わり、公爵領の美しい夏を堪能しておいで。ぴったりのお供も、手配してあるからね。」
──……ぴったりの、お供……?
セシルの思わせぶりな台詞に、彼女の微笑みが僅かに引きつる。
そんなシャーロットを楽しそうに見つめてから、セシルは小さくベルを鳴らし侍従長を呼んだ。
トレイを持ちティールームへ入ってきた彼は、真っ直ぐにシャーロットの元へと近付くとトレイを差し出す。
「私に?」
「はい。ナイゼル卿より、お嬢様への贈り物でございます。」
「…えっ……、先生……から……?」
困惑するシャーロットはセシルに優しく頷かれ、そっとトレイの上の手紙と赤いリボンがかかった小箱に手を伸ばした。
「ありがとう。」
侍従長がその言葉に優雅な礼をして再び部屋を後にすると、セシルはそっとテーブルから離れ窓辺に佇む。
シャーロットとロウエル、二人だけの時間になるようにと……。
そんな彼の心遣いにギュッと胸元で手を握り締めてから、シャーロットは手紙を開いた。
ロウエルがセルウェイ子爵令息と揉めたことは、セシルから聞かされていたシャーロットだったが、そこには魔術研究室の体面もあり、ロウエルにも十日間の謹慎処分が下ったこと。そのために直接会いに行けないことが書かれていた。
そして──。
「先生が、闇の魔力を……持ってるの……?」
シャーロットの掠れた囁き……。
手紙に綴られていたのは、自身が闇の遣い手であること。それがわかり、国が脅威を管理するためにロウエルを学園に入れ、そこで囲い続けているという事実だった。
『闇の遣い手は、凄まじい魔力を常に生み出し続けてしまう。だから制御不能になった過去の遣い手達が暴走と破壊を繰り返してしまい、脅威として扱われるようになってしまったんだ。
そして僕も、まだ未熟だった十年前。怒りで我を忘れ魔力を暴走させて怪我人を出してしまった。
聖女として国の役に立ちたいと言った君を見て、僕は怖くなったんだ。……僕なんかが側にいちゃいけないんじゃないか……闇が光を消すようなことがあってはならないと……。』
読み進めるほどに、シャーロットは胸が締め付けられ、やるせなく唇を噛む。
『シャーロット。光の魔力にも同じ危険が潜んでいる。君が本当の意味で光の遣い手として覚醒すれば、間違いなく膨大な魔力を抱えることになるだろう。
君には僕のように、縛られ逃げられない人生を送って欲しくないんだ。
この手紙と一緒に贈ったペンダントには僕の作った魔石を使ってある。魔力が溢れ過ぎた時にそれを吸い取り調整してくれるものだ。
どうか、君の大切な人達を傷付けないために、君が大切な人達の側にい続けられるように、このペンダントを常に身に着けていて欲しい。
シャーロットが、幸せでありますように……。
願いを込めて。
ロウエル・ナイゼル』
シャーロットが手紙をギュッと抱き締める。リボンを解き箱を開けると、そこにはホワイトオパールのように様々に光を輝かせる雫型の魔石を、シルバーの台座に留めた美しいペンダントが、丁寧に入れられていた。
「殿下。」
「ん?なんだい、シャーロット。」
「あの、このペンダントを……私につけていただけませんか?」
「僕でいいの?」
「はい。殿下に、お願いしたいです……。」
──本当なら、先生につけて欲しかったけど……。
ロウエルとセシルの絆が特別なものだと言うことは、シャーロットにもよくわかっていた。だからこそ、そんなセシルにこの特別な石をつけて欲しい……そう思えたのだ。
彼女の後ろにまわり、静かにペンダントを留めたセシルが、ふわりとシャーロットの頭に手を置いて僅かにそこを撫でる。
「その石を一刻も早く完成させるんだって、シャーロットのお弁当も食べずに部屋に籠もってたんだよ。エル。」
セシルはまた彼女の前に腰を掛け、少しイタズラな顔でシャーロットを見つめた。
「今度エルに会ったら、うんと叱ってやって。今まで通り、遠慮なく、ね?」
「っ!?で、殿下は、どこまでご存知なんですかっ?」
「さあ?……そのペンダント、よく似合うよ、シャーロット。」
「………っ!」
──セシル殿下は、間違いなくユリウス殿下のご家族だ……。
意地悪に誤魔化す表情がそっくりだと、シャーロットは微かに口を尖らせてみるのだった……。




