Episode 24
「失礼致します。王太子殿下。」
ユリウス達がひと通り報告をし合い、やっと一息ついた頃、翡翠宮の侍従長が部屋へとやって来た。
「どうした?」
「先程セシル殿下がお戻りになり、執務室にてお待ちにございます。」
それを聞き、四人はスッと立ち上がる。
セルウェイ子爵令息の身柄はセシルに預けてある。その後のことを聞かなくてはならない。
そして何より──。
──叔父上は、ナイゼルのことについて……口を開くだろうか?
「殿下、皆様をお連れ致しました。」
「通せ。」
執務室に案内され中に入ると、そこにはいつになく厳しい表情のセシルがいた。
「ユリウス、ルイ王子も掛けなさい。」
二人は促されるまま、ローテーブルを挟んでセシルの向かいのソファーへと腰を下ろす。アーネストとオスカーがその後ろに控えて立った。
「ルイ王子。改めてではあるが、この度は我がレイニードの問題に尽力いただき感謝している。」
「お言葉、痛み入ります。殿下。」
普段穏やかなセシルの威厳ある態度に、ユリウス達は緊張気味に様子を伺う。
「ユリウス、セルウェイ子爵令息は魔術研究室所属の者として室長である僕が処罰する。それでいいね?」
「わかりました。」
「もし背後が気になるなら、そちらはまた改めて調べればいいだろう。」
「はい、叔父上。」
そこまで話すと、セシルは大きく嘆息して四人をそれぞれにじっと見つめた。
「君達が、今僕に聞きたいことがあるのはわかっている。トルストの隠密は実に優秀なようだからね……。」
「叔父上、それは……っ。」
ユリウスの言葉を、セシルは右手の人差し指を軽く前に出して止める。
「だが、その話の前に、私は王太子に問わなければならないことがある。アーネスト、そしてオスカーも側近として共に聞きなさい。……ルイ王子。申し訳ないが、隣室でしばらくお待ち頂けるかい?」
「……承知しました。失礼致します、殿下。」
ルイが静かに退出すると、セシルは真っ直ぐにユリウスを見据えた。
「ロウエルから、お前がブライア嬢に強いてきたことを聞かされた。」
「…………。」
「ユリウス。お前は賢い。先も見通せる。次代の王になるべきは間違いなくお前だ。だが、私は王族の先達として根本を問わなくてはいけない。」
「………はい。」
「ユリウス、お前は今、国王代理として何を守らなくてはいけない?」
「我がレイニード王国。この国です。」
迷いなくハッキリと答えるユリウスに、セシルの次の言葉は刃の如く突き刺さる。
「では聞く。『国』とは、何だ?」
「──っ!」
「それがわかっていれば、我が国の大切な聖女に対し、あのような愚かな手段は取らなかったはずだ。」
「叔父上、私は……。」
「お前は実に安直な道を選んだ。………でも、その瞳を見ると、もう自分で気付けていたかい?」
セシルはユリウスの中に後悔の色を見つけ、安心したように口調を和らげた。
「王太子よ、お前にとっての守るべき『国』とは?」
ユリウスの手に、シャーロットの細い肩を抱き寄せた感覚が蘇る。
──僕がずっと失くしていたもの……。彼女がまた、動かすことを教えてくれた……。
「『国』とは『人』です。心ある人々です。」
彼の言葉にアーネストとオスカーが息を呑み、彼らの答えを示すようにスッと臣下の礼を執った。
「ユリウス、お前はもう、大丈夫だね。」
「はい。」
ユリウスは自分に諫言をくれた叔父に尊敬の眼差しを向け、やっとセシルがいつも通りの笑みを見せる。
「アーネスト、オスカー。今ここまで動ける君達なら、君主の側近がどうあるべきなのか正しくわかるはずだ。……僕が君達の頃なんて、何も考えてなかったからね。」
「殿下……。」
「でも今は、この閑職に就いている王弟も、少しは役に立つだろう?」
「役に立つなどと……!滅相もないことでございます、殿下!」
生真面目なアーネストの必死な声に、セシルはニッコリと笑い先を続けた。
「それでね、まぁ、ユリウスとアーネストはもう18歳で成人しているとはいえ、皆んなまだ学生だ。少し大人過ぎる君達に、しばらくちゃんと子供になってもらおうと思ってね。」
「叔父上?それは、一体どういう……?」
「三人は夏季休暇の間、政務には一切関わらないこと。国を支える大人は沢山いるんだ。トルストにも一旦動きを止めてもらうからね。」
あまりに突然の指示に、三人は固まってしまう。
「因みに僕はただの伝言役だよ。これは王妃殿下と宰相キュリー卿、オールベイン騎士団長から君達への罰だからね。マルセル公爵領で、しっかりとレディ達をエスコートしておいで。あ、マルセル公爵からルイ王子も正式にご招待するように言われていたな。」
──母上っ!……やられた………。
セシルの無邪気なウィンクに、ユリウスはどっと力が抜け、ソファーの背もたれに沈み込んだ。
「わかりました、叔父上。お言葉通りにします。でもそれは夏季休暇の間ですよね?」
転んでもただでは起きない。そうでなくては王宮でなど生き残っていけないのだから……。
「我が甥ながら、敵には回したくないね。……仕方ない。10年前の話をしようか……。」
セシルは立ち上がって執務机の上に置いてあったベルを鳴らす。
「お呼びでございますか?殿下。」
「ルイ王子にお戻りいただくように伝えてくれ。それから、子供達にお茶と軽食の用意を。今夜は泊まらせるからゲストルームの支度も頼んだよ。」
「かしこまりました。」
侍従長に指示を出したセシルは、窓の外の夜に目を遣り親友の姿を思い浮かべてから、そっと呟いた……。
「長い夜に、なりそうだよ……エル……。」




