Episode 21
少しずつ明るくなっていく窓の外。ほのかな光が朝靄を見せ始め、少しずつ眩しさが空気を澄ませていく……。
シャーロットはそんな夜明けの移ろいを豪華な天蓋付きのベッドの中でずっと眺めていた。……正確には、ひと晩中眠れなかったのだ。
──あんな……あんな風にずっと殿下とくっついてて……。
「あぁぁぁ……どうしよう……?私これから、どんな顔で殿下にお会いしたらいいの………!?」
シャーロットは昨夜の出来事を思い出しては、枕に顔を埋めて身悶える。……あまりの恥ずかしさに頭は冴え、ずっとこれを繰り返し朝を迎えてしまっていた。
──閉じ込められるなんて、あんな状況だったからだ……。きっと、雰囲気に飲まれたんだ……。
彼女は何度も何度もそう考えて、自分に思い込ませようとする。
──じゃなきゃ、殿下が私なんか抱き締めて、あんな……あんな……!
今でもハッキリと瞼の裏に思い描ける、とろけるような甘い表情。頬にそっと触れた大きな手。そして、彼の香りと共に蘇る胸の鼓動……。
「どうしよう……私……私………。」
彼が助けに来てくれたのが、どうしようもなく嬉しかった。
シャーロットは、それだけはハッキリとわかるものの、もし別の人が現れていたら何か違ったのだろうかと考えると、それはわからないでいる。
──もし、来てくれたのがオスカー様でも、私は嬉しかったと、思う……。
その「嬉しい」が昨日感じたものと同じ気持ちなのか……?
シャーロットは答えのわからない疑問をループしては、恥ずかしさと胸がキュっと苦しくなる喜びが最後に残り、顔が上気するのを止められなかった。
彼女はいたたまれずに、悶々としたまま上掛けを持ち上げベッドに潜り込む。
そんな時、軽やかなノックと共に部屋の外から女性の声がした。
「お嬢様、お目覚めでございますか?」
「は、はいっ。」
返事を聞いて中に入ってきたのは、以前マルセル公爵邸に滞在した時に世話をしてくれたレディースメイドだった。
「おはようございます、シャーロットお嬢様。よくお休みになられましたか?」
天蓋から流れるたっぷりとしたオフホワイトのシフォンカーテンをタッセルで纏めながら、彼女はふわりと微笑む。
二十代半ばくらいだろうか?亜麻色の綺麗な髪をクラシカルなシニヨンにしてきちんと纏めた、柔らかな雰囲気の女性だ。
「カティアローザ様の命で、本日よりお嬢様のお世話をさせていただくことになりました、ソフィーと申します。どうぞ何なりとお申し付け下さいませ。」
丁寧なお辞儀をしながらそう言うソフィーに、シャーロットは体を起こし緊張気味に口を開く。
「ありがとう。よろしくね、ソフィー。」
「はい、お嬢様。」
人に傅かれることにはまだまだ抵抗があるシャーロットだが、貴族としてきちんと「主人」になることも大切なことだとカティアローザに教えられ、慣れないながらもそうあろうと努力していた。
「まぁ、お嬢様。お休みになれなかったのですか?目元に隈が。それにお顔が赤いですわ?どこかお加減でも?」
「だ、大丈夫よ……。あまり眠れなかっただけ……。ねぇ、ソフィー?」
「はい、何でしょうか?」
「このお屋敷はどこ……なのかな?公爵邸ではないでしょう?」
シャーロットのこの問いかけに、ソフィーは「まったく」とでも言いたそうな表情になったが、すぐに穏やかな空気をまとって優しくシャーロットの肩にショールを掛けてくれた。
「お嬢様を不安にさせるなど、殿方達はまだまだ気遣いが足りないご様子ですね。……こちらは翡翠宮、王弟セシル殿下がお住まいの離宮でございます。」
「………え?」
昨夜はユリウスに抱きかかえられたままで、よく周りも見えずこの部屋に連れて来られてしまったシャーロット。
口を挟む暇もなく、軽く食事をとったあとはメイド達に寝支度を整えられベッドに入れられてしまった。
「立派なお屋敷だとは思っていたけど……まさかセシル殿下の離宮だったなんて……。」
あまりのことに固まってしまったシャーロットを、ソフィーは慣れた様子で落ち着かせながら朝の支度をはじめる。
学園の制服ではなく、普段着用のシンプルなドレスに着替えさせられ不思議そうなシャーロットを見て、ソフィーは彼女の美しい髪を梳かしながら声をかけた。
「本日お嬢様には学園をお休みいただくようにと、王太子殿下より仰せつかっておりますので。」
「そうなの……?」
「カティアローザ様も欠席されたそうですので、まもなく翡翠宮にいらっしゃるかと。」
「カティ様まで?」
マルセル公爵家の使用人であるソフィーが翡翠宮にいると言うことは、シャーロットの知らないうちにカティアローザにまで全てが報告されているのだろう。
──何だか、大事になっちゃった……。大丈夫かな?
不安そうに息を吐く彼女に、ソフィーは明るく話しかける。
「お嬢様、本日はどんな髪型になさいますか?」
「え?そうだな、どうしよう……?」
「いつも髪をおろしていらっしゃいますし、たまにはふんわりと結い上げてはいかがですか?このドレスにも合うかと。」
「本当?じゃあ、お願い。」
「かしこまりました。」
自分は髪型やドレスといったお洒落にあまり興味はないと思っていたシャーロットだったが、ソフィーの手で魔法のように変えられていく鏡の中の自分を見ていると、ふわふわとした高揚感に包まれ自然と笑顔になっていった。
「よくお似合いですよ、お嬢様。」
「素敵!ありがとう、ソフィー。」
シャーロットが幸せそうにそう口にした時だった。
ノックと共に寝室の外に控えていたメイドが声をかけてきた。
「失礼致します、お嬢様。カティアローザ様がお見えでございます。お通ししてもよろしいでしょうか?」
「まぁ、随分とお早いお越しですね。」
ソフィーの言葉に頷くと、シャーロットはドレッサーの前から立ち上がる。
「すぐにお通しして……。」
「っ、シャーリー!!」
「カティ様!?」
シャーロットが返事をし終わる前に、カティアローザはメイドを押しのける勢いで部屋に入ってきたのだった。




