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HOUSE  作者: 哲太
9/12

第二章 見る人と見られる人 PART2


「…何をなさっているのですか?」


太郎の不自然な行動を見て、

遊佐は首をかしげた。


太郎は

先程までの慌てた様子とは打って変わって

ゆっくりとした動きで姿勢を正し、

2・3度咳払いをしてから遊佐の方に

顔を向けた。


「なに、捜査資料をまとめていただけさ。

 それよりも、

 ちゃんと飯は買って来てくれたのか?」


「…はぁ、買って来ましたけど」


(キーボードを片手でしか打てない警部補が

 捜査資料を…?)


遊佐は内心に抱く疑問を解消することが出来ないまま、

自分の元に歩み寄ってきた太郎に

レジ袋の中身を見せた。


因みに「太郎」と言うのは

この先輩刑事の苗字である。


本名を太郎泰邦(たろう-やすくに)と言い、

正直どっちが苗字でどっちが名前か分からない

ある意味奇妙な名前をしているのである。


太郎は「お前はドラマの見過ぎだ」っと

言いながら遊佐の持つ袋からパンを一つ取り出し、

窓際の席へと戻って行った。


そこは

この部屋で一番犯人の住居を覗き易い場所であり、

太郎の指定席でもあった。


パンをかじりながら

自前の双眼鏡で犯人の部屋を覗き込む太郎の背中を

遊佐は見て、

「ドラマの見過ぎはどっちだよ」

と悪態を吐きたい衝動に駆られていた。


今時、

盗聴器や発信機も使わず

双眼鏡一つで張り込みを行うハメになるとは、

交番勤務を卒業したあの日には

思いもしなかったことだった。


遊佐は太郎とコンビを組むことになってからの

この2年間、

彼から様々なことを学んできた。


取り調べの仕方や犯人追走時の心得、

そして意外に多い書類仕事など、

理想と現実のギャップこそあれ

太郎が遊佐の師であることは

間違いない。


しかし…。


この情報社会において、

肉体的な捜査ばかりに重点を置く

太郎の捜査に、

遊佐は疑問を感じずにはいられなかった。


もっと効率的かつ効果的な方法を

太郎に進言したい遊佐ではあったのだが、

自分の言うことを

彼が素直に聞くはずもないであろうこともまた、

遊佐には分かっていたのである。


「太郎さん、

 後は俺が見張るんで、

 先に休んでいて下さい」


「いや、先にお前が休め。

 疲れたらお前を起こしに行く」


「え、

 でもずっと太郎さんが見張りっぱなしじゃないですか?

 代わりますよ」


「バカヤロウ!

 年寄り扱いすんじゃねぇ!

 休めるときに休んでおけって教えただろうが!」


「……はぁ」


そんな理不尽なキレ方をするから

こっちも年寄り扱いするのだ、

なんてことは口が裂けても言えるはずもなく、

遊佐は小さくため息を吐きながら

おとなしく頷いた。


「じゃあ、先に休ませてもらいます。

 お疲れ様です」


「……おぅ」


遊佐は太郎に向かって一度頭を下げた後、

隣の寝室へと足を向けた。



※※※



閉ざされた寝室のドアに

耳を押し付けていた太郎は、

遊佐の寝息が聞こえてきたのを確認していた。


その小さな寝息と時折聞こえてくる寝言から

遊佐が眠りについたことを確信し、

太郎はテーブルへと戻って

ノートパソコンの電源のスイッチを入れた。


上司の指示で渋々持ってきたこのパソコンが、

まさか自分にとって無くてはならない存在になるとは

太郎自身予想だにしていなかったことである。


遊佐と組んで密売人を監視するとは言っても、

時折こうやって一人になる時間があった。


初めは暇つぶしのつもりで始めたインターネットで

太郎は思いがけぬ出会いを見つけることになった。


世間では「チャット」とも呼ばれる

掲示板でのやり取りに、

太郎は夢中になっている。


一人娘の弥生やよいが好きな俳優犬、

ポンタと言う犬を何気なく検索してみたところに

何だが興味深い記事を載せている掲示板がそこにはあったのだ。


太郎は

キーボードを打つ練習がてら

自分でも書き込みを行いそこの管理人との会話を試みたところ、

すっかりその人物と意気投合してしまったという訳である。


さっきは遊佐の帰りに驚き

急に掲示板から退席してしまったために、

「彼」は怒っているだろうか…。


太郎は、

心なしか緊張した面持ちで

「みひろ」が待つ掲示板のページを開いたのだった。




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