第二章 見る人と見られる人 終
「…なんてこともあったりしたわけでして、
いやぁ、ほんとに最近の若者は
何を考えているかさっぱりなのですよ」
「はぁ…」
さっきから適当な相槌しか返さない古賀のことなど
全くに気にならない様子で、
目の前の男は「他にもね…」と
尚も言葉を続けるつもりのようであった。
古賀が
この「TARO」と名乗る男と合流してから
既に三十分近くが経過しただろうか。
件の掲示板で話していた時は
どちらかと言うと寡黙な印象を受けていた彼が
饒舌だったことはもちろん驚きだったのだが、
それ以上に
他人との会話が
これほどまでに自分を退屈な気分にさせていることに
古賀は心底失望していた。
普段は友人と呼べる人物など全くおらず、
そんな自分に久しぶりに出来た気の許せる仲間の存在、
目の前の「TARO」は
そんな希少な存在になるはずだったのだ。
(…まぁ、現実なんてこんなものか)
古賀は
だらんと垂れ下がった目線を「TARO」からは離さず、
手元に置かれたアイスコーヒーに刺さったストローを
口に運んだ。
想像以上によく動く「TARO」の口元を
ぼんやり眺めながら、
古賀はふともう一人のチャット仲間の存在を思い出した。
もう一人の仲間にあたる「みひろ」という男
(文章から古賀が勝手に男と想像しているが、
その実ははっきりしていない)は、
まだ来ていない。
当然
目の前の男もそのことは気になっているはずなのだが、
これまで
一向にその話題には触れていなかった。
古賀は
これ以上、
他人に変な期待を寄せることには抵抗を感じていたものの、
たまには自分からも話題を提供した方がいいだろうと考え、
おもむろに口を開こうとしたその時、
けたたましいサイレンの音が
この二人がいる喫茶店の窓を通り越して
鳴り響いたのだった。
※※※
………
……とまぁ、こんな具合に、
やっぱり彼等が相容れることはできなかったようです。
二人が実際に言葉を交わした
そのわずかな時間を、
私も自分の目で見たかったのですが、
ご覧の通り
自由に動くことは出来ない建物と言う身分なもので
この話も人づてに、
もとい家づてに聞いた話でしかないことが、
もしかしたら私にとって一番名残惜しいことかもしれません。
立場が全く違う二人でありながら、
対人関係はそっくりだった彼等。
直ぐに仲良くなることは出来なかったものの、
彼等はきっといい関係を築くことが出来ると思います。
だって
これからは二人は
長い時間を共に過ごすことになるのだから。
たとえ、
二人の間に幾つもの鉄棒が並んでいたとしても、ね。