第二章 見る人と見られる人 PART4
何であいつがこんな所に…。
現在捜査中の事件、
その容疑者である古賀の顔を確認した太郎は
咄嗟に電柱の陰へと隠れた。
今日彼は、
チャットで知り合った二人の人物とのオフ会に参加するため、
とある喫茶店に来ていた。
チャット仲間の一人である「みひろ」から指定された
その喫茶店は、
都内を走る山手線、
その駅の一つである目白から程無く歩くと
到着できる場所にあった。
太郎は二人と初めて会うということで
緊張していたためか、
約束の時間よりも
少し早く到着してしまっていた。
お互い顔も知らない三人がすれ違わないようにと、
「みひろ」からはこの店の指定のみならず、
座るテーブルも指定されていたのだが……。
喫茶店に入って一番奥に位置する
窓際のテーブル。
そこに例の古賀が座っていたのだ。
これを偶然と考えられるほど、
太郎は思考は単純ではなかった。
おそらく
「みひろ」か「HIRO」の何れかが
古賀という事なのだろう。
太郎はそう確信していた。
また、
古賀の名前が博文という事を考えると
自ずと奴がどちらかなのかも想像がついた。
太郎は
自分が犯罪者との会話を楽しんでいたことに対する
羞恥心を抱えつつ、
これから成すべき行動を考えていた。
自分の顔は奴には割れていないはずである。
それならば、
これは奴の行動を把握するための
いい機会なのではないか…。
だが、
同時に一つの恐れもあった。
もしこれが
古賀と「みひろ」と名乗る人物の罠だったとしたら…。
二人とも太郎の知らないところでつながっており、
実は自分の顔も素性も割れていたとしたら、
それこそ飛んで火にいるなんとやらではないか。
太郎は
しばし熟考した後、
そもそも自分がどういう人間かを思い出した。
捜査の基本は足である。
これは部下の遊佐に口が酸っぱくなるほど
伝えてきた言葉じゃないか、と。
意を決した太郎は、
一度大きく息を吐いた後
電柱の陰からそっと身を乗り出したのだった。