なんで俺が選ばれる
試し書きの小説です。短編。
引き寄せられる甘い香り、触れる柔らかいもの。女子の体ってなんて柔らかいんだ。雅は今とある廃墟の一室、机の下で同じクラスの女子と密着した状態でもう半時を過ごしている。
「あんた、もうそれで弾切れ。情けないわね」小柄な少女は強気に言う。
「誘ったのは、お前だ」雅は疲れた表情で手で汗を拭いながらそう答えた。
雅がそう答えた瞬間、すぐ側のロッカーが弾け飛ぶ。雅達は銃撃にさらされていた。半時前に逃げ込んだ机の下からほとんど動く事さえできない。少しでも動くと狙い撃ちされる。
「あんた、なんで本気出さないのよ!私が見込んで誘ったのに役に立たないわね。とりあえずあの教官参号を早くどうにかしてよ」小柄な女がはやし立てる。
「さっきからやってるだろ」呆れたように雅は答えた。
「もしかして、私と密着してたいから手を抜いてるんじゃないでしょうね。」疑いのまなざしで小柄な少女は雅を睨む。
「んなわけねーだろ。自意識過剰なんだよ」どうにでもなってくれと言う呆れた表情で雅は答えた。
「なんですって!」小柄な少女は顔を真っ赤にしながらそう答えた。
「怒ってる場合じゃない、この机もそんなにもう長くは持たない。数を数えて飛び出すぞ、三、ニ、一、ゴー」
机を飛び出し雅は銃口を訓練用ロボ・教官参号に合わせ連続でトリガーを引いた。赤い光の弾丸が尾を引きながら教官参号に吸い込まれる様に飛んで行く。
教官参号に弾命中し訓練用ロボは動きを止める。しかし雅も足に衝撃を受けその場に倒れこんだ。
「雅・シャルロット組の訓練終了~介護班は雅を回収。シャルロットさっさと戻って来い。」
――
ヘルネート王国はアレスター大陸の中央の南に位置する王国だ。その歴史は古く1500年続いている。温暖な気候と豊かな自然に恵まれ生活水準は高い。
そんなヘルネート王国の一般区に高坂 雅は暮らしていた。
高坂 雅は代々門番と言う言わゆる三流騎士の家系である。12歳になると親父と同じ門番を目指すためにヘルネート王国騎士学院に入学することを目指していた。
一部の特権階級の子息は無条件で入学できるが三流貴族となるとコネは皆無であり実力で入学しなければならない。
学校に入学を許される歳になる雅は入学願書を出した。今まで立派な門番になるため準備は万端にしてきた。
しかし運悪く試験日に当日にトラブルに巻き込まれる。
試験日当日、郊外の実技試験会場に向っていた雅に目の前に木に激突した立派な黒塗りの車が目に入る。車は運悪くキラービーの巣の近くに激突した様であり 刺激された無数のキラービーに取り囲まれていた。
キラービーと言うのは大型の毒をもったハチである。あれだけの数に襲われたらひとたまりも無いであろう。
車の側には執事であろう壮年の男が車を守る様にキラービーを牽制していた。
「はぁ~試験日だが仕様がない。キラービーは三十匹強か、あれを使えば何とかなるか」雅は心の中でそう呟く。
雅は試験様に持ってきた銃を構えると人間離れした早撃ちで次々にキラービーを打ち落とす。ものの一分経たずに全滅させる。
「ありがとうございました。ヘルネート王国騎士学院の学生さんですか……」執事が雅に話しかけてきた。
しかし雅は無言で立ち去った。雅には執事が何を言ってるか聞き取り難かったからだ。
「はぁ~しかたないこのまま試験会場まで行くか」雅は心の中でそう呟いた。
――
「始めまして高坂 雅です。代々門番の家系で門番目指してます。よろしく」雅は新しいクラスで孤立しないよう万遍の笑みで挨拶する。
ヘルネート王国騎士学院は騎士や王の為に働く者を育成する学校である。国の仕事に従事する者、貴族のほとんどがこの学校を卒業している。近衛騎士を目指す者も居れば書記官を目指すものも居る。雅の様に門番と言う一般兵を目指す者もいる。
平凡な日々を送っていた雅に中間試験前、あるクラスの女子が声をかけた。
「あんた、次の中間試験で私とチームを組みなさい」上から目線での高飛車な物言いで雅の目の前に立ったのは、雨宮 シャルロット。明るい金髪のツインテール、大きな瞳、白い肌。身長は小柄で百五十センチあるだろうか。公爵家の御令嬢で雅がかかわりたくない相手であった。
同じクラスだがほとんど話したことの無い。雅はこの学院が表向きは生徒は身分差は無く平等をうたっているが実際はすでに上下社会である事を知っている。
「ほら、次の試験のペアの希望用紙にもう書いてあるから提出に行くわよ」シャルロットが当たり前かの様に言う。
「おぃ、俺はまだあんたと組むなんて言ってないぞ。それにもう誘われてる奴が……」雅が答えた。
「残念ね、もう私と組む事は決まってるの諦めなさい」シャルロットはそう言い雅を引っ張って行った。
こうして雅はこの雨宮 シャルロットと中間実戦試験を受けることと為った。
――
介護班に医務室に運ばれ医務室で治療を受けていると幼馴染で同じクラスの夏目 美紀に声をかけられた。
美紀の親父は雅の親父の上司である男爵爵位の騎士だ。親父同士が学院の同期でつるんでいたらしく仲がいい。それで子供の頃からの知り合いである。
「雅君、大丈夫?」美紀が心配そうに言う。
「あぁ、何とかな。赤点じゃなければいいがな」雅が罰悪そうに答える。
扉が突然勢い良く開きシャルロットが入ってきた。
「あんた、なんで本気出さないの? 入学試験日の時と動き全く別人じゃない何で手を抜くのよ。それとも何か拾い食いしてお腹でも痛かった。それともまさかあんた本気で私と密着してそのあの変な事考えてたんじゃ無いでしょうね」シャルロットが半泣きでそう言った。
「あれが俺の実力だって、すまんな」雅がそう答える。
「嘘よ。入学試験の時みたもん、キラービーを一瞬であんな凄い動き普通の人に出来ないわ!」シャルロットはそう言うと泣きながら医務室を飛び出して言った。
雅はその言葉を聴いた瞬間思い出す。試験日に自分お忌み嫌う能力を使った事を。そう……見られていたシャスロットに……
タキサイキア現象を知っている人はどれ位居るのだろうか。俺はある事故が切っ掛けでタキサイキア現象を体験しその後遺症によるある能力がある。
タキサイキア現象(時間をスローモーションに感じる現象)は自分の身を守る為に脳の誤作動と言うのが一般説である。しかし俺の場合は思考が大幅に加速する。それに肉体も思考ほどでは無いが加速する。医者が言うにはタキサイキア現象とは別の似て非なるものらしい。
俺は「危険だ危ない」と自己暗示にかける事により意図的に誘発さす事ができる。スローモーションに見えてもゆっくりとしか動けない。発動時間中はものすごく息苦しい。動こうとするとまるで金縛りにあった様な感じを受ける。多用すると激しい筋肉痛になる。一番の問題は解除が自分では出来ない事だ。
入学試験日は結局、キラービーを倒した後、試験会場までスローモーションのまま行くはめになった。
……
中間戦闘試験は散々な目にあったが何とか単位を落とさずギリギリの30点を取れていた。やはり最後の負傷のマイナス点が大きかったようだ。
別に手を抜いていたわけでは無い。あれがいたって普通の雅の実力である。
「雅君、点数どうだった?」美紀が雅の顔を見ながら聞く。
「ギリギリ30点だな。俺の実力じゃこんなもんだろ。美紀はどうだったんだよ」雅が答えた。
「私は92点。」美紀がちょとてれながら言った。
「やっぱ、美紀はすごいな。」雅が感心しながら言う。
「雅君だって戦術論や戦略論で良い成績だったじゃ無い」美紀が言う。
「所詮、ペーパーテストだからな。憶えたりお手本の書き方知ってれば取れるさ。門番になるには諜報科の授業取らないといけないから頑張っとかないとな」雅はそういった。
「この後はどうするの?」美紀が聞く。
「残念ながら山本先生に呼び出し食らってる」雅がそう答えた。
お読み頂きありがとうございます。