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91話 それぞれの思惑


「・・・・・・・また半分成功して、半分失敗ですか。・・・・・・・ことごとく邪魔をしますねぇ。【星空】は。」



『アルフリーン』国の新しい結界が張られている南の国境の外にある丘の上で、はるか遠くに見える、巨大な【大神樹】を見ながら、仮面を被り、黒のスーツを着ている男が呟く。



「フフフッ。貴方は完璧主義だからいけないのよ。私達の求める物は手に入ったのでしょう?」


隣にいる黒く長い髪をした、赤い瞳の女性が言う。



「フェリシア・・・・・・・そうですね。『アルフリーン』での目的は達成したのですから、良しとしましょうか。」



右手に持っている、漆黒に輝く宝玉を見ながら続ける。



「ダークエルフ達は、捨て駒として十分に良くやってくれました。まさか全ての【神樹】を破壊するとは思いませんでしたからねぇ。そのおかげで混乱に乗じて、王城へと潜入して、この【黒の宝玉】を手に入れられたのですから。」


「私は納得していないけどね。・・・・・・・まったく、あの【異界】から来た【星空】め。私の可愛い魔物達をあんなに殺して。いつかこの借りは返してもらうわ。」



「確かに【星空】は凄かったですねぇ。貴方の魔物をあっという間に殲滅したのですから。・・・・・・・でも、西の国境の魔物だけで他は無事だったのでしょう?」


「えぇ。どのみち他の魔物達も、あのまま侵攻したら『アルフリーン』の数万の軍隊にやられていたわ。だから、行くと見せかけて撤退するつもりだったんだけどね。・・・・・・・暫くたてば、【神樹】が破壊された『アルフリーン』は終わりだったでしょうから。・・・・・・・だからムカついているのよ。それをこんな形で邪魔するなんて。・・・・・・・【星空】め・・・・・・・。」



悔しそうにしているフェリシアを見ながら、スーツの男は逆側にいる小さな女の子に聞く。



「クロエ。今回は珍しくここに来ましたが・・・・・・・・どうでしたか?」



クロエは男を見上げると嬉しそうに言う。



「レランジェ。僕はね、自分が作った魔道具がどうなったか。開発者として気になるんだよ。やっぱり直で見て正解だったね。あの魔道具は、ちゃんと【神樹】を破壊出来たんだ。大成功さ!」


「・・・・・・・結果はどうあれ、貴方は自分の作った物しか興味がないですからねぇ。・・・・・・・それでしたら、今回新しく発生した、あの大きな【神樹】は貴方の魔道具で破壊出来そうですか?」



クロエは遠くに見える【大神樹】を睨む。



「・・・・・・・無理だね。あれは僕じゃなくても・・・・・・・どんな者でも破壊できる代物じゃないよ。」


「そうですか。」






・・・・・・・【異界】のチーム【星空】のリーダー。



ソラ。



彼が呼んだ司る者【グリーン】のおかげで、この国は難攻不落となってしまったようですね。






レランジェは、国境から何かが出てきたのを見て言う。


「おや・・・・・・・次に行くみたいですね。さて、私も彼らの後に付いて行きますが、貴方達はどうしますか?」



フェリシアは肩をすくめて言う。


「私の仕事は終わったし、『魔国』に帰るわ。・・・・・・・また、魔物達を補充しないといけないしね。」



「そうですか。クロエ。貴方は?」


「ん?僕?僕はレランジェに付いて行くよ。だって、次はあの国なんでしょ?僕のもう一つの魔道具の成果もちゃんと見ておかないとね!」



「・・・・・・・それでは決まりましたね。フェリシア。私達はこのまま行きますので、ここでお別れです。今回の結果は『ファイン帝国』にも伝えておいてください。・・・・・・・それでは。」



そう言うと、レランジェはクロエを抱えて闇の空間を作り出し、その中へと入って行った。



レランジェとクロエを見送った後、フェリシアは空を見上げる。




そこには、真っ白いフェンリルの背中に乗った【星空】が見える。




「フン。・・・・・・・・今度会った時は、後悔させてあげるわ。」



そう呟くと、背中から漆黒の翼が現れた。




【超魔】と呼ばれる五人の『魔国』の大幹部。


その内の三人が同じ場所に揃うのは滅多にない。


そのままフェリシアは上空へと上がると、もの凄い速さで『魔国』へと飛び去って行った。






☆☆☆






西の超大国。



『ファイン帝国』。



その中心にある帝都の巨大な帝城。


その城の中で、武官や文官達が忙しそうに行き交っていた。



その中で際立つ男が一人。


バルコニーで部下から報告を受けていた。



青い瞳。長い金髪を束ね、真っ白い鎧を着ている男。



『ファイン帝国』の武力の中心。



七大将軍を統括している男。



テオだった。




「テオ将軍。」


「エリオット将軍か。・・・・・・・どうした?」



探していたのか、手をあげながら近づく七大将軍の一人。エリオット。


テオに報告をしていた男は、エリオットが近づくとフッと消える。



その様子を見ながら言う。


「隠密部隊か・・・・・・・テオ。何か情報を掴んだのか?」



「そうだな。・・・・・・・所でどうしたんだ?エリオット。」


「あぁ。そうだった。ハート皇帝がお呼びだ。何かあったらしいな。」



「そうか。・・・・・・・おそらく『魔国』の事だろう。」


「というと?」



「今、報告を受けてな。『魔国』は計画通り、『アルフリーン』の【神樹】の破壊を成功させたらしい。そして、結界が破れた所で・・・・・・・。」


「魔物を転移しての強襲。・・・・・・・だったな。」



「あぁ。相手は東の大国『アルフリーン』だ。【神樹】が消失した事で、数ヶ月も待てば『アルフリーン』は弱体していき攻めやすくなる。だが、その前に占領まではいかないにしろ、出来るだけ戦力を削る作戦だったが・・・・・・・そうもいかなかったらしい。」


「そうなのか?【神樹】が破壊されれば、『アルフリーン』はパニックになるだろう。軍隊も動揺したはずだ。・・・・・・・ここまで聞くと、作戦は完璧の様に思えるが?」




テオは、バルコニーの手すりに手を置いて、ここから見える【ゲート】を眺めながら言う。




「・・・・・・・【星空】。」




ピクッ。




エリオットが黙って反応する。



それを横目で見ながらテオは続ける。


「『ユニティ』と『アルフリーン』を結ぶ国境の結界が最初に消失した。そして計画通り、魔物の大群を強襲させたが、【異界】の探索者チーム【星空】が、それを殲滅したらしい。」


「なんだって?魔物の大群だぞ。いったい何匹いると思っているんだ。『魔国』の話だと、数万の軍隊が来ないと防げない数を用意する手筈じゃなかったのか?」


「用意したそうだ。それをたった六人・・・・・・・いや、五人の探索者が殲滅したらしい。」



エリオットは信じられない顔で言う。


「私だったら、上位精霊を召喚して殲滅する事は可能だが・・・・・・・一年前の時は、あの五人は強いとは思っていたが、ここまでとは思わなかったぞ。」



「・・・・・・・成長した・・・・・・・強くなったという事だろう。そして【星空】のリーダー・・・・・・・ソラ。」




ピクッ。ピクッ。ピクッ。




エリオットがその名前を聞いて、更に大きく反応する。



「あの者が、また召喚したらしい。司る者【グリーン】を。・・・・・・・そして【神樹】よりも、大きく、強大な【神樹】を創らせたらしい。そのおかげで、結界はすぐに元通り。そして『アルフリーン』が信仰している神が召喚された・・・・・・・士気も今までにない程に高くなり、魔物だけではすぐに返り討ちにあうと判断したのだろう。すぐに撤退したらしい。・・・・・・・後は、ダークエルフが『アルフリーン』に吸収されたくらいだな。」



エリオットは、テオの隣で同じ様に【ゲート】を眺めながら呟く。



「そうだったのか。・・・・・・・また召喚したか。あの男は。」






【異界】の六人の探索者チーム。




【星空】。




その中で異彩を放つ男。




一切の力・・・・・・・武力を持っていない。




【星空】のリーダー。




ソラ。




おそらく単体で戦えば、この世界の成人には誰にも勝つ事は出来ないだろう。



それ程に弱い。



だが、『司る者』を召喚できる。






エリオットの様子を見ながら、テオが言う。


「まぁ、これからも『魔国』の作戦は続く。どうなるかは分からないが、我々は暫くは静観だ。今は【異界】との外交で『ファイン帝国』も忙しい。皇帝も同盟国だが『魔国』をまるで信用していない。お互いにメリットがあるから組んでいるだけだ。・・・・・・・しかも、その『魔国』の作戦には何か裏がある。・・・・・・・思い通りにはさせんさ。我々は我々で計画を進めるぞ。エリオット。」


「・・・・・・・そうだな。」



二人の将軍は、暫くバルコニーで話をした後、ハート皇帝がいる『謁見の間』へと向かった。






☆☆☆






ここは日本。



首都東京。



世界の要人を集めて会議などによく使う、格式のあるホテルの中で、【D8】首脳会議が行われていた。



いつもの様に、大きな円卓には首脳達が座っている。



その周りの壁には巨大なスクリーンが置かれていて、どのアングルで見てもスクリーンが観れる様になっている。


そのスクリーンには、『空ちゃんねる』が映っていた。



周りを見ながらアメリカ大統領、チャーチ・プリュードが言う。


「・・・・・・・それでは現状の確認からでいいな?・・・・・・・【D8】が、それぞれ選出した外交官でチームを組んで『ファイン帝国』と交渉をしている。その統括マネージャージャー・・・・・・・荒木。報告を。」



日本総理大臣、神崎一樹の後ろに控えていた荒木は、一つのスクリーンの画面を切り替えて報告する。


「・・・・・・・ここ一年弱で進んでいるのは、『名もなき島』のリゾート開発。お互いの外交官や調査チームを含む一部の要人の往来。そして言語の習得です。・・・・・・・次のステップは、『ファイン帝国』のローガン宰相を中心とした文官達との交渉や会談で、我々の世界にいる全ての探索者の入国許可を貰う事です。そして最終的には、一般人も条件付きで行き来できる様にしていければと思っています。・・・・・・・ただその前に、様々な条件をお互いがクリアしていかなければいけませんが。」



フランス大統領が頷きながら言う。


「確かにそうだな。入国条件や、お互いの通貨・・・・・・・為替レートなども作らないといかんな。」



ドイツ大統領が言う。


「あちらの世界に行けるようになったとしても、我々の世界に比べて非常にデンジャラスだ。そういった所も対策を考えないと。」



「・・・・・・・調査チームを向かわせて、異世界の資源を調べたはずだ。あちらは魔法がある世界。そして【魔石】のエネルギーがあるから、他はほとんど手付かず・・・・・・・科学技術が我々の世界に比べて圧倒的に劣っているのだ。鉱石や、地下に眠るガスや石油。そして何といっても、膨大なエネルギーを持っているといわれている【魔石】。それを持ち帰って研究すれば、この世界のエネルギーバランスも変わるのではないか?」



それを聞いていたチャーチが言う。


「ほう。珍しいな。貴方がここまで饒舌になるとは。・・・・・・・中国の主席よ。」


「貴方達が慎重になりすぎているからだ。・・・・・・・あの世界は資源の宝庫だぞ。そして魔法もある。もっと迅速に動くべきだと思うが?」



すると、聞いていた日本の総理大臣、神崎が言う。


「・・・・・・・中国の主席が言うのは最もだ。だが、我々は異世界の者に比べて圧倒的に弱い。仮に軍隊を差し向けても、全滅するのがオチだろう。そして、全世界で増やしている探索者でさえ、レベルはまだまだなのだ。もし間違って相手を怒らせてしまっては、ここまでの苦労が水の泡になってしまう。・・・・・・・ここは、我々の外交官達に継続して任せようではないか。中国の主席よ。」


「・・・・・・・。」



中国の主席は沈黙する。




その様子を見ていた外交官の荒木は、スクリーンを見ながら思う。



・・・・・・・今、この世界で発言力が一番高いのは、アメリカでも、フランスでも、ドイツでも、中国でもない。・・・・・・・日本なのだ。何故なら、突出した探索者チーム【星空】が日本の探索者だから。アメリカのワイアットと同じ、探索者最高レベルの【レベル0】だが、それ以上のレベルがないだけで、あまりにも実力が・・・・・・・次元が違う。もし仮に国同士の争い事が起これば、間違いなく、抱えている探索者のレベルで勝負が決まってしまう。・・・・・・・もう、今は核ではないのだ。それ程に探索者達の武力は、この世界に影響を与えている。・・・・・・・そして、抑止力にもなっている。だからこそ、あの異世界の『ファイン帝国』が恐れ、そして全世界の首脳達が注視にしている【星空】がいる日本が・・・・・・・神崎総理大臣が自然と発言力が高くなってしまう。・・・・・・・良いか、悪いかは別として。




全員が沈黙したので、チャーチが話始める。


「私も神崎に賛成だ。いくらこちらに【星空】がいるとしても、『ファイン帝国』の方が総合力は上だ。折角、彼らのおかげで同じテーブルにつけたのだ。・・・・・・・まずは人の交流を加速させたい。荒木、探索者達の入国を出来るだけ早くしてくれ。そして交流が盛んになれば、こちらの科学技術と引き換えに、【魔石】の研究も出来るだろう。」


「了解しました。」






荒木は【D8】の首脳達に答えると、スクリーンに映っている、巨大な真っ白い狼に乗って、楽しそうに笑っている【レベル1】の青年を見ながら恨めしそうに呟く。








「・・・・・・・まったく。君が羨ましいよ。ソラ君。」







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