9話 クウガの下層ソロ攻略 1
「おっし!着いたな!」
僕達は先週と同じ目的地、下層に降りる手前の場所に着いた。
今日は日曜日。
ライブ動画の日だ。
先週と同じ様に中層の最下層へと着いた僕は、早速機材をリュックサックから取り出して、準備に取り掛かる。
「手伝おうか?」
「ん?平気平気。これは僕のテリトリーだからね。それよりも今日はよろしく頼むよ?」
「おう!任せとけ!いつも通りにやればいいんだよな!ハァ~ハッハッハッ!!!」
・・・・・不安だ。
僕は、準備しながら隣で仁王立ちして大笑いしている彼を見る。
身長は高く195cm。凛々しい顔立ちで、茶色い短髪。茶色い瞳。体は筋肉隆々でとてもたくましい。
着ている物はフルメイルではなく、急所を防ぐ位の動きやすそうな鎧を着て、左手には大盾を。右手にはハルバード(斧槍)を持って肩にかけている。
そんな彼の名前は、郷戸 空我。
僕の大事な親友の一人だ。
スポーツが盛んな高校に通っている三年生の18歳。
まぁスポーツ高校に通ってはいるが、探索者の為、競技に参加する事は出来ない。
探索者は普通の人より身体能力が高すぎる。
これが全世界共通の決まりだ。
彼はとても純粋で、性格も裏表がなくて、とてもいい男だ。・・・・・多分。
そして、レベルは『6』。
クウガは【星空】の要だ。
皆を守る為に、防御に徹する事が多いから、実績がアタッカーに比べると圧倒的に少ない。
ただそれだけ。
僕は彼の実力は、三人と同じ『レベル7』に達していると思っている。
機材を取り出し、全てセッティングを終えた僕は立ち上がって、周りに誰もいないか見渡す。
さて。
ここだ。ここが大事だ。
先週の配信で、多くの新規視聴者を獲得できた。そして、このライブ動画二回目で既存のファンをしっかりと固定させて、また新規視聴者をのばす。撮影者として、配信者として気合をいれないとな!!!
パンッ。
僕は頬を両手で軽く叩く。
「よし!それじゃ、そろそろ始めるよ!」
「おう!!!いつでもいいぜ!!!」
片手にカメラを持ち、大きく深呼吸をする。
「すぅぅぅぅぅ。はぁぁぁぁぁぁぁ。」
そして配信をスタートさせた。
「みなさぁぁぁぁぁぁぁぁん!観てますかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
☆☆☆
<コメント>
■きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
■きたきたきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
■うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
■観てるぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
■観てるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!
■待ってましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
■ソラぁぁぁ!!!観てるぞぉぉぉぉ!!!
■先週面白かったので、今週も観てます!!!
■観てるでごわす!!!
おぉ。スタートした瞬間、もう7万人いってる。
待っててくれたんだ。
それ程、期待しているという事なんだろう。
今日もいい出だしだ。
「皆さん!今日もご視聴ありがとうございます!・・・・・『空ちゃんねる』スタートです!!!」
オープニング曲を流す。
ぐるっとダンジョンを撮影しながら言う。
「どうもこんばんは。ソラです!今日もメンバーの下層ソロ攻略をお届けしたいと思います!」
<コメント>
■きたきたきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
■今日は誰だ?誰なんだぁぁぁぁぁぁ???
■誰?誰?誰ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ???
■うぉぉぉぉぉ。めっちゃ気になる!!!
■アカリちゃん抜かしてあと四人!!!誰だ???
■早く教えてくれ!!!
■ソラ!もったいぶるな!!!
■めちゃめちゃ盛り上がってるwww
■はよ教えて!!!
「フフフ。皆さん、誰だか気になるみたいですね。・・・・・それでは発表しましょう。今日ソロで探索するのはこの方!!!」
僕はカメラを地面から彼の足に向けてそのままゆっくりと引いていき、全体を映す。
「チームの要でいて、全てを守る・・・・・【星空】最強のタンク!『レベル6』・・・・・郷戸 空我さんです!!!」
「オッス!!!」
クウガは笑顔でカメラに向かって片手をあげる。
<コメント>
■うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
■クウガだ!!!クウガきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
■きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
■クウガ様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
■でかっっっっっっっっっっっっっっっ!!!
■背たけぇな!!!
■アップで初めて見たわ!!!
■あの逞しい胸に抱かれたい!!!
■俺も!!!!!
■私も!!!!!
■すげぇ武器!!!盾も斧もでけぇな!!!
何か変な感じに盛り上がってるな。アカリの時は男性が多かったけど、今回は女性のコメントもちらほら見える。
「あっ。あの大楯とハルバード(斧槍)ですか?でかいですよね。前に持たせてもらった事があるんですけど、僕では重くて持ち上がらなかったです。あれ、そのまま離したら、地上の普通の地面ならめり込みますよ。しかも、クウガさんの大楯やハルバードもそうですが、身に着けている物は全てインドダンジョンの【深層】素材の特注品です!今、地球上にある現代兵器では貫通する事はおそらく出来ないでしょうね。」
<コメント>
■マジか!!!すげぇな!!!
■かっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!
■一般人のソラが持ち上がらないんなら、俺達も無理じゃん!どんだけ重いんだよw
■何キロあるんだ?普通に持ってるけど。
■クウガ様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
■しかも深層素材ってwww
■まぁそりゃそうだよな。アカリちゃん、簡単に下層ソロ攻略してたしwww
■貫通出来ないってw どんだけ強度あるんだよwww
■凄いでごわす!!!
勢いよく流れているコメントを見ながら、出だし好調で満足した僕は、下層へと移動する。
☆☆☆
「さぁ、着きました!下層の入口ですね。先週と同じ場所です。」
僕は入口の先にある、無数の洞窟がある大きな広場にカメラを向ける。
そのまま歩き、クウガと一緒に広場の中央に立つと言う。
「さて、それでは前と同じだと面白くないので、毎回、違うルートを進んで行きたいと思います。」
<コメント>
■おっ!いいね!!!
■ルートが違うなら、違うモンスターが見れるかも!!!
■これは参考になります。
■今度下層に挑戦しようと思ってます!参考にします!!!
■同業者きたwww
■同業者も増えてそうwww
■よし!行こうぜ!!!
■行こう!行こう!!!
「それでは、下層ソロ攻略をスタートします!クウガさん、よろしくお願いします!」
「おう!!!」
クウガはハルバードを掲げながら答えた。
数字を見ると、視聴者はすでに10万人を超えている。
これは先週に比べると大幅に多い。
このまま伸び続けてくれよ。
僕達は先週とは違う洞窟へと入って行った。
しばらく進んで行くと、大型のモンスターがこちらへと歩いてくる。
「おっ。接敵しました。・・・・・あれは『ウルグ』ですね。」
先週、アカリが戦った、3mはあろうか、目は赤く、全身毛で覆われているモンスターだ。
<コメント>
■きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
■うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
■ウルグきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
■相変わらずでけぇぇぇぇぇぇぇ!!!
■きたきたきたぁぁぁぁぁ!!!さぁどう戦うんだ???
■アカリちゃんは瞬殺だったけど、クウガはどうなんだ???
■うぉぉぉぉぉぉぉ気になるわ!!!
■がんばれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!
■応援してますぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!
■クウガ様!頑張ってください!!!
■中層攻略動画で【星空】観た事あるけど、スピカちゃんしか観た事ね~から楽しみだわ!!!
モンスターが現れて一気にコメントが流れる。
・・・・・そうなのだ。【星空】で最初は定期的に中層の攻略動画を上げていたんだけど、皆ほとんど戦う事はなく、一人の親友が倒してしまったのだ。
まぁ中層動画は【星空】を知ってもらう為に作った動画で、下層のソロ攻略の為に、メンバーの実力はあまり知られたくなかったから良かったんだけどね。
僕は撮影しながら立ち止まると、少し下がった。
アカリとは違い、クウガとの距離をとる。
クウガはそのまま一人でウルグの方へと歩く。
ウルグもクウガの方へと歩く。
そしてお互いが攻撃範囲へと入り、向かい合うと、静寂が包んだ。
するとクウガが突然、ハルバードと大楯を地面へと落とし・・・・・・・そして叫んだ。
「かかってこいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
ドンッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!
ウルグの右拳がクウガの顔面にヒットする。
その威力で、クウガは数メートルほど後ろへと飛ばされるが、途中で止まる。
体は正面で、殴られた顔だけ横に向いていたクウガは、顔をゆっくりと正面へと向き直ると、少しだけ切った唇の血を手の甲で拭いながら言う。
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。きくぜ!!!いいパンチだ!まずまずだな!!!」
<コメント>
■はっ???
■えっ???
■へっ???
■今何した???
■武器捨てた???
■何で???
■普通に殴られたんだけど???
■ちょっ!ちょっと待って!!!頭が整理できてない!!!
■たしか攻撃がかすっただけで吹き飛ぶとか、前に上位の探索者が言ってなかった???
■力が相当あって人間は簡単に潰されるって、前にソラが言ってなかった???
コメントがめちゃめちゃ荒れてる。
そりゃそうだわ。
「ハハハ・・・・・えぇとですね。ちょっと彼の悪い癖でして・・・・・よほど強いモンスターじゃなければ、初めてのモンスターはまず受けないと気が済まない性格なんですよ。『正々堂々。力比べをする。』これがクウガさんのモットーなんですよね!」
まぁ、ようは戦闘狂だ。チームの時は我慢してるけど。
<コメント>
■いやいやいやいやいやwww
■意味わからんわwww
■何が力比べだよwww
■不良の喧嘩じゃねぇんだよwww
■相手モンスターだしwww
■しかも下層モンスターだろwww
■何で生きてんだよwww
■普通死ぬってwww
■素敵ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!
■クウガ様ぁぁぁぁぁ!カッコイイですぅぅぅぅぅぅ!!!
■うわぁ、ガチ恋勢www
クウガはそのままウルグの方へと再度近づき攻撃範囲に入る。
「よぅ。今度は俺の番だな。」
言った瞬間、クウガはウルグの腹に向かって右拳を叩きこんだ。
バンッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!
破裂した様な大きな音がすると・・・・・ウルグの体に大きな穴があいた。