85話 アルフリーン6
「シエナ様。準備が全て終えました。」
「そう。」
『アルフリーン』の国境にある緑色に輝く大きな巨木。
【神樹】を見ながら、シエナと呼ばれた女性は答える。
少し前に日が落ち、今は綺麗な星空が見える夜だ。
シエナの周りには、数人のエルフの男女が同じ様に【神樹】を見ている。
「・・・・・・・本当にいいのですね?」
シエナは隣にいる男性に言う。
「リュー。・・・・・・・そうね。この国に潜伏して二年。十分思い出を作れたわ。貴方達は大丈夫なの?」
「はい。我々は、全員シエナ様と共にあります。もう思い残すことはありません。」
そう言うと、リューとその周りの男女のエルフは、シエナに向かって跪く。
すると、その後ろにいつの間にいたのか、かなりの数のエルフが同じ様に跪いていた。
シエナは跪いている人達を一瞥してから、もう一度【神樹】を見る。
「・・・・・・・私達は千年以上前に、この国を追われて『魔国』に拾ってもらった。我々は『受けた恩は絶対に返す』のが決まり。だから『魔国』が、この『アルフリーン』国を欲しいのなら、その恩を返す為に全力を尽くすわ。・・・・・・・たとえ、話に聞いていた祖国であっても・・・・・・・ね。」
そう言うと、シエナの髪の色が金から銀へと変わる。
瞳もエメラルドグリーンから深紅の瞳へ。
そして肌は黒く変わっていく。
跪いていたエルフが全員立ちあがると、シエナと同じ様に変貌をとげていた。
「リュー隊長。編成は予定通りね?」
「ハッ。五本ある【神樹】の内、王都を除く三本は、それぞれ変装した仲間の600名が合図を待っています。そして、ここには残り400名全てがシエナ様の元に。」
シエナはゆっくりと手を上げる。
「『アルフリーン』よ。・・・・・・・我々ダークエルフを迫害し、この国を追い出したこの想い・・・・・・・同じ様に絶望するがいい。」
そう言うと、手を振り下ろした。
☆☆☆
「ソラ様!あちらが有名な画家や彫刻家の作品が集められている『アルフ』屈指の美術館です。・・・・・・・あっ!あっちは劇場ですね。ソラ様の世界の様な映画?みたいな物はありませんけど、結構面白いですよ!あっ!そっちは・・・・・・・。」
「おい。あれ、テルミ様だ!」
「テルミ様~!」
「あれが噂の【異人】の冒険者【星空】か!」
「えっ?あれがテルミ様を救った冒険者?」
「何々?」
テルミが王都へと戻って、パーティを開いてから四日後。
街も祝賀ムードから大分落ち着いて来たので、今日はテルミとハクを連れて、この王都『アルフ』の観光案内をしてもらっている。
この三日間の王都はお祭り騒ぎで、とてもじゃないが出歩ける雰囲気じゃなかったので、忙しそうなテルミを置いて、ハクに王都以外の観光スポットに連れて行ってもらったのだ。
いや~♪
マジでオモロかったし、楽しかった。
ハクに乗って空を飛ぶ旅は、とても気持ちがよく、あっという間に目的地に着くので、移動時間を考えずに楽しめる事ができた。
そしてやっと落ち着いた四日後に王都に戻って、今は解放されたテルミが僕達を案内しているというわけだ。
しかし・・・・・・・冒険者ギルドに行って『フリークエスト』の達成報告をしたら、受付のお姉さんと周りにいた冒険者達が全員茫然としていたな。それから大騒ぎになって、エルフの人達は泣いて僕達にお礼を言ってきたので、凄く心苦しかった。
しかも、報酬金も結局『フリークエスト』分を入れて30億貰っちゃったしね。
「さっ!次はこっちですよ!行きましょう!」
テルミが僕の手を握って、嬉しそうに引っ張る。
その様子を周りの住民達が、笑顔でひそひそと話をしながら見ている。
僕は、その様子をカメラで撮影していた。
<コメント>
■ふぉぉぉぉぉぉぉ!やっぱり王都は凄い人だな!
■何か芸術性の高い建物ばっかりある!
■都会でも自然を感じさせる景色で素敵!
■でもさ!この三日間の観光スポットの旅も良かったな!
■それな!こっちの世界じゃ見た事ない景色ばっかり!
■あ~ハクの背中に俺も乗りてぇ!
■ジェット機並みに速かったもんなw
■ハクって絶対フェンリルだろw
■しかも報酬金で30億ってw
■一人五億か!結構すげぇよな!
■まぁ、一国の王女のテルミちゃんを助けたんだ。その位の報酬は妥当だろ。
■当然でごわす!!!
色んな感想が入り乱れている。
それだけこの四日間は、色んな意味で新鮮だった。
画像の数字を見ると、一億人以上がこの『空ちゃんねる』を観ている。
戦闘や討伐だけじゃない。
こんな異世界の旅も、視聴者にはとても新鮮で惹きつける物があるのだろう。
まぁ、異世界の情報を集める為に観ている国の人達もかなりいるんだろうけどな!
「うぉ~!近くで見ると、やっぱり、すっげぇ、でっけぇな!」
テルミに案内されて、色々と見てまわった僕達は、最後に王都にある【神樹】を見に来ていた。
王族のみ入る事が許される、至近距離からの【神樹】は、とてつもなく大きい。
日本ギルドビル並みにある巨木。
もの凄い迫力だった。
「ん?・・・・・・・どったの?」
テルミと手を繋いで見ていた僕は、テルミが【神樹】ではなく、少し離れた一般客がいる場所を凝視していたので、僕もその方を見ると、【神樹】を見ているエルフの人達の一部が、すぐに顔を伏せてそのまま離れていった。
「あの髪・・・・・・・あの肌・・・・・・・エルフに変装?・・・・・・・どうして?」
テルミが独り言の様に呟いている。
僕は黙って待っていると、テルミが僕達を見て言う。
「あのっ!皆さん!ちょっと用事が出来てしまいました!城に戻っていいですか?」
「ハハッ。わざわざ了解をもらわなくていいよ。僕達はもうしばらくこの王都にいるつもりだから、また時間がある時にでも声をかけてよ。」
「はいっ!・・・・・・・ハク!お願い!」
そう言うと、僕達に手を振ってハクの背に乗ると、城へと飛び立った。
「心配だな!」
「うん。何かあったみたいだね。」
「大丈夫だといいけど。」
「・・・・・・・心配。」
「私達は冒険者で部外者よ。本当に何かあればテルミから言ってくるわ。」
親友達が飛んでいる後姿を見ながら話している。
スピカの言う通りだ。
僕達はこの世界の人間ではなく、【異人】で完全部外者だ。テルミが何か話をしてこない限りは、今まで通り探索を続けよう。
僕は夕日に照らされた【神樹】を見ながら言う。
「まっ、俺達は探索者だ。結局、この国にあるクエストは受けてない様なもんだから、明日は冒険者として何かクエストを受けようぜ!」
「「「「「 オッケ~♪ 」」」」」
僕達は王都にいる間、無償で泊まる事を許された、王都『アルフ』で一番高い宿に向かった。
何もしてないのに、大金をもらって、更には至れり尽くせり。・・・・・・・逆に居づらくなるから、マジでやめてほしいわ!
ちょっとだけ、心の中でボヤいてみた。
☆☆☆
「テルミ。それは本当か?」
「はい。間違いありません。銀の髪。黒い肌。そして赤い瞳。・・・・・・・ダークエルフでした。」
「・・・・・・・。」
すぐに戻った私は、父であり王のアルフリーン=レインに報告をする。
私の目は、エルフの王族のみが稀に宿す事がある【真実の目】を持っている。
この目は、様々な能力があるが、その内の一つ。
全ての偽りを見破る事が出来るのだ。
私は続ける。
「王都にある【神樹】を警備している兵達や民の中にも見かけました。何か良からぬ事が起きなければいいのですが・・・・・・・。」
【ダークエルフ】。
昔はこの『アルフリーン』国で、同じエルフとして生活していた民達。
理由は分からないが、千年以上前にこの国を出て、『魔国』に移り住んだと私は学んだ。
「どうしますかな?レイン王よ。」
三大老のサミュエルが聞く。
「エルフに変装しているダークエルフ。おそらくテルミの【真実の目】がないと見破れない変異魔法なのだろう。・・・・・・・という事は、テルミが攫われた三年前から兵や民として潜伏していた可能性がある。そして今、テルミが戻って来た。・・・・・・・テルミは『ファイン帝国』で貴族に売られる所だった。・・・・・・・もう用済みだから?それが意味するのは・・・・・・・。」
王が呟きながら考えている所へ、大きな音をたてて扉が開くと、騎士大隊を束ねる将軍が大勢の隊長を引き連れて入ってくる。
そのまま真っすぐに歩き、レイン王の前まで来ると全員が敬礼をする。
「どうした?ジェイクス将軍。何かあったのか?」
「ハッ。・・・・・・・たった今、西の国境を守る兵士より連絡がありました。国境にある【神樹】がたった今・・・・・・・・・。」
「破壊されました。」
☆☆☆
ズズズズズズズズズズズズズンッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!
巨大な【神樹】が業火に包まれながら、根元から折れる様に倒れていった。
そしてその業火は、すぐにその周りの木々を燃やし、急速に広がっていく。
「凄いわね。」
シエナは少し離れた見渡せる丘で、その光景を眺めながら呟く。
正直、半信半疑だった。
巨大で、無限に魔力をもつ【神樹】。
その【神樹】を破壊するなんて。
『魔国』にいる【超魔】と呼ばれる五人の魔人。
その内の一人。
クロエ様が作った魔道具。
私が5つの魔道具を受取った時に、嬉しそうに言っていた事を思い出す。
・・・・・・・シエナ。これはね。僕が作った中でも特にお気に入りの一つさ。何たって、この魔道具一つ作るのに、奴隷と捕虜、合わせて一万人以上の命を使っているからね。・・・・・・・
ニヤリと笑ったその冷酷な笑顔を思い出すと、背筋が凍る。
「シエナ様!兵隊がこちらに向かって来ます!」
見ると、大勢のエルフ兵が向かってくる。
「チッ。気づかれたか。・・・・・・・破壊工作をした者達は?」
「散り散りに逃げましたが、おそらくほとんどは生きていないかと。」
「・・・・・・・そう。」
隣にいる隊長のリューが言う。
「シエナ様。我々は最初からこの作戦で助かろうとは思っていません。ここに命を捨てに来ました。だから、生き残って散り散りに逃げた者達も、シエナ様を追って、目的地へと進むでしょう。シエナ様・・・・・・・次の命令を。」
俯きかけたシエナは、目を見開いて、元の表情へと戻ると全員に向かって叫ぶ。
「よし!ここにいる300名は、このまま我々の秘技【闇走り】で王都『アルフ』へと向かって【神樹】を破壊する!・・・・・・・リュー!他の隊へ連絡して、それぞれの【神樹】を破壊したら、予定通り王都を目指す様に指示を!」
「ハハッ!!!」
見ると、近づいてきていたエルフ兵が止まり、国境の方を見ている。
そこには、この『アルフリーン』国を守っている虹色に輝くオーロラの結界が、徐々に崩れてなくなっていくのが見える。
「フッ。エルフ兵よ。我々を追う暇など与えないよ。その為に、大型の転移魔法陣を二年かけて四ヶ所、この国の結界の外に設置したんだ・・・・・・・行くぞ。」
そう言うと、シエナ率いる約300名のダークエルフは闇夜に消えていった。
☆☆☆
「報告!・・・・・・・報告です!!!」
エルフ兵が慌てて謁見の間へと入ると、王に報告をする。
「只今、国境の【神樹】が破壊され、その周りの結界が全て消失しました!そして消失した結界の外から・・・・・・・魔物の大群が押し寄せて来てます!!!」
!!!!!!!!!
「ばかな!魔物の大群だと?『ディスタント川』があるから、こちらには渡れないはずだ!しかも、『ユニティ』国の監視もあるのに何故・・・・・・・。」
三大老の一人、オークスが驚いている。
ジェイクス将軍が言う。
「おそらく転移魔法でしょう。国境の外に巨大な魔法陣があるはずだ。数年かけないと作れない魔法陣がな。・・・・・・レイン王。これは間違いなく計画的です。すぐに対策を練らないと・・・・・・・。」
また、数人の兵達が同じ様に飛び込んでくる。
「報告です!北にある【神樹】が破壊されました!」
「報告です!東にある【神樹】が破壊されました!」
「報告です!南にある【神樹】が破壊されました!」
レイン王は王座から立ち上がる。
「ジェイクス将軍!!!」
「ハッ!!!」
ジェイクスは後ろを振り向き、隊長達に言う。
「大至急、それぞれ3万づつ部隊を編成して、破壊された【神樹】の元へと行き、外から来る魔物達を迎え撃て!・・・・・・・いいな!一人でも多くの民を守るのだ!!!」
「「「「「「「 ハッ!!! 」」」」」」」
隊長達は返事をすると、敬礼をしてすぐにその場から立ち去った。
ジェイクスは王の方へと向き直ると続ける。
「レイン王。四方を守っていた全ての【神樹】が破壊されました。あとはこの王都にある【神樹】のみ。・・・・・・おそらく、破壊した者達と魔物はこの王都へと向かってくるでしょう。ここの【神樹】を破壊されたら、この国で生きることがおそらく出来なくなってしまう。・・・・・・・我々騎士大隊残り10万。全ての部隊でこの王都をお守りします!」
「よろしく頼むぞ。ジェイクス将軍。」
「ハハッ!!!」
ジェイクスは敬礼をすると、謁見の間から出ていった。
レイン王は、そのまま王座へと座り、手で頭を抱える。
何と言う事だ。・・・・・・・『ファイン帝国』の方に目を行き過ぎた。まさか『魔国』が攻めてくるとは・・・・・・・。
すると何かに気づき、隣にいる王妃に聞く。
「サロン。・・・・・・・テルミはどうした?」
「えっ?今さっきまで、隣に座っていたのですけど・・・・・・。」
「まったくこんな時に・・・・・・・。すまんが、ハクに伝えてテルミを連れてくるように言ってくれ。」
「ハッ!」
王は兵士に命令すると、そのまま大窓から夜空を見る。
【神樹】は結界だけじゃない。
その周り、数百キロに渡って、全ての草木や水を生み出している。
それが失ったとなると、遥か昔、まだエルフが移り住んでいない、木も草も水もない、荒廃した大地となってしまうだろう。
民の為に・・・・・・・絶対に、絶対に、この王都の【神樹】だけは守らないといけない。
「三大老よ。我々も対策を練るぞ。」
「「「 ハッ。 」」」
そう言うと、レイン王は三大老を引き連れて謁見の間から出ていった。
☆☆☆
「ハッ。ハッ。ハッ。ハッ・・・・・・・」
私は走る。
貴方を求めて。
今日、王都にある【神樹】を残して全てが破壊されてしまった。
私達エルフの民は知っている。
世界でこの国に並ぶ事のない豊富な土地。・・・・・・・緑と水の豊かな大地。
それは、この【神樹】があるおかげだという事を。
破壊された【神樹】の周りの大地は、数日もすれば木や草は枯れはて、水は枯渇するだろう。
これからどうなるのか分からない。
でも今は・・・・・・・私は王女として、そして未来の女王として、一億人以上いるこの国の民を守らないといけない。
「ハッ。ハッ。ハッ。ハッ・・・・・・・」
私は走る。
そして貴方を探す。
ソラ様。
私を救ってくれた王子様。
何でだろう。
魔法も使えない。
力も、この国の民にも多分勝てない。
そんな貴方なのに、この危機を救ってくれるんじゃないかと思ってしまう。
そんなの、勝手な思い込みでしかないのに。
見つけた!
私がおすすめした美味しい料理屋から出てくるソラ様達。
「ハッ。ハッ。ハッ。ハッ・・・・・・・」
私は走る。
貴方の元へ。
「ソラ様!」
「あれ?どったのテルミ。」
突然走って現れた私を、驚いた顔で見ているソラ様と皆様。
私は理由を言わずに、真っすぐに貴方を見て言う。
「ソラ様・・・・・・・お願いします!私を・・・・・・・この国を助けてください!!!」
「いいよ。」




