69話 謁見
「それでは失礼致します。」
片膝を付いて、頭を垂れていた【D8】外交官の荒木は、立ち上がると会釈をして『謁見の間』から退出する。
荒木が立ち去るのを、黙って見ていた『ファイン帝国』皇帝、ファイン=ハートは小さく呟く。
「とうとう来るか。」
「して・・・・・どうされますか?」
皇帝が座っている右隣で、直立不動で立っている真っ白な鎧を着た男が言う。
「テオ将軍。・・・・・なに、あの【星空】のリーダー。ソラという者が、本物かどうか見定めてみるさ。」
皇帝は肩をすくめる。
「・・・・・この一年で、全ての『監獄島』の結界に一時的に穴を空けられ、その後の調査で【魚人族】が脱走していた。・・・・・脅威ではないが、彼には注意しておかないといけませんしね。」
「そういう事だ。・・・・・宰相。手筈は頼んだぞ?」
「了解しました。」
左隣にいる宰相は、返事をするとそのまま『謁見の間』から出ていった。
☆☆☆
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!すげぇな!」
僕は思わず声をだす。
ここは『名もなき島』の入江。
上陸した僕達は、一年ちょっと前の景色とは、あまりにもかけ離れていたのを見て驚いていた。
船から降りた場所は、すっかり舗装されていて港になっている。
辺り一面草原だけだった島は、道路が出来て所々に店が建っている。そして、まだ建設途中の高いビルなども建ち並んでいた。
まさしく建設ラッシュ状態だった。
【星空】を先導している外交官の荒木さんが笑顔で言う。
「今、この『名もなき島』は『ファイン帝国』の領土という事になっています。我々【D8】が許可を得て、抽選で選ばれた世界中の有名な企業を、この島のリゾート開発に誘致しているんですよ。」
・・・・・最初の取り決めで、ここの『名もなき島』は『ファイン帝国』の領土とした。なぜなら、こちらの土地となると、全世界の国々が権利を主張するからだ。ならば、異世界の『ファイン帝国』の領土とした方が、どの国も文句をいう事はない。この島の土地を『ファイン帝国』の領土とし、開発や整備は【D8】が請け負う形で合意したのだった。
「今日は【ゲート】の近くにある観光ホテルで一泊して、明日謁見となります。なので今日はゆっくりしましょう。」
僕達は荒木さんに向かって敬礼する。
「「「「「「 りょ~かいです! アッハッハッハ! 」」」」」」
用意した車に乗って【ゲート】の近くまで行くと、観光客らしい人達がカメラを持って【ゲート】をバックに撮影している。荒木さん曰く、数ヶ月前に限定だが一般客にも開放しはじめている為、今、『名もなき島』は注目のリゾート観光地の一つとなっているらしい。
まぁ、異世界とこの世界を繋ぐ島だ。しかも周りは綺麗な海。一度でいいから行ってみたいと誰もが思っても不思議ではない。
僕達は観光ホテルでゆっくり一泊した後、翌朝【ゲート】の近くまで行くと、【ゲート】の前に巨大な建物が現れる。この建物が検問所となっており、特別な許可書がないと両世界に行き来する事は出来ない。
僕は新しく出来た街並みを見ながら言う。
「凄いな。一年ちょっと前まで草原しかなかったのに。」
僕が驚いていると、荒木さんが答える。
「そうですね。ここは異世界に通じる重要な場所です。こちらからもそうですが、特に異世界側から我々が気づかない内に侵入されたら大変ですからね。・・・・・モンスターや魔物もいるみたいですから。」
検問所はもの凄い厳重だった。
トンネルの様な所を通らないと、【ゲート】には行けない仕組みになっていて、そこを通ると、通った者が何者なのか、危険な物は持っていないかなどがすぐに分かるらしい。探索者協会と各国で研究、開発し、最新の監査システムを構築しているとの事だった。そして二重の防壁として、【ゲート】を中心に、この検問所も含めてドーム状の強力な結界が張られている。探索者協会に頼まれて、スピカを中心に魔法使い達が協力して張ったらしい。・・・・・スピカ曰く、一人でも張れるみたいだけど、自分一人は何か損な役回りでヤダから、他の魔法使いも一緒に巻き込んだらしい。
スピカらしいや。
僕達【星空】は許可書も必要ないみたいだから、そのまま荒木さんの後に付いて行く。
【ゲート】の前まで来ると、甲冑を着た『ファイン帝国』の兵士達が数名現れる。
そして、その兵士達を従う様に、落ち着いた格好をした50歳前後のダンディな男性が立っていた。
荒木は真っすぐにその男性へと歩いて行くと、握手を交わす。
「これはこれは。まさかローガン宰相が迎えに来てくれるとは。わざわざ、ありがとうございます。」
「荒木さん。そう、かしこまらないで下さい。我が皇帝から丁重に案内する様に承っておりますから。・・・・・・・貴方達が【星空】ですね。」
「はい!僕達が【星空】です!そちらの世界で遊び・・・・・・・いや、探索できる様に許可をもらいに来ました!」
そう言いながら、荒木さんと同じ様に笑顔で握手をする。
「そうですか。初めまして、私は『ファイン帝国』宰相、ローガンと申します。」
「あっ。ご丁寧に。僕はソラと言います!」
ローガンは少し目を見開くと、続ける。
「・・・・・・・貴方がソラ様でしたか。なるほど。噂通りの様ですね。後ろの人達とは違って、私と同じ普通の御仁の様だ。歓迎しますよ。・・・・・さぁ、皇帝がお待ちです。行きましょう。」
ローガン宰相を先頭に、甲冑を着た兵士達が【ゲート】へと入って行く。
僕達もその後へと続いた。
☆☆☆
【ゲート】から出ると、数台の豪華な馬車が止まっていて、僕達を出迎えていた。
ここは帝都だが、その中心にある皇帝のいる城までは、ここから馬車で30分位かかるらしい。
一応、僕愛用のカメラは持ってきてはいるが、今回は撮影しない。
やっぱり最初の撮影は、視聴者と一緒に感動を味わいたいからね!
今回は下見と割り切って、ウケそうな撮影場所を探せればと思っている。
僕はそんな感じで、歩きながらキョロキョロ辺りを見渡していると、馬車の近くで、いかつい男と一緒にいる一人の可愛らしい少女と目が合った。
薄汚いローブを羽織り、見るからにやせ細っている。首には鉄の首輪の様な物がはめられていた。
それだけなら、そこまで気にはならなかったが・・・・・・・何と耳が尖っているのだ。
えっ?!あれはもしかして、もしかしたら、もしかするとぉぉぉぉぉぉ???・・・・・・・・・・エルフぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ?????
親友達の一番後ろで歩いていた僕は、少女に意識がいってしまい、完全に不注意で知らない通行人とぶつかってしまった。
「あっ!!!」
その勢いで、持っていた大事なカメラを落とす。
ザザッッッッッッッ!
その落とす様子を見ていたのか、少女がすぐさまダイビングヘッドでカメラを掴んだ。
「君!・・・・・大丈夫?」
「・・・・・・・はい。」
その少女は立ち上がると、カメラを僕に渡す。両肘、両膝は、擦り切れて血が滲んでいた。
「おい!何してんだ!お前は!!!」
ドンッッッッッッ!!!
一緒にいた男が、少女に蹴りを入れると、軽い少女はそのまま吹き飛んだ。
そしてすまなそうに僕に言う。
「いや!だんな!すみませんねぇ。まだこの奴隷は日が浅いもんだから、しつけがなってなくて。」
「何をやっている!こちらは大事な客人だぞ!さっさと行け!」
「へっへい!・・・・・おら!行くぞ!」
すぐに甲冑を着た兵士がやって来て怒鳴ると、その男は蹴った少女の髪を乱暴に掴み、立ち上がらせると、人混みへと消えていった。
僕は茫然としながら立ちすくんでいると、荒木さんが戻ってきて言う。
「ソラ君・・・・・・・あの少女はおそらく奴隷。この世界は奴隷が当たり前の様に存在しているんです。特にこの『ファイン帝国』はヒューマン第一主義。大体の奴隷はあの少女の様に、他の種族みたいですね。・・・・・でも、我々は別の世界から来た人間。そこには干渉はできません。ソラ君。それだけは頭に入れておいてください。」
「・・・・・・・そうですか。分かりました。・・・・・・・んじゃ、馬車に乗りますかね!」
ソラは親友達が乗っている馬車に笑顔で乗り込む。
でも、親友達は見逃さない。
ソラの雰囲気が変わったのを。
それを感じ取った親友達もまた、顔色が変わった。
☆☆☆
僕達を乗せた豪華な馬車は、城下町を暫く走ると、帝城へと着いた。
城門は既に開いていて、守衛達は、僕達の馬車をそのままお辞儀をして素通りさせる。
僕は馬車の窓から外を見ると思わず声を出す。
「マジか!でっっっっっか!!!」
城門を通り過ぎるとそこには、とてつもなく広大な庭園があり、そしてその先に巨大な城があった。
「でかいな!」
「すごいね。この庭園だけでドーム何個分なんだろうね。」
「城もとても大きいわよ。」
「・・・・・すごい。」
「あんな大きな城は、私達の世界にはないわね。」
親友達もその光景に圧倒されていた。
そのまま観光客気分でキョロキョロしながら城へと入ると、兵士達とは入口で別れて、僕達は宰相の後に付いていく。
「さぁ。着きましたよ。ここが『謁見の間』となります。・・・・・どうぞ。」
大きな扉の前に立っている兵士達が扉を開ける。
僕達は中へと通されると、中世の様な真っ白い壁。そして神殿の様な丸い柱が均等に建っていて、国旗が付けられている。天井には大きなシャンデリア。何か凄いとしか言いようのない空間だった。
先にある中央には、豪華な椅子に座っている30代半ば位のカッコイイ男性がいる。おそらくあの方が皇帝だろう。そしてその周りには、鎧を着た者や、ローブを着ている者、そして宰相と同じ様な格好をしている者など、男女様々な格好をしている人達が、大勢皇帝を挟んで並んでいる。
僕達は荒木さんと一緒に皇帝の前まで来ると、事前に習った様に、片膝を付きながら頭を垂れる。
ローガン宰相は、そのまま皇帝の横まで来ると言う。
「探索者チーム【星空】をお連れしました。」
「ごくろう。・・・・・・・さて、【星空】の皆さん。よく来てくれた。私は『ファイン帝国』皇帝ファイン=ハート。この国を治めている者だ。・・・・・そちらでは、こんな礼儀作法はないだろう。普通に立って話してくれ。」
荒木さんを見ると、僕に向かって頷くので、言われた通り普通に立ち上がると、僕達は自己紹介を始める。
「私はアカリと言います。よろしくお願いします。」
「俺はクウガだ!」
「・・・・・ココセ。」
「僕は、エイセイと言います。よろしくお願いします。」
「私はスピカ。よろしく。」
すると、皇帝の横に並んでいる一人が、手を振りながら嬉しそうに言う。
「ハハハッ!やぁ!ココセ!久しぶりだね!」
一年前にココセと戦ったレヴィ将軍だった。
「・・・・・!!!・・・・・殺す。」
僕は、動こうとしたココセの肩に手を置くと、殺気で充満していた空気が消え、嬉しそうな顔になる。
「え~。僕はソラと言います。一応、この【星空】のリーダーをやらせてもらってます。」
皇帝は僕の方を凝視する。
「・・・・・・・そうか。君がソラか。」
「???・・・・・はい。」
「さて、外交官の荒木が言うには、君達はこの世界で探索をしたいとの事だが、間違いないか?」
「はい!この知らない世界を探索してみたいと思っています!その許可を貰いに来ました!」
「そうか。・・・・・ならその前に、私の願いを聞いてもらえるか?」
「願い?」
皇帝は座りながら頷くと、片手を上げる。
すると、一年前にちょっとだけ見た事のある男性が前に出た。
「この者はこの国の将軍の一人でいて、最強の召喚士と言われているエリオットだ。危害を加えないと約束しよう。だから、これから少し試させてもらいたいのだが・・・・・いいか?」
「試す?・・・・・う~ん。まぁ、痛くしないならいいですよ!」
「そうか。恩に着る。・・・・・エリオット。頼む。」
「ハッ。・・・・・・・いでよ。」
エリオットが腕を前に出しながら唱えると、光の魔法陣が現れる。
そこから、二体の巨大な精霊が現れた。
【上位精霊】だ。
エリオットは僕の方を指さして言う。
「さぁ、お前達は自由だ。好きにしろ。」
僕は、その大きな精霊二体と目が合った。
すると、その【上位精霊】達は、浮かびながら僕と同じ位の人の大きさになると・・・・・・・いきなり飛びついて僕に抱きついた。
!!!!!!!!!!!
瞬間。
その様子を見ていた者達は、感じた事のない巨大なプレッシャーと殺気に襲われた。
「ちょっ!ちょっと?君達?」
「・・・・・・・♡」
「・・・・・・・♡♡♡!!!」
「あっ。」
僕を嬉しそうに抱きしめていた【上位精霊】達は、見えない何かに首根っこを掴まれると、そのまま光の魔法陣に放り込まれて消えていった。
【上位精霊】達が消えると、同じ様にプレッシャーと殺気が消える。
辺りは静寂に包まれた。
暫くして、エリオットは皇帝の方を向くと頷く。
「・・・・・間違いないという事か。いや、すまない。ちょっとした余興の様な物だ。」
皇帝は小さなため息をつくと、僕に向き直って言う。
「さてソラよ。君達【星空】がこの世界で自由に探索する事を認めよう。・・・・・だが条件がある。」
「条件?」
「君達の世界とこの世界は、生活も、考え方も、風習も何もかも違う。そして国同士、様々な争い事もある。行った先々で、色々な事があるだろうが、君達はあくまで我が『ファイン帝国』の招待客。間違っても『ファイン帝国』に敵対したり、攻撃をしたりは絶対にしない事を約束して欲しい。これが条件だ。」
「分かりました!僕達はただ、この世界を探索したいだけですから。・・・・・でも、もし攻撃を受けた時はどうしたらいいんですか?」
「フム。・・・・・ないとは思うが、もし起こったら、それは私が望んでない事だ。その時は排除してもらって構わない。」
「分かりました!」
「あとは・・・・・そうだな。この世界の通貨の問題もあるだろう。数日間活動できる分位は、外交官の荒木に渡しておこう。もし長く滞在するのなら、この世界の通貨、【ギル】を稼がないと活動できないだろう。【ギル】はこの世界の通貨だ。君達が手っ取り早く稼ぐのなら、【冒険者】か【傭兵】がいいだろう。後でローガンに聞くといい。・・・・・して、他に何か要望はあるか?」
「何から何までありがとうございます。・・・・・・・では、一つだけお願いしてもよろしいでしょうか。」
「何だ?」
僕は片膝を付くと、親友達もそれにならう。
「・・・・・先程、こちらへ来るときに、エルフの奴隷に会いました。・・・・・そのエルフを頂けないでしょうか。」
「!!!・・・・・ソラ君!」
黙って聞いていた荒木は驚いて、僕の方を見る。
「フム。・・・・・何故だ?」
僕はわざとニヤリと笑う。
「はい。僕にとってエルフなんて初めてですし、奴隷がどんな者か飼ってみたいと思いまして!」
「飼う。フフフ・・・・・・・ハ~ハッハッハッ!なるほど、なるほど。そうか、そうか!この世界では珍しくも何ともないが、そちらでは初めてか。・・・・・よし。いいだろう。友好の証として、その奴隷を授けよう。それでよいな?」
「ありがとうございます!」
☆☆☆
「よろしかったのですか?」
隣にいる宰相が聞く。
「・・・・・あのエルフは【真実の目】を持っていて、計画に邪魔になるから攫ったのだが・・・・・・・もうすぐ『アルフリーン』国の準備は終わるのだろう?」
「はい。そう『魔国』から報告を受けております。」
「そうか。そしてエリオットよ。・・・・・・・どう感じた?」
エリオット将軍は皇帝の前に出ると答える。
「・・・・・本物ですね。彼と敵対するのは絶対に避けるべきと進言致します。」
「そうだね。あの時は先に帰ったから分からなかったけど、あれはヤバいね。」
レヴィ将軍が相槌を打つ。
皇帝は、真横で立っている真っ白な鎧を着て、金色の長髪を束ねている長身の男に聞く。
「テオ将軍にはどう見えた?」
「・・・・・・・あのプレッシャーと殺気。あれは今まで感じた事のない物だ。エリオットが言う、彼が【司る者】を召喚できるのは、おそらく間違いないでしょう。」
「・・・・・・・。」
『ファイン帝国』の七大将軍を統括している軍のトップでいて、エリオットとは違い、武力で世界最強と謳われた男。そのテオにここまで言わせるとはな。
皇帝はローガン宰相に言う。
「彼・・・・・ソラには出来るだけ大きな貸しを作りたかったからな。あのエルフで今後、彼が我々の敵にならないのなら安い物だ。もう用済みで処刑しようと思っていたが、生かしておくものだな。・・・・・ローガンよ。今後の彼らの予定は?」
「一度異界へと戻って、準備が整ったら、この世界へ本格的に探索をするそうです。」
「そうか。・・・・・彼らが再びこの世界へ来て探索を始めたら、定期的に動向を報告してくれ。」
「かしこまりました。」
皇帝ファイン=ハートは、椅子から立ち上がる。
「今回の彼らの謁見で異界への侵攻はなくなった。ならば、異界とは友好を結び、出来るだけあちらの技術と資源を得る様にする。その交渉はローガン宰相を中心とした文官達に任せる。・・・・・今は計画通り、敵対国を『魔国』を使って弱らせるぞ。」
「「「「「「「 ハハッ!!! 」」」」」」」
皇帝は将軍達を引き連れて謁見の間を後にした。




