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68話 悔しさ


「・・・・・・・で?結果はどうなった?」



ホワイトハウス内の大統領室で、アメリカ大統領、チャーチ・プリュードが言う。



「はい。『レベル0』のワイアットを中心に、上位探索者数名の協力の元、10歳前後の少年少女を数チーム集めてダンジョンへと潜りましたが、上層で断念したとの事です。ワイアット曰く、とてもじゃないが、この年齢でダンジョンに潜るのは自殺行為でしかない。・・・・・との事です。」


「そうか。」



大統領補佐官から報告を受けたチャーチは考え込む。



その様子を見ていた、チャーチの目の前に座っている国防長官が言う。


「ダメだったようだな。まぁ、我々軍が調べたが、同じ様にやっている【D8】の国々も、良い結果は得られなかったみたいだぞ。」


「ジャクソン長官。・・・・・そのようだな。特に中国は、少年少女を何百チームも作って潜らせたらしい。護衛の探索者を付けないでな。結果は、誰一人戻ってこなかったらしい。」


「・・・・・参りましたな。我々は、ある程度身体能力の高い子供を送り込んだが、上層のモンスターの攻撃にかすっただけで、腕が吹き飛んだらしい。ワイアット達上位探索者がいなかったら、中国の二の舞になってたでしょうな。」


「・・・・・・・。」




【星空】。



リーダーのソラを中心とした、『レベル0』が五人もいる世界最強の日本チーム。


『名もなき島』での異世界との戦い。


【星空】のおかげで、世界は救われ、新しい異世界との交流の足掛かりを作った。


その異世界にある『ファイン帝国』と【D8】が、この一年で何回か会談を行ってはいるが、まだ行き来できるのは【D8】の外交官と特別な要人だけ。双方の軍や探索者は許可されていない。もちろん一般人もだ。



【星空】の存在は、今、この世界で一番影響力が高い。



なぜなら我々は、【星空】がいるからこそ『ファイン帝国』と対等に交渉が出来て、そして抑止力にもなっているのだから。


だからこそ、【D8】を中心に各国は、第二の【星空】を育てる為に躍起になっている。



だが、ふたを開けてみれば、あまりにも不可能な現実。



そもそもダンジョンが現れた時に、鍛え上げられた軍が現代兵器をもって潜り、多大な犠牲が出たのだ。


そんな所へ、ダンジョン産の剣を持っていたとしても、力のない少年少女が生き残れるわけがないのだ。


それを【星空】は、インドダンジョンで幼い頃から上層だけでなく、中層、下層・・・・・そして【深層】まで行っていたというのだ。



「・・・・・ジャクソン長官。今はいい。今は同盟国、日本の【星空】がいるからいいが、もし今後、あの【ゲート】が永久にあるのだとしたら、【星空】とまではいかなくても、ワイアットレベルの探索者を早急に育てないといけない。」



国防長官は、プレジデントに頷くと大統領室から出ていく。



チャーチは見送った後、隣で控えていた補佐官に言う。



「【D8】で選出された日本の外交官、荒木から連絡があった。【星空】がとうとう動くらしい。すぐに神崎総理に連絡を。」


「分かりました。」



補佐官が大統領室から出て、一人になったチャーチは椅子に背を預け、ため息をつきながら呟く。



「フゥ。・・・・・今各国は、この世界より異世界・・・・・か。」



世界各国の関心事は、今、もっとも脅威であろう『ファイン帝国』だ。


何度か会談をして、あちらの世界では『ファイン帝国』の他に国があることが分かった。



それはどんな国で、どんな者達がいるのか。



『名もなき島』で脅威に感じたのか、【星空】のみが特例として自由に行き来できる事になっている。


だからこそ、正常化になってお互いがある程度自由に行き来できる様になるまでは、【星空】のリーダーが動画配信している『空ちゃんねる』のみが、情報源となる。



「・・・・・神崎にちゃんと動画配信する様に言っておかないとな。」



アメリカ大統領チャーチ・プリュードは、立ち上がると大統領室から出ていった。






☆☆☆






「おうソラ!今日は一人か?」


「珍しいですな。」


「ホントですな。」



サトルとミノル氏とマサキ氏が僕に気づいてやってくる。



ここは大学のカフェテラス。



探索者会合に参加した次の日だ。



今は、『ファイン帝国』の皇帝との謁見の調整を、外交官の荒木さんがやってくれている。


その日程が分かったら、担当のスズさんに連絡するとの事だから、その連絡待ちだ。


大学内のカフェテラスでお茶をしていた僕のテーブルに、腐れ縁の友達三人が座る。



「昨日テレビ観たぜ!お前達ふざけすぎだろw」


「いや。ソラ氏。皆カッコ良かったですぞ!」


「そうですな!黒のスーツが目立ってバッチグーですぞ!」



「おっ!分かる?僕が考えたんだよ!やっぱりあそこは目立ってなんぼでしょ!」



暫く友達三人と楽しく雑談していると、サトルが言う。



「そういえば珍しいな。今日は、【星空】メンバーは誰も来てないのか?」


「ん? 何か皆、今日は用事があるみたいなんだよね。」


「へぇ~そうなんだ。」




「よっ!ソラ!」


「ソラ君!たまにはサークルに顔出してね!」


「ソラ!今度コンパに来いよな!」


「ソラ君!次の動画配信が決まったら教えてね!」



サトルに返事をしている途中でも、他の知っている学生が僕を見かけて、笑顔で声をかける。


『空ちゃんねる』の動画配信者が僕と分かってからというもの、陰キャな僕でもよく声を掛けられる様になった。


今まで話しかけられる事は、腐れ縁の友達と親友達位しかいなかったから結構新鮮だ。



まぁ、悪い気はしないかな。



あぁ、そうそう。



三人が言うように、今日はめずらしく親友達が全員いない。



全員大学で揃った事はないが、大体一人か二人は一緒にいるんだけど、今日は誰もいなかった。



・・・・・・・スピカは変なお願い事をされたから、何をしているのかは分かるけど・・・・・・・皆、似た様な事をしているのかな?



まぁ、いつも誤魔化して触れてほしくないんだろうから聞かないけどさ。


ケガだけはしない様にしてほしいな。



「まぁ、久しぶりに僕達四人だけだから、終わったらゲーセン行かね?」



「おっ!いいね!」


「ソラ氏!賛成ですな!」


「私も行きますぞ!」



講義が始まる前の、ちょっとした一時だった。






☆☆☆






フランスダンジョン。


最下層・・・・・・・【深層】にある緑豊かな山脈。



その山脈の一番高い山の頂にある一本の木の下で、一人座禅をしながら瞑想をしている美しい女性がいた。



アカリだ。



アカリは、何時間もずっとその姿勢で瞑想をしていた。


静かに目を閉じて、ずっと同じ事を考える。




・・・・・・・『名もなき島』。



あの時、私はソラを守れなかった。


ソラに危険が迫っても、リーダー格を倒して満足し、全然周りが見えていなかった。



これは私の未熟が招いた最大の失敗。



大事なソラが、危険に晒される前に気づいて駆けつけていれば、あんな事にはならなかった。



・・・・・・・未熟だ。・・・・・本当に未熟すぎる。・・・・・もっと私が強ければこんな事にはならなかった。・・・・・強く。・・・・・もっと強く!・・・・・強く。強く。強く。強く。強く。強く。強く。強く。強く。強く。強く。強く。強く。強く。強く。強く。強く。強く。強く。強く。強く。強く。強く。強く。強く。強く。強く。強く。強く。強く。強く。強く。強くっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!



ドンッッッッッッ!!!!!



座禅をしているアカリは、隣にある巨木を力強く叩いた。



山の頂にある一本の巨木は、その衝撃で葉が沢山落ちる。


アカリの頭上から落ちる無数の落葉。


そのまま地面に落ちる瞬間。


無数の落葉が細切れに斬られて落ちていった。






☆☆☆






日本ダンジョン。


最下層・・・・・・・【深層】にある『妖精の森』。



2m近くある大柄な男が、更に大きい5mはある真っ白な毛で覆われている大きなサルと相対していた。



クウガだ。



そして相対しているのは、さる吉。



「ウホッ!ウホホッ!・・・・・ソラがいない。会いたかったのに。でも、お前達はいつでも来ていいと約束した。・・・・・でもいいのか?死んじゃうかもしれないぞ?ソラに怒られたり、嫌われたり、悲しませたりするのはやだぞ。」


「あぁ!安心しろさる吉!ちゃんと『ヒーラー』がいるから大丈夫だ!」



クウガの少し離れた木の下で、手を振るエイセイ。



「・・・・・そうか。それじゃ行くぞ。」


「こい!!!」



ドンッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!


バンッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!



さる吉は一瞬で立ち止まっているクウガとの距離をつめると、最大の力で無防備のクウガの腹に拳を叩きつける。



動く敵では、まず力が分散されてここまで強い力は出せない。


しかし、あらかじめ止まっているのが分かっていて殴るのなら話は別だ。



助走をつけた『妖精の森』の守護者の全力の拳。


モンスターとの戦いで鍛え上げられたクウガの体でも耐えられず、拳が突き抜け、体に穴が空いた。



「ゴハッッッッッッッッッッ!!!」



吐血し、血を噴き出しながら、地面へと倒れる。



「 『ハイヒール』!!!!! 」



クウガの周りが、濃い緑色のオーラに包まれる。



すると、見る見るうちに体の空いた穴が塞がった。



「ふぅ。・・・・・危なかったな。」


クウガは、口から出た血を拭いながら立ち上がる。



「ウホッ。私の時もすぐに直したけど・・・・・・・すごいな。エイセイの回復魔法は。」



エイセイは離れた所で、右手を前に出して構えていた。


クウガは後ろを振り向いて、エイセイに親指を立てると、さる吉に向き直って叫ぶ。



「さぁ!さる吉!もう一発だ!!!」




・・・・・・・『名もなき島』。



あの時、俺はソラを守れなかった。



ギガンに倒され、ソラに危険が及んだのは間違いなく俺のせいだ。



俺があの時、あいつの力をはね返して倒していれば、あんな事にはならなかった!



・・・・・・・弱い。・・・・・本当に俺は弱すぎる。・・・・・もっと俺に力があればこんな事にはならなかった。・・・・・力を。・・・・・もっと力を!・・・・・力を。力を。力を。力を。力を。力を。力を。力を。力を。力を。力を。力を。力を。力を。力を。力を。力を。力を。力を。力を。力を。力を。力を。力を。力を。力を。力を。力を。力を。力をっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!



俺はタンク。



ダメージを受ければ受ける程に、強く、そして硬くなれる。



他の【深層】のモンスターでは、今の俺の体にダメージを与えられるモンスターはあまりいない。・・・・・だが、さる吉なら話は別だ。



「こい!!!」



さる吉は頷くと、同じ様に助走をつけて拳を振り下ろした。




その様子を見ながら、エイセイは右手を前に出して、いつでも『ハイヒール』を撃ち込める様に構えている。




・・・・・・・『名もなき島』。



あの時、僕はソラを救う事が出来なかった。



小さい頃に救うを誓ったのに。



しかも『幽霊』達に救われるなんて。



・・・・・・・情けない。・・・・・本当に情けない。・・・・・もっと僕が離れていても、最大級の『ヒール』が撃てることが出来れば、こんな事にはならなかった。離れていても『ヒール』が使えるように。・・・・・届くように。・・・・・まだ足りない。・・・・・足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りないっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!



バンッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!



「 『ハイヒール』!!! 」



バンッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!



「 『ハイヒール』!!! 」



バンッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!



「 『ハイヒール』ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!! 」




静かな『妖精の森』で、二人の青年と、一匹のモンスターが、目を疑う訓練をずっと続けていた。






☆☆☆






同時刻。


同じく日本ダンジョン。


最下層・・・・・・・【深層】にある『妖精の森』の外れ。



そこにいるのは一人の可愛い小さな女性と、百匹近くはいるだろうか、その女性を囲むように3m近い白いサルと白いゴリラ達。



その小さな女性・・・・・ココセはサルとゴリラ達に言う。



「・・・・・ありがと。協力してくれて。・・・・・安心して。殺す事はしないから。」



さる吉に言って、協力してもらっているサルとゴリラ達は跳ねながら喜んでいる。



ココセはゆっくりと構えた。




・・・・・・・『名もなき島』。



あの時、私はソラを守れなかった。



小さい頃、ソラが私を守ってくれた時に、今度は私が守ると誓ったのに。



どんなに離れていても、いつでも駆けつけられる様、ソラを守る為に身に付けたスピード。



結局間に合わなかった。



いったい何の為のスピード!!!



・・・・・・・最低。・・・・・本当に最低だ私は。・・・・・もっと私が速ければこんな事にはならなかった。・・・・・速く。・・・・・もっと速く。・・・・・速く。速く。速く。速く。速く。速く。速く。速く。速く。速く。速く。速く。速く。速く。速く。速く。速く。速く。速く。速く。速く。速く。速く。速く。速く。速く。速く。速く。速く。速く。速く。速く。速く。速くっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!



一斉に、もの凄い速さで大勢のサル達がココセに襲いかかる。ゴリラ達は逃げられない様にココセを中心に囲っている。



ココセは、縦横無尽に襲いかかるサル達を見ながら、攻撃を受ける瞬間。



残像を残して消えていった。






☆☆☆






カナダダンジョン。


最下層・・・・・・・【深層】にある何もない砂漠地帯。



そこに、赤い髪をした美少女が立っていた。



スピカだ。



目の前には、空中に浮かんで、つまらなそうに横になりながら欠伸をしている3mはある青い髪をした美しい女性がいた。



その女性はため息をつくと、ゴミを見るような目でスピカに言う。



「・・・・・はぁ。何でこんなくだらない時間を作らなきゃいけないのよ。・・・・・まったく。」



心底やがっている、その青い髪の女性を見ながらスピカは思う。




・・・・・・・『名もなき島』。



あの時、私はソラを守る事が出来なかった。


しかも、こともあろうに、『幽霊』達に守られたのだ。



この『幽霊』達。



何故ソラに付きまとっているのか分からない。


『幽霊』達は、ソラが召喚している訳でもなく、契約している訳でもない。ただの気まぐれだ。そんな者達に頼るわけにはいかない。・・・・・今回は、たまたま助けてくれた。・・・・・屈辱。・・・・・屈辱でしかなかった。



つまらなそうに【ディーレ】はスピカを見る。






ーーーーーーーーーーーー昨日の夜。ソラの部屋。ーーーーーーーーーーーーーーーー



「ねぇ。【ディーレ】。明日、スピカに付き合ってやってよ。」


「・・・・・・・・・・・・・!!!」


「うん?いやだって?・・・・・いたっ!いたたっ!急に前に斬られた頬が痛い!」


「!!!・・・・・・・・・・・・・!~!!・・・・・・・・・・・・・!!!」


「ハハハッ!今回だけ特別?ありがとう【ディーレ】。」



ソラは【ディーレ】の頭を撫でる。



嬉しそうだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。・・・・・ソラに頼まれちゃったから仕方なく・・・・・本当に仕方なくよ?いい?ちゃんとソラに私の事をすごく・・・・・すごぉぉぉぉぉぉぉぉぉく!よく言っておくのよ?」



ソラが言っている『幽霊さん』。



勝てるとか、戦えるとか、そういう次元じゃない事が、相対するとよく分かる。



『存在そのもの』が違いすぎるのだ。



でも、戦いにもならないだろうこの戦いで、少しでも何か得られる物があれば!



「・・・・・・分かりました。本当にお付き合い頂いて、ありがとうございます。」



スピカは深々とお辞儀をする。



私が、全てを魔法で殲滅出来ればあんな事にはならなかった。



・・・・・・・圧倒的な魔法で。・・・・・圧倒的な破壊力で。・・・・・どんな場所でも。・・・・・どこからでも!・・・・・強力な魔法を。強力な魔法を。強力な魔法を。強力な魔法を。強力な魔法を。強力な魔法を。強力な魔法を。強力な魔法を。強力な魔法を。強力な魔法を。強力な魔法を。強力な魔法を。強力な魔法を。強力な魔法を。強力な魔法をっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!



「お願いします!!!」



スピカは両手を上げると魔法を唱えた。








何もない辺り一面の砂漠が、灼熱の炎で覆われたかと思うと、一瞬で全てが凍り付いた。




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