59話 ソラへの想い 3
目覚まし時計が鳴る。
夏休み期間中はセットしない人間なのだが、今日だけは寝坊するわけにはいかない日だ。
昨日はエイセイと夜中までずっとゲームに勤しんでいた。
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
もう何回言っただろうか。
結局、遠征から三日間しか引きこもれていないという最悪な状況が続いている。
何とか寝る前に、遠征時の編集作業と動画アップが出来ているのだけが救いだ。
今日は大切な日。
引きこもりは明日からと切り替えて、僕は準備をする。
髪を軽くセットして、Tシャツは僕の一張羅のアニメシャツ。ジーンズをはいて、腕にはちょっと奮発して買った時計を付ける。
後は限定モデルのスニーカーを履けば完璧だ!
ピンポ~ン♪
「こんにちは~♪」
「スピカちゃんだ~♪キャー!その浴衣可愛い!」
「スピカちゃん!私もよく見せて!」
「あら~!スピカちゃんこんにちは。今日だったわね。花火大会。とっても似合っているわよ!やっぱり元がいいから何を着ても本当に良く似合うわ!ソラ?ちょっと待ってね。この日はね。あの子も珍しく早起きするのよ♪ソラ~!スピカちゃんが来たわよ!早く来なさ~い!」
玄関に行くと、母親と妹達がいつもの様に騒いでいる。
「・・・・・お兄ちゃん!今度ちゃんと服装チェックしてあげる!まったく・・・・・・あまりにも違いすぎるじゃない!」
そして僕のコーディネイトを見て、毎回文句を言うのだ。
僕はうるさい妹達をおいて、スピカと海へ向かう。
今日は毎年恒例の花火大会だ。
僕とスピカはホントに小さい頃から・・・・・そう、幼稚園の頃からずっと二人で見に行っている。
僕は腕と腕を絡ませて歩いているスピカを見る。
赤い金魚が泳いでいる絵の入った、真っ白な浴衣を着ている。
美しい赤い髪と、白い肌。そして真っ青な瞳。
さっき母さんが言っていたが・・・・・・・もうね。元が良すぎるのだ。
こんなに綺麗で可愛い女の子だから、何を着てもホントに良く似合う。
僕は、アカリとココセは日本一綺麗で可愛い女の子と思っているが、スピカは次元が違う。
世界一・・・・・いや、宇宙一綺麗で可愛いと断言できる。
それ程、現実離れした容姿を持っていた。
「何よ。」
僕が隣でじっと見ていたのが気になったのか、ジト目で僕を見る。
「うん?あぁ、ごめんごめん。スピカが可愛すぎてさ!見とれちゃった♪ その浴衣。とてもよく似合うよ!」
「なっ!あっ、当たり前でしょ!・・・・・ほっ、ほら!行くわよ!」
白い肌を真っ赤にさせながら、腕に力を入れて歩くスピカ。
おっふ。
薄い浴衣から伝わる胸が、僕の腕にダイレクトアタックする。
僕は自然と顔がデレデレになった。
・・・・・腕に全集中だ!!!そしてこの感触をいつでもロード出来る様にセーブさせるのだ!!!フフフフフ。これで数週間は大丈夫だな!!!・・・・・遠征時にあったコメントで、何が大丈夫なのか分からなかったが・・・・・今、とてもよく分かった。
僕達は海辺にある花火大会の会場まで来た。
屋台が軒を連ねている。
いつも打ち上がる時間の数時間前に来て、屋台を見てまわるのが楽しみの一つだ。
見るとすでに人が多い多い。流石、有名な花火大会だ。
「ねぇねぇ、ソラ。まずは端から見てまわろうよ♪」
「だな!行こう行こう!」
スピカが、さらに腕に力を入れて僕にくっつく。
おっふ。
・・・・・よし。これで一ヶ月は大丈夫だな!
ふと見ると、すれ違う人達全てがスピカを凝視する。
男女関係なく、全ての人がだ。
二度見する人もいた。
そして、たまに会話も聞こえてくる。
「・・・・・あれ、スピカちゃんじゃね?動画以外で初めて見た!うぉぉぉぉぉ。・・・・・マジで可愛いな!」
「・・・・・何あの子。ハーフ?・・・・・すごく綺麗。」
「・・・・・なぁ。隣にいるマスクしている奴。あれ、まさか彼氏じゃないよな?」
「・・・・・まっさか~♪ あんなダサい格好して、いくらなんでも不釣り合いすぎるでしょ。」
「・・・・・もしかして、リーダーのソラじゃね?メンバーと幼馴染って言ってたし。しっかし、あの格好はないわな。」
見慣れた光景だった。
スピカがあまりにも綺麗だから、どうしても目立ってしまう。
僕は気にせずに、スピカと一緒に屋台巡りを楽しんだ。
☆☆☆
バスから降りて、ある場所へと私達は向かっている。
空間移動魔法を使えばすぐなんだけど、ここでは使わない。
ソラは隣でゆっくりと歩く。
時折私を見ながら。
下駄を履いているから、私のペースに合わせてくれている。
屋台を楽しんだ私達は、打ち上げの一時間前には、その場を離れていつもの場所へと向かっていた。
鳥居の前まで来るとソラが言う。
「よし!あとは登るだけだな!・・・・・・・どうぞお嬢様♪」
ここから神社までは、延々と階段が続く登りだ。
私は浴衣と下駄だから、いつもソラが私をおぶって登ってくれる。
「それじゃ、よろしくね♪」
私はソラの背に乗ってギュッと抱きしめる。
「・・・・・おっふ。」
「何か言った?」
「ん?何も言ってないよ?さっ!行くか!」
ソラが私を担いで登っていく。
・・・・・・・私とソラが出会ったのは、幼稚園の頃だった。
他の幼馴染四人との出会いは小学校の時だったから、他の誰よりも早い。
私は赤い髪と白い肌のせいで、他の子供達とは違っていたから、よくからかわれたり、いじめられたりしていた。
そんな時に、ずっと隣で私を守って、一緒に遊んでくれた子。
それがソラだった。
ソラといると、とても楽しかった。
幼稚園で遊んで、外でも遊んで、休みの日にも遊んで、家でも遊んだ。
食事と寝る時以外は、ずっとソラと遊んでいた。
・・・・・もうその時から私はソラが好きだった。
数年だけ仕事の関係で、父と母と一緒に日本に住んでいたけど、小学生になったある日。フランスに帰ると父に告げられて、私は猛反対。家を飛び出して大騒ぎになった。私が泣きながらソラの所へと行くと、ソラは私の手を握って一緒に両親に頼み込んだのを今でも覚えている。
ーーーーーーーーーーーー小さい頃ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ニコル!お願いします!スピカを連れて行かないでください!」
ソラが父の前で土下座をしている。
「ソラ君!やめなさい!・・・・・う~ん。そんな事を言われてもなぁ。」
「僕はスピカが大好きなんです!スピカじゃなきゃダメなんです!スピカがやじゃなければ、僕が一生守ります!だからお願い!ニコル!」
「・・・・・・・ニコルさん。」
隣にいる美しいお母さんがニコルを優しく見つめる。
父は困った顔をした後に、深くため息をついた。
「はぁぁぁぁぁぁぁ。低学年の小学生に娘をくれと言われるとは思わなかったよ。・・・・・分かった。あぁ分かったよ!私だけ行けばいいんだろ!ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ソラは立ち上がると、私の方を振り向いて、とても嬉しそうに笑顔で言う。
「スピカ!よかったな!これでずっと一緒にいられるな!」
「うん!!!」
私はソラに抱きつく。
「こらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!私は絶対に認めないぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
父が凄い顔をして私達を引きはがした。
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忘れることは出来ない、私の大切な思い出の一つ。
「よし!着いたな!」
ソラが私を優しく降ろす。
探索者ならこんな登りは大した事はないが、ソラは『レベル1』で普通の人だ。毎回やせ我慢しているのが分かる。
でも、カッコいい所を見せたいのが分かるから黙っててあげる。
私達は、神社の裏手にまわった。
そこは海辺が見渡せる、とっておきの場所。
ソラは持ってきたシートを広げると、私と一緒に並んで座る。
屋台で買った焼きそばや飲み物を置いてスタンバイすると、ソラが海に指をさして楽しそうに言う。
「スピカ!始まるみたいだ!」
海を見ると、赤い玉が上空へと上がった。
大きな音と共に、弾ける火花。
それに続いて次々と打ち上がった。
「綺麗・・・・・・・。」
毎年、この日、この時間にソラと一緒に見る花火。
私の一番大切な時間。
親に怒られて、落ち込んでいた私を連れて行ってくれた大切な場所。
ーーーーーーーーーーーー小さい頃ーーーーーーーーーーーーーーーー
「綺麗・・・・・・・。」
目の前で打ち上がる花火は、小さい私にとって、とても大きくて綺麗な光り輝く花のように見えた。
「よかった!気に入ってくれたみたいだね!」
手を握って隣に立つソラが嬉しそうに話す。
「ここはね。僕のとっておきの場所なんだ!誰にも教えたくなかったけど、スピカには特別に教える!だって未来の花嫁さんだもんね!」
「うん!」
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私は隣で座って花火を見ているソラを見る。
小さい頃からずっと一緒だった。
ソラはこう思ったら絶対に曲げない、芯の強い子だった。
だから無茶をする。
アカリの時も、クウガの時も、ココセの時も、そしてエイセイの時も。
アカリの時は会議室にうまく誘導させて、クウガの時は一緒にお願いをして、ココセの時は警察を呼んで、そしてエイセイの時は助けと救急車を呼んだ。
幼馴染が沢山出来て、とても嬉しかったけど、ずっと心配だった。
私はソラが大事。・・・・・・・そして好き。
だから、ソラから『魔法』っていう言葉が出た時、ためらいなく魔法使いになろうと思った。
私が強くなれば、どんな時でもソラを守る事が出来るから。
「・・・・・・・ねぇスピカ。僕はね。ずっとお礼が言いたかったんだ。」
打ち上がる花火を見ながらソラは言う。
「お礼?」
「あぁ。」
ソラは私を見ると続ける。
「スピカ。小さい時から今までずっと僕を見ててくれてたよね。・・・・・多分、スピカがいなかったら、僕はここにいなかったかもしれないからさ。だから、親友が増えて、中々言うタイミングがなかったけど・・・・・・・ありがとう。スピカ。」
私は目を見開く。
「ばっ!バカね!ソラはいつも危ない事をするから、私が見てあげないとダメでしょ!」
「ハハハッ。そうだね。」
「・・・・・・・で?それで終わり?」
「ん?」
私はソラに抱き着いて、頬にキスをする。
「おっふ。」
ソラは変な声を出して私を見る。
「おっ、お礼を言ったからそのお返しよ!・・・・・感謝しなさい!」
真っ赤な顔をして私は言う。
「あっ。そういう事ね!・・・・・ごちそうさまです!」
「・・・・・・・バカ。」
花火が打ち上がる。
ソラ。
貴方が好き。
大好き。
小さい時から今も変わらず。
そしてこれからもずっと。
ライバルが増えたけど、私は貴方を追い続ける。
そしていつかきっと・・・・・・・・。
海辺から夜空に打ち上がり、花の様に広がって散っていく花火は、二人で見ている私達を、優しく祝福してくれているみたいだった。




